上 下
132 / 137
第三章 追憶と悔恨

【第130話:再会×2】

しおりを挟む
 ケルベロスのケリーに牽かれての旅は順調だった。
 途中で何組かの隊商や旅人を驚かせたりもしたが、少しケリーには小さくなって貰っていたので、そこまでの騒ぎにはならなかった。

 それに魔物としては最上位のケリーがいる事で、全く魔物に襲われることもなく、本当にあっという間にゲルド皇国までたどり着いたのだった。

 ~

「帰ってきたっち~!」

 グレスは遠くに皇都が見えると、思わず感極まったのか少し目に涙をためながら叫んでいた。
 遠くを見つめるようなその眼は、きっと悲壮な決意の元、この街を旅立った時の事を思い出しているのだろう。
 それが、ほぼ最高の形で結果を出して帰ってこれたのだ。
 そして同じ馬車ソリの中からその後ろ姿を眺めていたサルジ皇子は、

「グレスには、そしてユウト殿には感謝をしてもしきれないな」

 そう言ってまた頭を何度もさげてくる。
 オレはもう旅路に何度も頭をさげられているので、もうわかったからとなだめるのにまた苦労するのだった。

 そして10分もせずに城門まで辿り着くと、グレスは

「オレ、先に行ってサルジ皇子の事を伝えてくるっち!」

 そう言って、オレの制止も聞かずに走り去っていく。

「あぁ。もう!仕方ないなぁ。さっきもうメイとキントキに頼んでたの気付かなかったのか……」

 オレはそう言いながらもグレスの喜びように笑みを浮かべていたら、

「ユウトさんも何だか嬉しそうですよ?」

 と、リリルに見抜かれて逆にほほ笑まれてしまった。恥ずかしい……。
 そんなやり取りをしていた時、何だか門の方に懐かしい気配を感じる。

 オレは勘違いではないか念のために『第三の目』で確認すると、そこには確かに懐かしい顔があったのだった。

「オズバンさん!?それにバッカムさんも!!」

 リリルの義理の兄であるオズバンさんと、その雇い主であり、かつて一緒に旅もした商人のバッカムさんがいたのだ。
 すると、リリルが感極まって馬車を飛び出し、オズバンさんの前まで走りよると、

「お兄ちゃん!!……無事で、無事で良かった……」

 そう言いながら抱きつき涙を流す。
 オズバンさんがそっと抱きしめ返してリリルの頭を撫でると、

「リリルこそ無事で何よりだ。随分頑張ってたようだが、変わりはないか?」

 と言って目に涙をためていた。

 闇の眷属に地方都市ミングスとドミスが滅ぼされるなど、この世界レムリアス全体が不穏な空気に呑まれている状態なのだ。
 リリルは、きっと口にこそ出さずとも物凄く心配だったのだろう。
 オレはリリルの事も、そしてメイの事ももっと気にかけないといけないなと反省する。
 早くに仲間になった二人は特に、何か一緒にいて当たり前になっていた。

(二人も、そしてもちろんグレスとパズ、キントキ、ケリーの事もちゃんと考えてあげないとだな)

 オレはそんな風に思いながらも、同じく馬車を降りて懐かしい顔ぶれの所に向かう。
 ちなみにケリーにサルジ皇子の護衛は頼んでおいた。パズが頭の上に乗ってきたので……。
 まぁ事情を察したサルジ皇子が逆に行ってきなさいと促してくれたし、ここはお言葉に甘えておく。

 ひとしきり泣いた後にリリルは、

「でも……、な、なんで?なんでこんな所にいるの!?」

 と、疑問の声を口にする。
 確かに別れ際に聞いていたルートからは大幅に外れている。

「それはな。バッカムさんが気を利かせてくれたんだ」

 オズバンさんの視線を受けたバッカムさんは、

「まぁ元々趣味でやってる商売ですし、行く当てを今話題のプラチナランクパーティーに変えても問題ないでしょう」

 そう言って、そしておめでとうございますと、祝福してくれる。

≪サービスで優斗たちの居場所と到着時刻を神託で教えてあげておいたんだから感謝しなさいよ≫

 なんかセリミナ様の声が聞こえた気がするが、神託ってそんな使い方しても良いのだろうか……。
 まぁでも今回はオレ達の事を思っての事なので感謝の気持ちを伝えておく。

「ありがとうございます。そしてバッカムさん、オズバンさん。お久しぶりです。本当にこうやってまた再会できて良かったです」

 オレもちょっと泣きそうだ。

「ばぅわぅ♪」

 オレの頭の上のパズも嬉しいみたいだ。

 こうして久しぶりの再会をお互い喜んでいたのだが、そこに賑やかなお邪魔虫グレスが帰ってくるのだった。

 ~

「おぉぉ!リリルっちのお義兄さんかぁ。俺っちはグレスと言うっち」

 そう言って空気も読まずにオズバンさんに握手を求める。
 せっかくの再会に水を差された形になって、一瞬顔を引き攣らせるオズバンさんだったが、

「あぁ。リリルの義兄のオズバンだ。……もしかして……、あの皇国にこの人ありと言われた『自在撃のグレス』殿か?」

 グレスの名前に聞き覚えがあったのか、初耳の二つ名で確認する。
 すると、久しぶりにその二つ名で呼ばれたのが少し恥ずかしかったようで、

「ま、まぁ、そう言われていたこともあったっちな。このパーティーじゃ一番弱いからあんまり二つ名とか嬉しくないっちけど」

 とバツが悪そうにこたえる。
 オレはそんな自分を過小評価する事ないのにと思いつつも話を聞いておく。

「おぉ。やはりあの!? ん?しかし、このパーティーと言うのはユウトの『暁の刻』の事か?」

「そうだっちよ?」

「その中にはリリルも入っているのか?」

「もちろんだっちよ」

「という事はグレス殿より、リリルの方が強いと言うのか?」

「当たり前だっちよ~。まぁリリルっちは接近戦苦手だから状況にもよるっちけど、リリルが本気だしたら皇国一人で滅ぼせるんじゃないっちか?」

「皇国と言うのはこの大国『ゲルド皇国』の事か?」

「そうっちよ」

「「・・・・・・」」

 会話がそこまで進んだ所で、自分の事を話されている事に気付いたリリルがジト目で見つめているのに気づく二人。

「なに?お兄ちゃんにグレス自在撃さんもどうしたのかな?」

「「な、何でもないぞ!(っちよ!)」」

 何か身の危険を感じてハモる二人だった。

 こんな感じで自己紹介しつつ、サルジ皇子の登場でオズバンさんが何度目かの衝撃を受けつつ、オレ達が話していると、ようやくメイとキントキが出迎えの騎士団と共に現れたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる

灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~ 幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。 「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」 「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」 最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー
ファンタジー
⭐︎旧タイトル:レイの異世界管理者生活 〜チート魔女になったので、この世界を思いっきり堪能する所存です〜 「あなたには私の世界に来て、私の代わりに管理者をやってもらいたいの」 鈴蘭の魔女リリスに誘われ、レイが召喚された異世界は、不思議で美しい世界だった。 大樹ユグドラを世界の中心に抱き、人間だけでなく、エルフやドワーフ、妖精や精霊、魔物など不思議な生き物たちが生きる世界。 この世界は、個人が人生を思い思いに自由に過ごして全うする「プレイヤー」と、愛をもって世界システムを管理・運営していく「管理者」の二つに分かれた世界だった。 リリスに子供の姿に戻されたレイは、管理者の一員となって、世界の運営に携わっていく。 おとぎ話のような世界の中で、時に旅しては世界の美しさに感動し、世界の不思議に触れては驚かされ、時に任務や管理者の不条理に悩み、周りの優しさに助けられる……レイと仲間達が少しずつ成長してく物語。 ※ストーリーはコツコツ、マイペース進行です。 ※主人公成長中のため、恋愛パートは気長にお待ちくださいm(_ _)m

アイテムボックスだけで異世界生活

shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。 あるのはアイテムボックスだけ……。 なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。 説明してくれる神も、女神もできてやしない。 よくあるファンタジーの世界の中で、 生きていくため、努力していく。 そしてついに気がつく主人公。 アイテムボックスってすごいんじゃね? お気楽に読めるハッピーファンタジーです。 よろしくお願いします。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦 *主人公視点完結致しました。 *他者視点準備中です。 *思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。 *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...