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【第40話:真魔王ラウム その6】
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ところ変わって、ここは冒険者の街ヘクシーから王都へと続く街道。
そこには勇者レックスとそのパーティーメンバー、そして、アルテミシア率いる叛逆の魔王軍『影狼騎士団』が、国王を迎えるために駆けていた。
「アルテミシアさん! 僕たちだけで本当に良かったのですか?」
馬を駆りながら、勇者レックスがアルテミシアに声をかけてきた。
魔界門から自身の配下である『影狼騎士団』の騎士たちを呼び寄せたアルテミシアは、ステルヴィオたちと別れ、ヘクシーの街に向かい、先ほど合流したところだった。
「はい! まずは新魔王軍の魔物より先に、国王様と合流するのが最優先です! それに、負けるつもりはサラサラありませんが、魔物を一匹も逃がさずとなると人数の問題から難しいです。ですので、冒険者の方々にはヘクシーの街を守って頂いている方が、安心して戦う事ができますから!」
その言葉を聞いて、勇者レックスは苦笑する。
どのような連絡手段を使ったのかはわかならないが、先ほどゼロから連絡を受けたアルテミシアが言うには、こちらに向かっている真魔王軍『天』の魔物の数は、五万にものぼると言う。
それに対してこちらは勇者レックスのパーティーと、アルテミシア率いる『影狼騎士団』の騎士一〇〇名のみ。
「レックス様。私はもう深く考えないようにしようとは思っていたのですが、正直怖いです……」
レックスとアルテミシアの会話を聞いていた魔法使いのソリアが、その数を想像して思わず身震いする。
「すまないねソリア。まぁこの戦いは神託も関係していることだし、皆も覚悟は決めているのだろうけど、怖いのは同じさ。僕も含めてね」
そう言って肩を軽くあげておどけてみせるレックスの姿に、ソリアだけでなく、盾持ちの戦士ゾット、弓使いのザーダ、回復魔法の使い手のリリスも頷き、笑みを返す。
「あの~? そんな心配しなくても大丈夫だと思いますよ~?」
しかし、そこへ話しかけてきた者がいた。
少し赤みがかった髪が特徴的な二〇歳前後の普通の女性に見えるが、実際は影狼騎士団の副団長を務めており、その名を『シーナ』という。
「シーナさん、しかし、相手は五万もの魔物の軍ですよ?」
「魔神とステルヴィオ様の加護を受けた我々の敵ではありませんよ~」
影狼騎士団の騎士たちは、皆騎士と呼ぶには少し軽装のハーフプレートを身に纏い、ダイアウルフという恐ろしい魔物に乗って後ろを駆けていた。
その騎士団に所属する者たちは、全員人ではあるものの、遥か昔、魔神を信仰していたために迫害され、追放された流浪の民の末裔らしい。
そして、魔神によりギフト『魔王』に加護を受けたステルヴィオは、彼ら彼女らにとっては、紛れもない勇者だった。
「そ、そうですか。僕ももっと勇者として成長しないといけないですね」
「ゼロ様に鍛えて貰います? 地獄を覚悟すれば短期間で強くなれますよ~?」
「えっ……い、いや、それは出来れば遠慮したい、かな?」
「そですか~。まぁ気が向いたらいつでも言ってください。レックス様なら喜んで鍛錬への参加許可を下さると思いますよ~」
「あはははは……とりあえずこの戦いが終わったら考えておくよ」
とりあえずレックスが断ってくれたことを、パーティーメンバーたちがホッと胸を撫でおろした時だった。
「レックス様! あの馬車じゃないですか!?」
「ちょっとここからじゃ断定はできないけど、たぶん間違いないと思う! っ!? 後ろの空が黒い! 間違いない! あれが国王様の馬車のはずだ!」
レックスの返事を聞くと、アルテミシアは後ろを振り返り、
「シーラさん! 影狼騎士団は馬車の進行を妨げないように左右に展開して、そのまま後ろに迫っている敵を討ちます!」
と指示を出す。
「レックス様! レックス様は先の打ち合わせ通り、国王様と合流してそのままヘクシーの街まで護衛を! うちの騎士五名もつけますので!」
そして、合流した時に打ち合わせた通り、レックスに国王の護衛を任せる。
騎士五名をつけて街まで護衛をするようにというその話に、最初は抵抗をみせたレックスだったが、影狼騎士団の騎士たちの実力を目の前で実際に軽く見せられては、断る事が出来なかった。
「わかった! アルテミシアさん、あなた達の実力はわかっているつもりだが、それでも数が数だ。君たちも気をつけて!」
「ありがとうございます! 正面から戦えば負ける事はありません! ですが、五万の空飛ぶ魔物を一匹も通さない事は不可能ですので、レックス様も十分気をつけてください! こちらの受け持ちが終わった者からヘクシーの街へも援軍が向かう手はずになっていますが、それまでは何とかご無事で!」
国王の馬車にも魔導サインにより、この作戦は伝えられている。
一瞬、狼の魔物を駆る異様な騎士団の姿に御者が驚きを見せたが、そのまま速度を落とさず、作戦通りに街道をこちらに向けて駆け抜けて来た。
「それでは、アルテミシアさん! ご武運を!」
こうして、アルテミシアとレックスたちは、その役目を全うするため、それぞれの道に分かれたのだった。
そこには勇者レックスとそのパーティーメンバー、そして、アルテミシア率いる叛逆の魔王軍『影狼騎士団』が、国王を迎えるために駆けていた。
「アルテミシアさん! 僕たちだけで本当に良かったのですか?」
馬を駆りながら、勇者レックスがアルテミシアに声をかけてきた。
魔界門から自身の配下である『影狼騎士団』の騎士たちを呼び寄せたアルテミシアは、ステルヴィオたちと別れ、ヘクシーの街に向かい、先ほど合流したところだった。
「はい! まずは新魔王軍の魔物より先に、国王様と合流するのが最優先です! それに、負けるつもりはサラサラありませんが、魔物を一匹も逃がさずとなると人数の問題から難しいです。ですので、冒険者の方々にはヘクシーの街を守って頂いている方が、安心して戦う事ができますから!」
その言葉を聞いて、勇者レックスは苦笑する。
どのような連絡手段を使ったのかはわかならないが、先ほどゼロから連絡を受けたアルテミシアが言うには、こちらに向かっている真魔王軍『天』の魔物の数は、五万にものぼると言う。
それに対してこちらは勇者レックスのパーティーと、アルテミシア率いる『影狼騎士団』の騎士一〇〇名のみ。
「レックス様。私はもう深く考えないようにしようとは思っていたのですが、正直怖いです……」
レックスとアルテミシアの会話を聞いていた魔法使いのソリアが、その数を想像して思わず身震いする。
「すまないねソリア。まぁこの戦いは神託も関係していることだし、皆も覚悟は決めているのだろうけど、怖いのは同じさ。僕も含めてね」
そう言って肩を軽くあげておどけてみせるレックスの姿に、ソリアだけでなく、盾持ちの戦士ゾット、弓使いのザーダ、回復魔法の使い手のリリスも頷き、笑みを返す。
「あの~? そんな心配しなくても大丈夫だと思いますよ~?」
しかし、そこへ話しかけてきた者がいた。
少し赤みがかった髪が特徴的な二〇歳前後の普通の女性に見えるが、実際は影狼騎士団の副団長を務めており、その名を『シーナ』という。
「シーナさん、しかし、相手は五万もの魔物の軍ですよ?」
「魔神とステルヴィオ様の加護を受けた我々の敵ではありませんよ~」
影狼騎士団の騎士たちは、皆騎士と呼ぶには少し軽装のハーフプレートを身に纏い、ダイアウルフという恐ろしい魔物に乗って後ろを駆けていた。
その騎士団に所属する者たちは、全員人ではあるものの、遥か昔、魔神を信仰していたために迫害され、追放された流浪の民の末裔らしい。
そして、魔神によりギフト『魔王』に加護を受けたステルヴィオは、彼ら彼女らにとっては、紛れもない勇者だった。
「そ、そうですか。僕ももっと勇者として成長しないといけないですね」
「ゼロ様に鍛えて貰います? 地獄を覚悟すれば短期間で強くなれますよ~?」
「えっ……い、いや、それは出来れば遠慮したい、かな?」
「そですか~。まぁ気が向いたらいつでも言ってください。レックス様なら喜んで鍛錬への参加許可を下さると思いますよ~」
「あはははは……とりあえずこの戦いが終わったら考えておくよ」
とりあえずレックスが断ってくれたことを、パーティーメンバーたちがホッと胸を撫でおろした時だった。
「レックス様! あの馬車じゃないですか!?」
「ちょっとここからじゃ断定はできないけど、たぶん間違いないと思う! っ!? 後ろの空が黒い! 間違いない! あれが国王様の馬車のはずだ!」
レックスの返事を聞くと、アルテミシアは後ろを振り返り、
「シーラさん! 影狼騎士団は馬車の進行を妨げないように左右に展開して、そのまま後ろに迫っている敵を討ちます!」
と指示を出す。
「レックス様! レックス様は先の打ち合わせ通り、国王様と合流してそのままヘクシーの街まで護衛を! うちの騎士五名もつけますので!」
そして、合流した時に打ち合わせた通り、レックスに国王の護衛を任せる。
騎士五名をつけて街まで護衛をするようにというその話に、最初は抵抗をみせたレックスだったが、影狼騎士団の騎士たちの実力を目の前で実際に軽く見せられては、断る事が出来なかった。
「わかった! アルテミシアさん、あなた達の実力はわかっているつもりだが、それでも数が数だ。君たちも気をつけて!」
「ありがとうございます! 正面から戦えば負ける事はありません! ですが、五万の空飛ぶ魔物を一匹も通さない事は不可能ですので、レックス様も十分気をつけてください! こちらの受け持ちが終わった者からヘクシーの街へも援軍が向かう手はずになっていますが、それまでは何とかご無事で!」
国王の馬車にも魔導サインにより、この作戦は伝えられている。
一瞬、狼の魔物を駆る異様な騎士団の姿に御者が驚きを見せたが、そのまま速度を落とさず、作戦通りに街道をこちらに向けて駆け抜けて来た。
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