34 / 44
【第34話:反撃の時】
しおりを挟む
勇者レックスは馬に乗り、仲間と共に草原を抜ける街道を駆けていた。
焦る気持ちとは裏腹に、新緑の緑がその香りを風に乗せて届けてくれ、これが何もない平凡な日ならばと、ふとそんな考えが頭に浮かぶ。
「僕の力で守れるものなんてたかが知れているんだろうな……ほんとダメだな。こんな事を考えてしまうなんて……」
少し後ろを振り返れば、自分を信じて着いてきてくれる仲間の姿があった。
パーティーの守りの要、盾持ちの戦士ゾット。
針の穴を通すような命中精度を誇る、弓使いのザーダ。
上位属性の雷撃を使いこなす、魔法使いのソリア。
まだ13歳の少女でありながら、凄腕の回復魔法の使い手、リリス。
みんな僕にとっては勿体ないほどの優秀な仲間だ。
「さぁみんな! 魔導サインで指定された場所はもうすぐだ! 警戒を怠らないでくれ!」
「「「「はい!」」」」
レックスはその言葉を受け、「信じてくれる仲間がいれば、僕は強くなれる」と、想いを新たにするのだった。
~
レックスたちが国王と合流しようとしていたその頃、シュガレシアの街でもまた、大きな動きが起ころうとしていた。
ステルヴィオたちは、アグニスト王太子らとも合流をはたすと、一旦、シュガレシアの街に入って体制を整え、真魔王軍『天』を討つため、こちらから打って出る事になったのだ。
道中で怪我を負った何人かは離脱する事になったが、僅かな休息と食事をとったあと、今は皆シュガレシアの門の外に陣形を組み、出発の時を待っていた。
「アグニスト殿下。今から我々はこの戦いが終わるまで、あなたの指揮下に入ります」
「あぁ、感謝する。父はレックスが迎えにあがるという事だから、滅多なことは起きないだろう。もちろん我々が勝てばの話だけどな」
近衛騎士団と風雅騎士団は国王の直轄の騎士団なのだが、これからステルヴィオが戦闘を仕掛けるという事で、急遽アグニスト王太子を旗印に王都奪還をアピールする事になり、その指揮下に入る事になっていた。
「ステルヴィオ殿たちが空を受け持ってくれるのなら、今度こそ我々風雅騎士団もお役に立ってみせます!」
風雅騎士団を預かる若き団長シイラルスが、その決意を口にするが……、
「これは非常に言いにくい事なのだが、これも私の役目だろう。シイラルス、それからドリス……今回、君たちの騎士団には、積極的に戦闘に参加してもらうつもりはない」
アグニスト王太子によって、その機会はないと否定されてしまう。
「え……な、何故です!?」
「シイラルス」
思わず立ち上がり、声をあげてしまったシイラルスを、ドリスが窘める。
「は!? し、失礼しました。しかし、せめてその理由をお聞かせ頂けませんか?」
それでもシイラルスは、せめてその理由だけでもと食い下がる。
シイラルスのその気持ちは、アグニスト王太子も理解していた。
王都で襲われてからこの方、自慢の剣の腕を振るう事も出来ず、ただただ逃げてここまで来たと聞いていた。
だから、今度こそはという想いが強い事も。
だが、その想いのためだけに許可を出す訳にはいかなかった。
その必要がないとわかっているのだから。
「……見たのだよ……」
アグニスト王太子は、ただ一言、そう告げた。
「え? アグニスト殿下、な、何をご覧になられたのですか?」
「ステルヴィオ殿が率いる『叛逆の魔王軍』をだよ」
そう言われてもシイラルスには理解できなかった。
シイラルスにしてもかなりの強者だ。
ステルヴィオたちがかなりのレベルの強さを持っている事ぐらいはわかっていた。
だが、それなら力を合わせるべきでは無いのか? そう思っていたのだ。
ただ、アグニスト王太子のある言葉にひっかかりを覚えた。
「ま、魔王軍? 軍、ですか? ケルベロスのような魔物を従えておりますし、彼らはとてつもない実力者なのでしょうが、でも、彼らはたった5人しか……」
「5人ではない」
「は?」
「シイラルスよ。恐らく自分の目で見た方が良い。街を出たあと、作戦ポイントに着いた後を楽しみにしておくがいい。私は……未だに思い出すと、手の震えが止まらぬ、がな」
そう言って自分の手を見つめるアグニスト王太子の手は、小刻みに震えていた。
~
それから準備が進み、唯一終わっていなかった補給部隊の準備が整ったころ、ステルヴィオはアグニスト王太子の元を訪れていた。
「アグニスト殿下、そろそろ出発しようと思っているんだが、構わないか?」
突然現れたステルヴィオに、周りの騎士たちが慌てる中、アグニスト王太子は平然とした様子で、
「大丈夫だ。準備もたった今終わった所だ。と言うか……待たせてすまなかったな」
と、苦笑を浮かべながら答えた。
現れたタイミングがあまりにも準備の完了と同時だったことから、こちらの状況は全て把握しているのは明らかだった。
「まぁ、馬車の屋根の上でゆっくり昼寝させて貰ったから問題ないさ」
「それは羨ましいな。私もこれが終わったら、隣で昼寝でもさせて貰いたいものだ」
「この戦いが終わった後の方が、アグニスト殿下は忙しいんじゃないのか? やるなら今のうちだぞ? 今からちょっと寝てみるか?」
今は、そんな軽口を言うような場面ではないのかもしれない。
しかし、二人に気負うものはなく、何だかおかしくなって笑い合った。
「ふふっ、さすがに今から昼寝するのは、私でも憚られるな」
「はははは。そうか。昼寝したくなったら、いつでも言ってくれ。それじゃぁ、出発するか。作戦通り、途中までは先導宜しく頼むよ」
「あぁ、それぐらいはさせて貰おう」
こうして一行は、王都を取り戻すため、そして、真魔王軍『天』を撃ち滅ぼすため、シュガレシアの街を出発したのだった。
焦る気持ちとは裏腹に、新緑の緑がその香りを風に乗せて届けてくれ、これが何もない平凡な日ならばと、ふとそんな考えが頭に浮かぶ。
「僕の力で守れるものなんてたかが知れているんだろうな……ほんとダメだな。こんな事を考えてしまうなんて……」
少し後ろを振り返れば、自分を信じて着いてきてくれる仲間の姿があった。
パーティーの守りの要、盾持ちの戦士ゾット。
針の穴を通すような命中精度を誇る、弓使いのザーダ。
上位属性の雷撃を使いこなす、魔法使いのソリア。
まだ13歳の少女でありながら、凄腕の回復魔法の使い手、リリス。
みんな僕にとっては勿体ないほどの優秀な仲間だ。
「さぁみんな! 魔導サインで指定された場所はもうすぐだ! 警戒を怠らないでくれ!」
「「「「はい!」」」」
レックスはその言葉を受け、「信じてくれる仲間がいれば、僕は強くなれる」と、想いを新たにするのだった。
~
レックスたちが国王と合流しようとしていたその頃、シュガレシアの街でもまた、大きな動きが起ころうとしていた。
ステルヴィオたちは、アグニスト王太子らとも合流をはたすと、一旦、シュガレシアの街に入って体制を整え、真魔王軍『天』を討つため、こちらから打って出る事になったのだ。
道中で怪我を負った何人かは離脱する事になったが、僅かな休息と食事をとったあと、今は皆シュガレシアの門の外に陣形を組み、出発の時を待っていた。
「アグニスト殿下。今から我々はこの戦いが終わるまで、あなたの指揮下に入ります」
「あぁ、感謝する。父はレックスが迎えにあがるという事だから、滅多なことは起きないだろう。もちろん我々が勝てばの話だけどな」
近衛騎士団と風雅騎士団は国王の直轄の騎士団なのだが、これからステルヴィオが戦闘を仕掛けるという事で、急遽アグニスト王太子を旗印に王都奪還をアピールする事になり、その指揮下に入る事になっていた。
「ステルヴィオ殿たちが空を受け持ってくれるのなら、今度こそ我々風雅騎士団もお役に立ってみせます!」
風雅騎士団を預かる若き団長シイラルスが、その決意を口にするが……、
「これは非常に言いにくい事なのだが、これも私の役目だろう。シイラルス、それからドリス……今回、君たちの騎士団には、積極的に戦闘に参加してもらうつもりはない」
アグニスト王太子によって、その機会はないと否定されてしまう。
「え……な、何故です!?」
「シイラルス」
思わず立ち上がり、声をあげてしまったシイラルスを、ドリスが窘める。
「は!? し、失礼しました。しかし、せめてその理由をお聞かせ頂けませんか?」
それでもシイラルスは、せめてその理由だけでもと食い下がる。
シイラルスのその気持ちは、アグニスト王太子も理解していた。
王都で襲われてからこの方、自慢の剣の腕を振るう事も出来ず、ただただ逃げてここまで来たと聞いていた。
だから、今度こそはという想いが強い事も。
だが、その想いのためだけに許可を出す訳にはいかなかった。
その必要がないとわかっているのだから。
「……見たのだよ……」
アグニスト王太子は、ただ一言、そう告げた。
「え? アグニスト殿下、な、何をご覧になられたのですか?」
「ステルヴィオ殿が率いる『叛逆の魔王軍』をだよ」
そう言われてもシイラルスには理解できなかった。
シイラルスにしてもかなりの強者だ。
ステルヴィオたちがかなりのレベルの強さを持っている事ぐらいはわかっていた。
だが、それなら力を合わせるべきでは無いのか? そう思っていたのだ。
ただ、アグニスト王太子のある言葉にひっかかりを覚えた。
「ま、魔王軍? 軍、ですか? ケルベロスのような魔物を従えておりますし、彼らはとてつもない実力者なのでしょうが、でも、彼らはたった5人しか……」
「5人ではない」
「は?」
「シイラルスよ。恐らく自分の目で見た方が良い。街を出たあと、作戦ポイントに着いた後を楽しみにしておくがいい。私は……未だに思い出すと、手の震えが止まらぬ、がな」
そう言って自分の手を見つめるアグニスト王太子の手は、小刻みに震えていた。
~
それから準備が進み、唯一終わっていなかった補給部隊の準備が整ったころ、ステルヴィオはアグニスト王太子の元を訪れていた。
「アグニスト殿下、そろそろ出発しようと思っているんだが、構わないか?」
突然現れたステルヴィオに、周りの騎士たちが慌てる中、アグニスト王太子は平然とした様子で、
「大丈夫だ。準備もたった今終わった所だ。と言うか……待たせてすまなかったな」
と、苦笑を浮かべながら答えた。
現れたタイミングがあまりにも準備の完了と同時だったことから、こちらの状況は全て把握しているのは明らかだった。
「まぁ、馬車の屋根の上でゆっくり昼寝させて貰ったから問題ないさ」
「それは羨ましいな。私もこれが終わったら、隣で昼寝でもさせて貰いたいものだ」
「この戦いが終わった後の方が、アグニスト殿下は忙しいんじゃないのか? やるなら今のうちだぞ? 今からちょっと寝てみるか?」
今は、そんな軽口を言うような場面ではないのかもしれない。
しかし、二人に気負うものはなく、何だかおかしくなって笑い合った。
「ふふっ、さすがに今から昼寝するのは、私でも憚られるな」
「はははは。そうか。昼寝したくなったら、いつでも言ってくれ。それじゃぁ、出発するか。作戦通り、途中までは先導宜しく頼むよ」
「あぁ、それぐらいはさせて貰おう」
こうして一行は、王都を取り戻すため、そして、真魔王軍『天』を撃ち滅ぼすため、シュガレシアの街を出発したのだった。
0
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる