魔王を以て魔王を制す ~ギフト『魔王』を持つ勇者~

こげ丸

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【第24話:真魔王軍とは】

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 冒険者ギルドの一室。

 勇者レックスたちとギルドマスターのメルゲンを始めとした何人かの職員、それに貴族と思われる少し小太りの男とその従者がそこには控えていた。

「ようやく戻ってきたか……」

 ステルヴィオは宿をとると、ネネネとトトト、それにケルをゼロに任せて、アルテミシアと二人で冒険者ギルドに戻ってきていた。

「別に依頼の最中ってわけでも無いし、特にギルドに縛られる理由とかないぞ?」

 ステルヴィオのその物言いに「ぐぬぬ」と言いながらも、ギルドマスターのメルゲンがそれ以上何も言わないのは、確かにさっきの自分は冷静さをかいていたと、少し反省していたからだった。

「ま、まぁそうだな。それに、さっきは悪かった。俺はお前たちに感謝しなければいけない立場なのに、八つ当たりをしちまった」

 そして、その表情を真剣なものに変えてから、ステルヴィオに頭を下げた。

「ははは。気にしてないからやめてくれ。そんな柄じゃないだろ? それじゃぁ、さっそく建設的な話をしようじゃないか」

 ステルヴィオのその言葉に、メルゲンは不機嫌そうに顔をしかめるが、それほど悪い気はしていなかった。

「あぁ。それならそうさせて貰おうか。だがその前に……こちらの方はイグニス・フォン・アラド様だ。たまたまこの街に滞在されていたのだが、話を聞きたいという事なので、同席して頂いている」

「イグニスだ。領地を持たない宮廷貴族でな。状況を知りたいので無理を言って参加させて貰った。軍事には疎いので私の事は気にしないでくれて結構だ」

 紹介されたイグニスという貴族は、立ち上がってそれだけ言うと、また席に着いた。

「それでは始める……おい! まずはギルドで掴んだ情報を報告だ!」

 メルゲンは側で控えていたギルド職員に大声でそう命じると、自分は椅子にどっかと腰を下した。

「既に勇者様には先ほど一度報告している内容ですが、もう一度頭から報告させて頂きます。よ、よろしいですか?」

 ギルド職員のその問いかけに、先に報告を一度受けていた勇者レックスが「問題ないよ」と軽く手をあげて答える。

「まず、非常に残念ではありますが、王都が炎に包まれているのは間違いないとの事です。これは王都から一番近い街の冒険者ギルドからの報告で確認が取れました」

「……その街は大丈夫なのか?」

 ステルヴィオのその問いにギルド職員の男は一瞬悲しそうな表情を浮かべ、

「その後、魔導サインで二度ほど情報提供を受けたのですが……連絡が途絶えました。同様に街を襲われたと見るのが妥当かと考えています」

 と、少し言葉を詰まらせつつもこたえた。

「……そうか……」

 ステルヴィオは表情こそ平静に装いつつも、わずかに苛立ちを言葉に乗せてそうこたえ、ギルド職員の男に話の続きを促した。

「それでその……連絡が途絶えるまでに、二度の情報提供があったのですが、相手はやはりあの・・『真魔王軍』で間違いないようでして、王都は突然現れた魔王軍の兵、魔族どもによって陥落したようだとのことです」

 そして、ギルド職員が「あの・・」と言ったのには訳がある。
 十年ほど前に現れた『真魔王軍』は、そのわずか10年の間に、既に7つの国を滅ぼしているからだ。
 そのうちの4つはこの世界に無数にある小国だが、残りの3つの国はしっかりした軍備を持つ大国だった。

 そしてその『真魔王軍』には、他の魔王や魔王軍にはない特徴があった。

 それは、他の魔王が何かの魔物が強くなって魔王に成りあがった・・・・・・のに対し、『真魔王軍』を率いるのは、魔族と呼ばれる人に近しい姿の者たちの中から生まれた・・・・魔王だという事だ。

 つまり、生まれながらにして魔王として生を受けた存在だった。

「まぁあの『真魔王軍』相手だと、そりゃぁ普通の騎士団じゃ太刀打ちできないしな」

「ん……ステルヴィオ、その言い方だと、まるで戦ったことがあるみたいな物言いだけど……?」

 勇者レックスのその問いに、

「戦ったことならあるぜ」

 即答するステルヴィオ。

「!? ……ますます君たちが何者かわからなくなってきたよ……」

「まぁ、それも含めて後で話すさ」

 オレのその言葉に「じゃぁ楽しみは後にとっておくよ」と軽く言ってのけるレックスもかなり良い性格をしている。

 その二人のやり取りに色々物申したい雰囲気のメルゲンだったが、ぐっと我慢して顎で先に報告を済ませてしまえと職員に指示を出す。

「え、えっと……後は少し不確定な情報となりますが、奴らは王都を破壊した後はその場に居座っているらしく、街を逃げ出す者に対しては今のところ危害を加えていないようです。ただ、これは先に言いましたように隣町のギルドとの連絡が途絶えたので、どこまで信憑性があるのかわかりません」

 その職員はそのまま話を続けようとするが、そこでメルゲンが少し話に割って入る。

「ちょっといいか? この国に来たばかりらしいお前たちに補足しておく。その街ってぇのは、王都から徒歩でも3時間ほどしか離れていねぇんだ。他の街のギルドからは今のところ無事だと連絡が入っているから、とりあえずの奴らの狙いは王都だけなのかもしれねぇ」

 メルゲンのその話は、半分そうであって欲しいという希望でもあったのだが、今のところ『真魔王軍』が興味を示しているのが王都近辺のみと言うのは事実だった。

「あと、王たちは隣町から更に離れた公爵が治める街に向かっているようですが、こちらも今のところ正確な情報は掴めていません。尚、他の街のギルドとも連絡を取ってはいますが、魔導サインの使用回数が限られていますので、一旦緊急連絡を除き、現在は連絡を控えている状況です」

 そして「報告は以上になります」と、一歩後ろに下がった。

「ん~、だいたいの状況はわかったが、何かこちらから動いたりはしていないのか?」

「いいえ。我が町の冒険者の中に『遠見』のギフトを持つ者がいたので、その者に護衛を付けて確認に向かわせています。明日には戻ってくるので詳しい情報はそこで手に入るかと」

 ギルド職員のいう『遠見』のギフトとは、比較的有名なギフトで、遠く離れた場所を上空から覗き見る事ができるというものだった。

 そして、その事をもちろん知っているステルヴィオは、

「それは悪手だな。すぐに早馬を出して中止したほうがいい」

 と言って、鋭い視線を向けた。

 しかし、遠見のギフトは数キロ先から安全に状況確認ができる有能なギフトだ。
 ギルド職員はもちろん、メルゲンや勇者レックスたちも、なぜステルヴィオがそんな事をいうのか、その理由がわからなかった。

「ステルヴィオ。すまないが、その理由を教えてくれないかい?」

 そしてその皆の疑問に、勇者レックスが代表するように尋ねると、ステルヴィオは少し声を張って話始めた。

「理由は簡単だ。今回、この国の王都を襲った奴ら全員が……飛行能力を持ってるからだ」

「なっ!? 全員だと!?」

 声をあげたのはメルゲンだけだったが、皆、驚きを隠せなかった。
 ステルヴィオの口から述べられた「全員が飛行能力を有する」と言う話が本当なら、普通の国家では太刀打ちできないからだ。

 どこの国でもある程度は対空防御についても考えられている。
 そして長い歴史を持つ『古都リ・ラドロア』にも、多くの弩などが設置されていた。

 魔物の中にも空を飛ぶものが存在するので当然の事だ。

 だが、これが人型の知能を持った魔族数百人が、全員空を飛んで攻めてくるとなると、話が変わってくる。

 国の主戦力である騎士がほとんど役に立たなくなる上に、弩のような大型の魔物向けの兵器では当てるのが難しい。
 残るは弓矢で射るか、魔法を当てるかしかないが、魔族は魔法の扱いに長けており、魔法で障壁を張られてしまうと、並の腕の者ではかすり傷一つ負わせる事が出来なくなってしまう。

「真魔王軍は4人の魔王によって統率されている。それぞれの魔王が冠するのは『天』『地』『水』、そして『無』だ。そして、突然王都を襲われてしまった理由はお察しの通りだ。今回、この国に攻め込んできたのは『天』。奴ら数は少ないが、全員が空を飛んでやって来る上に、『地』の奴らよりも更に魔法に長けている」

 メルゲンやレックスたちは知らない事だが、今まで確認されていたのは全て『地』の真魔王軍だ。
 今回襲って来た『天』の真魔王軍は、接近戦よりも魔法に長けた軍なのだが、『地』の魔族の扱う魔法ですら梃子摺っていた人族連合にとっては、あまり知りたくない事実だろう。

「悪いことは言わないからすぐに呼び戻してやれよ。たとえ先に見つけられたとしても、向こうも空から簡単にそいつらを見つけるだろう。そして見つかれば、あっという間に追い付かれて……。だから、無駄死にさせるな」

 そのステルヴィオの話にメルゲンは、

「くそっ! 本当なんだろうな!? おい! すぐに早馬を出せ!」

 悔しそうにしながらも即断即決で、職員に指示を出していった。

「ところで……ちょっといいかな?」

 慌ただしくギルド職員が部屋を飛び出していく中、そう声をあげたのは、今まで一言も発さなかった貴族の男イグニスだった。

 メルゲンは、自分がステルヴィオの出どころのわからない話をあっさり信じて、偵察を中止した事を疑問に思ったのかと思い口を開く。

「あぁ、イグニス様。信じられないかも知れねぇが、こいつは……」

 しかし、その話は貴族の男に止められた。

「すまない。イグニスと言う名は偽名なんだ」

「は? いや、確かにあの貴族証は本人の物だったはずだが……」

 メルゲンは、貴族証をこの目で確認していたので、その言葉が信じられなかった。
 貴族証は王が特殊な魔道具を使って発行しており、偽造などそう簡単にできる者ではないからだ。

 だが、貴族の男が次に発した言葉が本当なら、それは不可能ではなかった。

「予言通りに光と闇を併せ持つ者と出会えたのでな。私も身分を明かそう。私の本当の名は『アグニスト・フォン・ラドロア』。この国の王太子だ」

 そう言って、変身の魔道具の効果を解いたのだった。
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