魔王を以て魔王を制す ~ギフト『魔王』を持つ勇者~

こげ丸

文字の大きさ
上 下
41 / 44

【第41話:真魔王ラウム その7】

しおりを挟む
 アルテミシアと別れたレックスは、国王が乗っていると思われる馬車に近づくと、馬の歩みを徐々に弱め、そのまま停止すると反転させて走り出す。
 そして、馬車が追い付いてこれるように速度を調整することで、馬車が速度を落とすことなく並走できるようにもっていった。

「私はこの国の勇者レックスです! 国王様はご無事ですか!?」

 レックスが並走しながら御者の男に問いかけると、馬車の運転に集中しながらも、何とか返事をしてくれた。

「は、はい! 病はまだ治っておりませんが、ご無事です!」

「良かった……。それで、こちらからの連絡は入っておりますか? 私たちがヘクシーの街まで護衛させて頂きますので!」

「聞いております! ど、どうかお守りください! う、後ろに魔王軍が、もうそこまで迫ってきているのです!」

 御者の男がそう言った時だった。
 視界が一瞬白く染まり、少し遅れて爆発音が響き渡った。

「ひぃぃ!?」

 さらに、雄叫びと共に断末魔のような叫び声が次々と聞こえて来る。

 御者は自分たちが襲われたと思って短い悲鳴をあげたが、レックスは後ろを振り返ると苦笑いを浮かべていた。

「これはまた……さすがにこれは予想していなかったな。という事は君たちも?」

 そして、馬車を守るように展開して並走している影狼騎士団の騎士の一人に、そう問いかけた。

「君たちもと言うのが、私たちも空を駆けれるのか・・・・・・・・という事でしたら、もちろんですとお答えする事に」

 レックスは知る由もないが、それはケルが魔族たちを倒す時に使ったスキルと同じものだった。

「我々『影狼騎士団』は、信仰による加護を受け、ステルヴィオ様と同様に、空を駆け、影を潜り、敵を穿つ槍を使えます」

 ステルヴィオ自身は剣を好むのであまり使っていないが、闇を槍に纏わせて、離れた敵を穿つスキルも授けられていた。

「ははは。そうですか。騎士全員がそのような事が出来るとか、何かもう出鱈目な強さの騎士団ですね……」

 その上、合流した時に見せて貰った模擬戦から、一人一人の技量は自分と近しい技量だったので、もうレックスは笑う事しかできなかった。

「どうされたのですか?」

 しかし、どうして苦笑いを浮かべているのかわからず騎士がそう尋ねると、

「すまない。ちょっとあまりにもレベルの違いを見せつけられてばかりなものでね。でも……確かに負ける事は無いけど、一匹残らずというのは難しいようだ」

 と言って、空の一点を見つめる。

「では、我々が……」

「いや、ここは僕たちに任せてくれないか。あの程度の数で、しかも魔族ではなく魔物なのだ。少しは僕たちも働かないとね」

 レックスのその言葉に、並走しているパーティーメンバーたちも力強く頷きを返す。
 そして影狼騎士団の騎士は、そのやり取りを見て笑みを浮かべると、

「じゃぁ、我々が責任を持って国王様を護衛させて頂きますので、存分に暴れてきてください」

 と言って、レックスたちと場所を入れ替わるように馬車の横へとついた。

「じゃぁ、僕たちも働くよ!」

 こうして、アルテミシアとレックスたちは、魔王軍との戦いを始めたのだった。

 ~

 一方その頃、自身に付き従う真魔王軍『天』の眷属の数が急激に減っていっている事に気付いた魔王ラウムは、久しく味わった事のない得体のしれぬ恐怖を味わっていた。

「い、いったい何が起こったというのよ!? 私の眷属がもう半分も残っていないじゃない!」

 この世界で空を飛べるというのは、それだけで圧倒的に有利な事だった。
 もし、負けそうになったとしても、撤退に失敗することもまずない。
 だと言うのに、撤退することすらできず、二十万もいた魔物の眷属はもはや五万を切っている。
 おまけに貴重な魔族の眷属のうち、国王と思われる馬車を追わせていた魔族たちも既に繋がりが消えている上、街の人間どもを皆殺しにするように指示した魔族たちまでもが、次々に殺され、その数を急速に減らしていっていた。

「そもそも、魔王門の反応まで消えているってどういうことよ!? そんな事ができるのなんて私たち真の魔王ぐら……ま、まさか『地』か『水』が仕掛けてきた……?」

 真魔王の『天』『地』『水』は、並べて話される事が多いのだが、仲はあまりよくはない。
 お互いが一目を置いているために、直接衝突こそした事はないが、仕掛けて来てもおかしくないと思える程度には、仲も良くなかった。

「なんだ? 真魔王たちって仲悪いのか?」

 しかし、ステルヴィオは初耳だったようだ。

「そんなの当たり前じゃな……だれ!?」

 あまりにも自然に話しかけられたので、思わず普通に答えそうになる真魔王ラウム。

「な、何者だ!?」

 その異常事態に側近の魔族が気付き、すぐさま誰何しつつ魔法を放ったのだが……、

「おいおい。今ので死んでたら何者か答えられねぇじゃねぇか……」

 ステルヴィオは拳に部分的に魔王覇気を纏わせて虫でも払うように打ち消した。

「なっ!? 我が破壊魔法をいとも簡単に!?」

「へぇ~破壊魔法とか初めて聞いたな。だけど、何も破壊できなかったみたいだぞ?」

「くっ!? お前たち何をしておる! その者を殺せぇ!」

「なんだよ? 人に何者だって聞いておきながら、答えさせてもくれないのかよ?」

 ステルヴィオが話している間にも周りにいた魔族たちが、次々と強力な魔法を放っていく。

 しかし、一瞬で全身を魔王覇気で覆ったステルヴィオは、微動だにせずに、全ての魔法を受け切ってみせた。

「ま、まさか……貴様、魔王なのか!?」

 魔族がいくら強いと言っても、魔王には勝てない。
 魔王覇気を使われたのを見て、魔族たちの警戒ランクが一気に跳ね上がった。

 そして、最初こそ興味無さそうに側近の魔族に対応を任せていた魔王ラウムだったが、その人間が魔王覇気を使った事に興味を持ち、片手をあげて攻撃をやめさせると、玉座から降りて近づいていった。

「へぇ~、人から魔王が生まれるとは、これまた珍妙な事もあるもね。あなた、名前は?」

 しかし、魔王らしい余裕をみせるその態度は、次の一言で簡単に消え失せた。

「今さら教えてやんねぇ~」

「なっ!? なんなの! このクソガキ! こ、この私を馬鹿にしたわね!!」

 そしてキレた……。
 でも、その言葉に今度はステルヴィオが、

「く、クソガキじゃねぇよ!? も、もう立派な大人だってぇの!!」

 同じくキレた……。

 このような場にらしからぬ幼稚な言い合いの中、しかし最強クラスの二人の魔王の戦いが、今始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...