魔王を以て魔王を制す ~ギフト『魔王』を持つ勇者~

こげ丸

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【第25話:叛逆の魔王軍】

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「予言通りに光と闇を併せ持つ者と出会えたのでな。私も身分を明かそう。私の本当の名は『アグニスト・フォン・ラドロア』。この国の王太子だ」

 最初イグニスと名乗っていた貴族が、そう言って変身の魔道具の効果を解くと、小太りの男の姿が掻き消え、そこには精悍な顔つきの引き締まった肉体を持つ若い男が立っていた。

 そして、従者と思われた男も同じ魔道具を使っていたようで、同じく変身を解く。
 すると、こちらは全身鎧に身を包んだ、近衛騎士の様相へと様変わりしていた。

「へぇ~これは驚いたな。変な感じはしてたけど、まさか変身の魔道具だとは思わなかったよ」

「私も違和感だけで、まさか変身されているとは思いませんでした。そのような事を可能にする魔道具があるのですね」

 少しの驚いただけのステルヴィオと、感心して興味深そうな視線を向けただけのアルテミシア。

 その思っていたよりも冷静な反応に、逆に軽く驚かされるアグニスト王太子だったが、隣に立つ近衛騎士のギムに促されて話を再開する。

「あぁギム、わかっている。ステルヴィオ殿、失礼した。あなたがいつ現れるかまでは預言では示されていなかったものでね。ここまでは身分を隠させて貰っていたんだ」

 そう言って軽く頭を下げるアグニスト王太子の姿に、他の面々がようやく正気を取り戻す。

「って、ステルヴィオ!? 何普通に会話してるんだよ!? あ、アグニスト殿下も! な、なぜあなたがこのような所に!? と言いますか、そんな簡単に頭を下げてはいけません!」

 ある意味、面識のある勇者レックスたちが一番驚いていたかもしれない。
 そして、何度か話をしたことがあるレックスが、冒険者に頭を下げるという行為を慌てて制止する。

 だが、とうの頭を下げられた本人と、頭を下げた本人は全く聞く耳を持っていなかった。

「いや。彼ら次第でこの国の命運が決まるのだ。むしろ頭を下げて何か少しでも好転するなら、私は喜んで頭を下げるぞ?」

「いやぁ~、さすがにただ頭を下げられただけで動くつもりはないけど? えっと、アグニスト殿下でしたっけ? さっきからあんたが言っている預言と言うのが気になるんだけど、聞かせてくれないか?」

 その不遜な物言いに、レックスが慌ててステルヴィオに駆け寄ろうと立ち上がるが、意外にもそれを止めたのは近衛騎士のギムだった。

「レックスさん、構わない。アグニスト殿下はむしろ対等に接したいと思っておられる」

「しかし……」

 反論しようとしたレックスだったが、無言で首を振る近衛騎士のギムを見て、言葉を飲み込んだ。

 そして、その様子をちらりと見てから、アグニスト王太子は話を再開した。

「気になると言うのは、どうしてでしょうか? 聖光教会の神託は、それほど珍しいものでは無いと思うのですが?」

「まぁ普通ならそうなんだがな。アルの事ならともかく、オレは聖光教会の神からは嫌われているとばかり思っていたんだけど? どうせ色々話すつもりで来たから言っちまうけど、オレのギフトに加護を与えたのは、神は神でも……魔神・・だぜ?」

 ステルヴィオのその『魔神』という言葉に、周りが騒然となった。
 そして、その疑問を代表するようにレックスが尋ねる。

「す、ステルヴィオ……魔神というのは、あの魔神・・・・なのか?」

あの魔神・・・・ってのが、どの魔神をさしているかわからないが……『魔神シルバアラ』と言えばわかるか?」

 ステルヴィオの『魔神シルバアラ』という言葉に、アルテミシア以外の皆が思わず息を呑んだ。

 この世界には多くの神々が存在する。
 聖光教会は、その数多いる神々を信仰する宗教なのだが、その中に『魔神シルバアラ』は含まれていない。

 その理由は有名だ。

 魔神シルバアラを、魔王たちが信仰しているからだ。

「どうする? オレたちと共に歩むか? それとも……敵対するか?」

 そう言ってステルヴィオが凄んで見せたのだが……答えたのはレックスではなく、アグニスト王太子だった。

「あぁ、そんな事ですか。敵対するわけがありません。是非、共に歩ませて下さい」

 しかし、ホッと胸を撫でおろしてそう答えるアグニスト王太子と違い、周りはなぜそんな簡単に受け入れられるのかわからない様子だった。

「なっ……アグニスト殿下、宜しいのですか? あの魔神ですよ? いってぇ、どういうことなんですか?」

 そして、受け入れられないギルドマスターのメルゲンが、恐る恐るそう尋ねた。

 聖光教会では『魔神シルバアラ』は悪の化身のような扱いを受けており、その神に加護を受けたギフトを持つというステルヴィオを恐れ、疑念を抱いてしまうというのは、当たり前の反応だった。

「これはクロアナ枢機卿から聞いた話で、他言無用でお願いしたい話なのだが……元々我々が『魔神シルバアラ』と呼び恐れる神も、ただの神の一柱に過ぎない尊ぶべき神だったらしい。それを魔王が信仰していたという事実を知った教会の者が、外聞を気にして後から信仰の対象から外してしまったそうだ」

「へぇ~、それはオレも知らなかったな。まぁ昔から『暴力の権化』として有名な神だったらしいけどな」

「ゼロ様が言うには、その『暴力の権化』というほどの力持つ神だったので、魔王も信仰の対象として『魔神シルバアラ』を選んだらしいですよ」

 実際には「らしい」というより、本人がそう言っていたので事実そうなのだが、アルテミシアはそう言って補足した。

「ん? ゼロ様と言うのは、いったい? それと失礼だが、君はもしかしてアラジア王国の……」

「はい。亡国、アラジア王国の勇者アルテミシアと申します。ですが今は……」

 これまでは周囲には公表していなかった事実をさらりと口にする。
 そして、しっかりと前を向き、アグニスト王太子を始めとした皆を見回してから、力強い口調で言葉を続ける。

「今は……ステルヴィオ様の眷属であり、ステルヴィオ様を新世代の魔王と仰ぐ『叛逆の魔王軍』所属、『影狼かげろう騎士団』騎士団長アルテミシアとお覚え下さい。そしてゼロ様は、ステルヴィオ様の筆頭眷属であり……」

 そこで一度言葉を切り、

「あの原初の魔王バエル様、その魔王ひとです」

 堂々とそう言ったのだった。
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