魔王を以て魔王を制す ~ギフト『魔王』を持つ勇者~

こげ丸

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【第32話:王の行方】

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 ケルが最後の魔族を狩り、地上に舞い戻ると、ステルヴィオは魔王覇気を解き、ケルを出迎えた。

「ケル、おつかれ~さすがだな」

 いつもなら一旦小さくなるところだが、ケルは巨大な姿そのままに、ゆっくりと近づいて来ていた。
 別に大きいままでと指示されたわけではなかったが、ステルヴィオが侮られないようにと、ケルなりの配慮だった。

 ただ……その会話はいつも通りのゆるいものだったが。

『もっと褒めて良いよ~』
『……ケル、偉い……』
『まぁ、当然の結果だがな!』

 周りが呆気にとられる中、そんな緩い会話をしていると、近衛騎士団の団長ドリスが近づいてきた。

「ご助力、感謝する。手紙にも書かれてはいたが、尋常じゃない強さだな……」

「まぁ、お粗末様って感じさ。それで、被害はどれぐらいだ?」

 後ろでケルが「おそまつさまってなに~?」と呟くが、ステルヴィオは苦笑いを浮かべて、気になる被害の状況の返事を待った。

 あと1時間ほど早く合流出来ていれば、恐らく1人の犠牲者も出さずに『天』の魔族たちを返り討ちに出来たのだろうが、今さらそれを言っても仕方ない。
 あいにく合流した時点で、既にかなりの犠牲者が出ていたのだから。

「近衛騎士団はそこまで被害は大きくない。だが、風雅騎士団は約3分の1ほどはやられているだろう。それに……おそらく従者の者たちの約半数が最初の襲撃で命を落としてしまっている」

 いきなり空から強襲されたため、自らの力で守るすべを持たない、弱い者たちから先にその命を散らしてしまっていた。
 その事実に、ステルヴィオは一瞬だけ影の差した表情を見せ、ただ一言「冥福を祈ろう」と告げて目を閉じた。

 そして気持ちを切り替え、後ろでオロオロしているサクロス公爵たちに視線を向けると、

「にしても……そっちの銀ピカの鎧を着た奴らは何を考えてるんだ?」

 と言って、未だに惚けている様子の銀狐騎士団とサクロス公爵たちに向けて溜息を吐いた。

「そう、責めないでやって欲しい。正直、危うく全滅するところだったのは確かだが、我らを助けに来てくれた事には感謝しているのだ」

 その言葉を受けて、サクロス公爵が何か口を開こうとしたが、ステルヴィオの冷めた視線をまともに受けてしまい、小さく「ひぃ」と悲鳴をあげて後ずさった。

「はぁ……まぁ戦争なんて慣れてる奴はいないし、仕方ないか。まぁ良い経験が出来たと思って、次に活かす事だな」

 そして、「そうでないと死んだ奴らが浮かばれないだろ」と続けた。

 サクロス公爵は、その言葉を受けて一瞬悔しそうな表情を浮かべたものの、自らの安易な行動によって、被害が拡大したことに思い至り、最後には俯きつつも「すみませんでした」と小さく謝った。

「ところで……ステルヴィオ殿、あの手紙に書かれていた事は本当なのか?」

 手紙にはアグニスト王太子の名で、ステルヴィオに助力をお願いし、助けて貰っていること、ケルベロスのケルという従魔が味方であることなど、先ほど急いで綴ったものの他に、あらかじめ用意していたものが、もう一通同封されていた。

 ドリス団長が本当なのかと聞いたのは、そのもう一枚の手紙についてだった。

「あぁ、本当だ。臨時の同盟を結ぼうという話をしている。まぁ俺の領地はこの世界・・・・にはないから、国として認めれなくてもいい。とりあえず真魔王軍と戦うために、オレの軍をここに連れてくるのを許してくれればそれでいい」

 ドリスは近衛騎士団の団長である以前に、貴族でもあるのだが、もちろん団長としての立場でも、貴族としての地位でも、同盟を結ぶことなど出来るわけがないのは、ステルヴィオも理解していた。

 ただ、この事を本当かどうか見極めて、国王に判断を仰ぐか、馬鹿な事をと一笑に付すかは、ドリスの役目だった。

「この件、国王陛下に確認しよう」

 そして、ここまでの圧倒的な強さを見せつけられて、国王に判断を仰がないなどまずあり得ない。

 それでは、なぜこのようなやり取りをしていたのかと言うと……。

「信じて貰えて良かったよ。それで……王さまはどこに隠れてるんだ? 連絡はつくのか?」

「え? 国王陛下はその場所に……」

 サクロス公爵を始めとした、この場にいるほとんどの者がステルヴィオの言葉に驚き、困惑するようにドリス団長を見つめる。

「ぬぅ……ステルヴィオ殿はどこまで把握しておるのだ……」

「ん~? たいして把握してないさ。まぁ、その気になれば正確な場所ぐらい調べられなくもないんだけど、とりあえずアグニスト殿下の言う神託に乗っかって見ようと思ってさ」

 そう言って、少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「そうか……それなら今更隠しても意味はないな。確かに王はこの場にはいない。ただ場所を明かすのは、国王陛下から承諾を得てからで勘弁して頂きたい。ステルヴィオ殿の方は、アグニスト殿下と連絡はつくのか?」

 自分たちが囮だったと初めて知った者たちが、少し憤った表情を見せるが、事実守れなかっただろう事に思い至って、口をつぐんだ。

「王さまに承諾貰ってからで構わないさ。あと、アグニスト殿下に連絡……というか、どうせ、もうすぐここにアグニスト殿下本人が来るから、直接教えてやってくれ」

「なっ!? こちらにアグニスト殿下が向かっておるのか!?」

 ドリスにしても、まさかアグニス王太子がここに向かっているとは思っておらず、ステルヴィオの言葉に驚きの言葉をあげる。

「あぁ、もう1時間もしないうちに、ここに着くんじゃないかな? そうそう。護衛騎士のギム以外に、オレの仲間もついているから心配するな。さっき程度の奴らなら軽く殲滅できる」

 自分たちが手も足も出なかった真魔王軍『天』の魔族たちを、「さっき程度」と言ってのけるステルヴィオに、うすら寒いものを感じるドリスだったが、それと同時に、これが神のご意思かと、自らが信じる神に祈りを捧げたい気分だった。

「じゃぁ、さくっと王さまに承諾を貰ってくれ、魔導サインか何かで連絡取れるようになっているんだろ?」

「まったく……何もかもお見通しのようだな。暫しここでお待ち頂きたい」

 そう言い残して、ドリスはさっきまで国王が乗っていると思われていた馬車に向かった。

「さて……レックス。この国の勇者はお前なんだ。そっちは頑張ってくれよ」
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