魔王を以て魔王を制す ~ギフト『魔王』を持つ勇者~

こげ丸

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【第19話:後始末】

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 暴壊魔王軍を全滅させ、魔王ドリアクの領域から帰ってきたステルヴィオたちは、魔王門の前で最後の仕上げを行う準備をしていた。

「みんなお疲れさん。怪我とか負った者はいないな?」

「はい。私は無傷です」

「「ネネネとトトトも大丈夫だにゃ~!」」

『ケルもかすり傷一つないよ~』
『……ケル、無敵……』
『あんな雑魚ども相手に怪我する要素はねぇぜ!』

 若干一名「無敵」とか言っている奴がいるようだが、ステルヴィオは全員が無傷な事を聞いて、笑みを浮かべる。

「まぁ当然っちゃ当然か」

「わ、私はそこまで余裕があるわけでは……」

「アルは、聖光覇気を長く纏えるようになったから、一番心配してなかったんだけど?」

 アルテミシアはステルヴィオにそう言われ、信頼されている事を喜べば良いのか、全く心配されていない事を拗ねれば良いのか、複雑な表情を浮かべていた。

「まぁとにかく、全員が怪我なく無事で良かったよ。んじゃ、ゼロ。とりあえず魔王門を閉じちまってくれ」

「承知しました。そのまま魔王門を回収しても?」

 ゼロは魔王門を即座に閉じながらも、魔王遺産の一つである『魔王門』をそのまま回収してしまっても良いかと尋ねる。

「あぁ、それならついでに領域の外の魔物の遺体回収しておいてくれ。しかし、ようやく魔王門が手に入ったな。これでオレたちの領域・・・・・・・へのアクセスも便利になるぜ」

「そうですね。これでようやく『叛逆の魔王軍』としての拠点をつくれますよ」

 魔王の持つ全ての能力を行使できるステルヴィオは、もちろん魔王ドリアク同様に領域を創り出す事が出来た。
 だが、魔王領域を創り出した後、その領域と行き来するのには特殊な魔道具が無いと自由に行き来出来ない。
 いや、ステルヴィオだけなら出来るのだが、他の者を連れて行き来する事が出来なかった。
 この魔王門は、その領域にアクセスするための特殊な魔道具で、これを用いる事でようやくその領域を活用できるようになるという訳だ。

「あぁ、楽しみだぜ! 今度、魔王城造ろうぜ! 魔王城!」

「ま、魔王城……」

 冗談か本気か、魔王城を造ろうというステルヴィオに、アルテミシアは内心、ステルヴィオ様なら本当に造りそうだと、ひそかに溜息をつく。

「ステルヴィオ、それでは行きますよ。魔物の回収の方は、ちょっと魔力を使うのでそのつもりでいて下さい」

 ゼロがそう呟くと、ほんの僅かな間だけ、魔力が爆発的に跳ね上がる……が、それだけだった。

 その次の瞬間には、目の前に聳え立っていた巨大な魔王門は跡形もなく姿を消し、倒された無数のオークたちの亡骸は、忽然と消え失せていた。

「はい。完了です」

「ご苦労さん。門の方は、こじ開ける時と違って呆気ないな」

「まぁ、既に支配下にあるモノですからね」

 何でもない事のように話す二人だが、そこへアルテミシアが少し疲れたような顔で言葉を挟む。

「お二人ともやはり凄いですね。私たちは、一瞬爆発的に膨れ上がったゼロ様の魔力を浴びて、寿命が縮む思いをしていると言うのに……」

「ネネネは、もうだいぶん慣れたけど、いきなりされたらまだドキッとしちゃうかにゃぁ?」

「トトトも、いきなりはやだにゃぁ~」

 ただ、人族である3人と違って、ケルはさすがに魔力の波動を受けたぐらいでは動じないようで、一人毛繕いをして欠伸をしていた。

「あっ、そう言えば魔物の発生はどんな感じだ?」

 元々の依頼が、魔物が発生しなくなった原因が魔王門と何か関係があると踏んでの依頼だった事を思い出し、ステルヴィオがゼロにそう尋ねる。

「そちらはもう大丈夫です。魔王門が開いたことで阻害されていただけですので、あと数時間もすれば、また魔物が発生するようになるはずです」

「あ、あの……ゼロ様。それはいきなり大量の魔物が発生するなどの危険はないのでしょうか? 今は高ランクの冒険者が街を離れているという話でしたので、少し心配なのですが……」

「それも大丈夫だと思いますよ。完全に元に戻るまでに、また数週間はかかるでしょうから」

 ゼロの言葉を聞いて、アルテミシアは、ようやく静かにホッと胸を撫でおろした。

「よし、それならもう問題はないし、これで全て完了だな! じゃぁレックスたちと合流して、さっさと街に帰るか」

 そう言って頭の後ろで手を組むと、先頭を切って森の中を歩き始めたのだった。

 ~

 その頃、勇者レックスたちは突然消えたオークの亡骸に戸惑い、守りの隊列を組んで、何が起きても対処できるように周囲を警戒していた。

 そしてそんな警戒態勢の中、森の奥からこちらに近づいて来る気配に、更に警戒を強めていると……、

「よぉ! 待たせたな!」

 その警戒を笑い飛ばすようなお気楽な声が掛けられた。

 森の奥から歩いて現れたのはステルヴィオの一行。
 それを呆れた目で迎えるのは、勇者レックスのパーティーだ。

「よぉ! じゃないよ……それにしても、いったい君たちは何者なんだい? さっきオークの遺体が突然消えたんだけど、それも君たちの仕業かい? それからさっき聞けなかったから今聞くけど、魔王を倒したってのは本当なのか? もし本当だと言うなら、少なくとも君たちのうちの誰かは……勇者だという事かい?」

 色々聞きたい事が溜まっていたレックスは、一気に捲し立てるようにそう言ってステルヴィオに詰め寄った。

「ん~、どうせギルドに帰ったら報告するだろ? その時纏めてで良いか? こちらからレックスにも話があるし。あっ、とりあえずさっきオークの遺体を消したのはゼロで、勇者がいるのかって話ならアルテミシアが勇者だから」

 あっさりとそう言ってのけるステルヴィオに、驚きを通り越して完全に呆れかえるレックスだったが、後でちゃんと説明してくれるのならと、無理やり自分を納得させて大きくため息を吐く。

「ふぅ……何か身構えたり、驚いてばかりいるのが馬鹿らしくなるよ……あっ、最後に一つだけ良いかな?」

「なんだ? 魔物の発生の事なら、もう心配しなくて良いはずだぞ?」

 先に聞こうと思っていたことを言われて、口をパクパクとさせるレックスだったが、もう一度気を取り直して、

「……うん。そんな気がしてたよ……じゃぁ、帰ろうか……」

 と言って、苦笑いを浮かべるのだった。

 こうしてオークの魔王との戦いは、またも一日とかからず終結したのだった。
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