魔王を以て魔王を制す ~ギフト『魔王』を持つ勇者~

こげ丸

文字の大きさ
上 下
26 / 44

【第26話:その覚悟】

しおりを挟む
 静まりかえった室内で、最初に口を開いたのはアグニスト王太子だった。

「し、新世代の魔王……叛逆の魔王軍に、影狼騎士団……そして極めつけはあの原初の魔王バエル……これは参ったな。今回の神託は色々と驚きの連続だったのだが、それを上回る言葉が次々と飛び出してきた」

 苦笑いしながら話すアグニスト王太子は、さすがと言うべきか。
 ほとんどの者が絶句する中、話を先に進めていく。

 その姿に、ステルヴィオも内心かなり感心していた。

「それで、その新世代の魔王であるステルヴィオ殿。君は、君たちの目的はいったい何なのだ? すまないが、もう少し詳しく話してくれないか?」

 しかし、周りにいた者たちは皆、まだ理解が出来ずにいた。

「ちょ、ちょっと待ってください! アルテミシア、君が亡国の勇者だろう事は気付いていたけど、その後の話が全く理解できない! ステルヴィオが魔王!? それに君も騎士団長って、その騎士団はいったいどこの騎士団なんだ!? そもそも、あの執事のゼロさんが原初の魔王だって? そんな事言われても信じられるわけがないよ!」

 勇者レックスは一気にそこまで捲し立てると、その答えを求めるようにステルヴィオに視線を向けた。
 ちなみに断っておくが、ゼロの執事姿は完全に趣味だ。

「まぁ普通そうなるよな~。アル、いくらそういう話をしに来たと言っても、ちょっと突然すぎるんじゃないか?」

 だが、ステルヴィオがまるで他人事のように話すその態度が、アルテミシアの言葉に真実味を持たせる結果となる。

「な……ステルヴィオ……今のアルテミシアの話は、本当に本当の話なのかい?」

 あらためてそう尋ねるレックスに、

「あぁ、だいたい本当の話だぞ?」

 呆気なく肯定の言葉を返すステルヴィオ。

「はは……随分簡単に言ってくれるね……」

 驚けばいいのか、呆れればいいのか、それとも恐怖すればいいのか、レックスは正直思考を放棄したい気分だった。

「まぁでも、本当の話だから仕方ないだろ? そうだな。色々不安だろうから先に言っておくと、オレたちは人族と争うつもりはない。ある国を除いてな」

 ある国を除いてと聞いて、ギルドマスターのメルゲンがぎょっとしていたが、この国を代表する人物であるアグニスト王太子は全く不安な素振りを見せなかった。

「それは我が国でない事願うばかりだな」

 そして、肩を竦めておどけてみせたアグニスト王太子は、やはり次期国王として肝が据わっているといったところか。

 ただ、冷静に考えればその国と言うのは、少し世界の情勢に詳しい者ならば、容易に想像がついただろう。

「あぁ、もちろんこの『世界最古の国ラドロア』じゃぁないさ。まぁ、その反応だと予想はついてるんだろうが、裏でこそこそと汚い真似をしている……帝国さ」

「想像通りで良かったよ」

 やはりそうかと納得するアグニスト王太子と、ほっとした様子の他の面々。

「て、帝国と言うと『インカーラ大帝国』のことかい?」

 それでもちゃんと確認したかったのだろう。
 勇者レックスが念を押すようにそう尋ねた。

「そうだ。奴らはいずれ叩く」

 レックスが言う『インカーラ大帝国』とは、この世界で最大の国土を持ち、今も尚、近隣諸国を吸収し、勢力を拡大している軍事国家だ。

 人族が一致団結して魔王陣営に対抗しなければならないこの時勢に、人族連合から離脱して近隣諸国に次々と戦争をしかけている魔王同様に恐怖の象徴となっている国だった。

「叩くって、簡単に言うね……この世界の人族国家の中で、最強の国だよ……」

 普通なら馬鹿げたことをと一蹴するところなのだが、なまじステルヴィオたちなら渡り合えそうなので、普通に戦力を分析しようとしている自分に気付き、レックスは苦笑いを受けべる。

「まぁただ、今はあいつらは後回しだ。まずは『天』の奴らをぶっ殺す!」

 簡単にそう言ってのけるステルヴィオに、思わず呆れるレックスだが、本当にやってのけてしまいそうなので、どう反応すれば良いのかわからず、結局また苦笑いを浮かべる。

 そして、この中で唯一動じていないアグニスト王太子が話を引き継いだ。

「それは我が国としてはありがたい事だな。だが、実際どうやって倒すのだ? 相手は皆空を飛ぶような奴らなのだろう? それに先ほど騎士団とか言っていたが、それは君たち『叛逆の魔王軍』が、軍を所有しているという事で間違いないか?」

 聞きたい事が色々ある様子のアグニスト王太子だが、それはステルヴィオも同じところがあった。

「空を飛んでるのはまぁなんとかするさ。それからオレが軍を所有しているのかという質問なら……その通りだ。それで相談なんだが……」

 軍を持っていると言う言葉に、僅かに驚くアグニスト王太子だったが、

「そうか。まさか軍を所有しているとは思いもしなかったよ。それで、相談と言うのは?」

 すぐに冷静な表情に戻り、話の続きを促した。

「オレの軍を『叛逆の魔王軍』本隊を、ここに呼びたい。その許可を貰えないか?」

 軍を呼ぶ。

 当たり前の話だが、平時なら、他国の軍が突然現れれば、すぐに戦争となるだろう。
 だから許可を貰えないかと尋ねたのだ。

「……すまないが、さすがに私の一存で許可を出す事が出来ない……」

 だが、さすがに次代の王とは言え、現国王や宰相、将軍などの許可を得ねば、アグニスト王太子とて簡単に許可を出す事が出来なかった。

「せめて私がここにいるという事を公表していれば何とかなったかもしれないのだが、私がこの街にいる事を知っている者自体ほんの一部の者しか知らない状況なのでね。たとえここから私が魔導サインを使って許可を求めても、信じて貰えないだろう」

 さすがにアグニスト王太子にしても、このような展開は想像の埒外だった。

「だが……」

 だが、そこで言葉は終わらなかった。

「もし、事態が切迫していると言うのなら、私の責任において許可を出そう」

「なっ!? アグニスト殿下!? いくらなんでも、それは駄目です!」

 その言葉に勇者レックスが慌ててとめに入る。
 それは廃嫡どころか、処刑されてもおかしくない越権行為なのは明白だった。

「はは。中々やるね。アグニスト殿下、オレ、あんたの事をちょっと気に入ったよ。その覚悟にオレも出来るだけこたえてみせよう」

 そう言ってステルヴィオが右手を差し出すと、

「気に入って貰えたのなら良かった」

 それに応えて、アグニスト王太子も右手を差し出し、がしりと握手を交わす。

 こうして王都を支配する真魔王軍『天』に対抗する作戦が練られていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...