魔王を以て魔王を制す ~ギフト『魔王』を持つ勇者~

こげ丸

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【第20話:今日の出来事】

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 ステルヴィオたちがヘクシーの街に戻ってきたのは、既に辺りに夜の帳が下り終わった頃だった。
 普通なら門から締め出され、門の前で一夜を明かさなければならない時間だったのだが、ステルヴィオは閉じられた門の前で勇者レックスの名を大声で叫び、無理やり開門させていた。

「まったく……ステルヴィオの行動は、僕の予想の斜め上すぎて毎度驚かされるよ……」

 ステルヴィオと並んで歩き、苦笑いを浮かべるのは勇者レックス。
 今日起こった出来事は大事件だったかもしれないが、依頼についても魔王の脅威についても全て解決しており、急ぎで報告する必要があるものが無かった。

 だから、勇者レックスは門の前で一夜を明かすつもりでいた。
 そもそも門の前にはそのための空き地が用意されているし、既にそこには冒険者パーティーらしき者たちも何張かのテントを張って夜営の準備をしていたのだ。

 街へとたどり着き、ステルヴィオが馬車を収納したのを確認すると、勇者レックスは当然のように空き地そちらに歩いていこうとしたのだが、いきなり肩を掴まれ……門を守る兵士への大声へと繋がった。

 しかし、いきなり自分の名前を大声で叫ばれ、背中を押されて街壁の上の見張りに顔が良く見えるようにと突き出された事を、勇者レックスは溜息一つで許していた。

 それは勇者レックスが、ステルヴィオたちが成し遂げたことの大きさをしっかりと理解していたからだ。
 それに「気にするな」とは言われたが、結果的には自分たちの命も救って貰った恩人でもある。

(あとは、ステルヴィオの人柄かな?)

 一見、ふざけた態度を取りつつも、色々と考えるべきことはしっかりと考えており、レックスはそんなステルヴィオの事をどこかで尊敬し始めていた。

「そんな驚かすような事してないと思うんだけど?」

 ステルヴィオのその返事に若干呆れつつも、勇者レックスは、

「まぁ今日ステルヴィオたちがやった事を考えれば、些細な事なんだけどさ。それでも、例えばその……今朝も見たけど、その双子の幼女たちはいつもそうなのか?」

 と、後頭部と背中にくっつき、周りの喧騒にも動じず小さく「すぴー」と寝息を発するネネネとトトトの二人にちらりと目を向けた。

「あぁ~こいつらな。最初は鬱陶しいとおっぱらってたんだけど、どうせ寝たら抱っこしてやるなりしてやらないとダメだろ? もうそれなら自分からしがみついてる分、こっちのが楽でいいやって思って」

 そう言ってケラケラ笑うステルヴィオだったが、

「ステルヴィオ様は、こんな事言っていますけど、いつも二人の事を心配してるんですよ?」

 アルテミシアのその言葉に、視線をそっと逸らして「んな事ねぇよ」と小さく抗議する。
 勇者レックスは、そんなステルヴィオを見て「やっぱり良い奴だよね」と、一人小さく呟いたのだった。

 ~

 街の大通りを進み、冒険者ギルドにたどり着いた一行は、ギルドマスターのメルゲンが待つ部屋へと通された。

 ここは前回通された部屋とは違い大きな会議室のようで、今いるメンバー全員が座れるだけの数の椅子と、長い大きなテーブルが備わっているだけのシンプルな造りとなっていた。

 そして、そこで待っていたのはギルドマスターのメルゲンと、ステルヴィオたちの会った事のないギルド職員風の男、それから決闘騒ぎの時の立会人を務めたギルドセイバーの男だった。

「その日のうちに帰ってきたと報告があったから驚いたぞ? 引き返してきたようだが、一体何があったのだ?」

 少し眉間に皺をよせ、心配そうにそう尋ねてくるメルゲン。

 普通、サグレアの森に馬車で行くものはいない。
 それは、森の中まで馬車に乗って進む事が出来ないため、数人が残って馬車と馬を守るか、一人が街まで引き返す必要があるからだ。

 そのため、メルゲンが勇者レックスたちが森に行く途中で何かがあって引き返してきたと考えてしまっていたのは仕方ない事だろう。

 だが、そんな相手の考えなどお構いなしに答える者がいた。

「ん? 何かも何も、任務達成したから帰ってきただけだぞ?」

 しかし、メルゲンたちはステルヴィオの発言の意味がわからず、揃ってレックスに目を向ける。

「あぁ、そりゃぁ、意味がわかりませんよね~。実際、僕もまだ現実感がないですし」

 軽い溜息を吐きながらそう答えるレックスに、

「ちょっと待ってくれ。レックスさん、俺達にももう少しわかるように詳しく話してくれないか?」

 と、ギルドセイバーの男が尋ねる。

「ん~、落ち着いて聞いてね。でも、まずは驚かない所から説明すると、移動はステルヴィオたちが人形馬車を所持していたので、それで素早く行う事が出来たんだ」

 しかし、最初の説明でいきなりギルド職員風の男が待ったをかける。

「ちょ、ちょっと待ってください。人形馬車って馬の代わりにゴーレムを使う奴ですよね? あんな高額なものをそこの者たちが?」

「えぇ~と……いきなりそこで躓く? とりあえずステルヴィオたちは、人形馬車を持ってても全く不思議でない凄い人たちだって思っておいて」

 レックスのその説明に、どういうことだと思いつつも、男も場の空気を読んでとりあえず納得の意を返す。

「で、まぁその人形馬車のお陰でかなり予定より早くサグレアの森に着いたわけなんだけど、そこで『魔界門』……本当は『魔王門』と言うらしいけど、その門まであとわずかの所まで一気に進むことができたわけ」

「ま、魔王門?」

 またギルド職員風の男が疑問の声をあげていたが、話の先が気になったのか、今度は会話を遮る事は無かった。

「でも、そこまで魔物に会う事もなく順調に進んでいたのだけど、そこでいきなり大量のオークたちが現れたんだ」

 オークが現れたと言うその言葉に、今まで黙って聞いていたギルドマスターのメルゲンが声をあげる。

「ま、まさか、魔王軍の斥候とか言うのではあるまいな……?」

 少し青い顔でそう尋ねるメルゲンに、

「斥候って言うか、普通にオークの魔王が率いる『暴懐魔王軍』の兵士だと思うぜ?」

 ステルヴィオが軽い口調でそう答える。

 すると、話を聞いていたメルゲンたち3人が綺麗にシンクロして机に手を叩きつけて立ち上がった。

「「「なんだと!?」」」

 ステルヴィオがその光景を見て「すげぇシンクロ率だ!」と茶化している横で、今度は慌ててレックスが立ち上がって、

「ちょ、ちょっと落ち着いて! まずは僕が説明するので! あと、最初に言ったように暫くはステルヴィオは黙っててくれないか? 話がややこしくなるから!」

 と、3人を宥めつつ、ステルヴィオを黙らせた。

「まず、先に言っておきます。脅威は既に去っています。どういった事が起こったかを今から話すので、まずは疑問をぐっと飲みこんで、最後まで僕の話を聞いてくれませんか?」

 勇者レックスは渋々頷く3人を確認すると、ようやく今日サグレアの森で起こった出来事を淡々と話し始める。

 ステルヴィオから受けた説明を、なるべく驚かないように丁寧に、そしてわかりやすく噛み砕いて話していったのだった。
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