上 下
122 / 137
第三章 追憶と悔恨

【第120話:遊ぼうよ】

しおりを挟む
 その魔物の向かった方向に駆け出したオレだったが、一瞬で回り込んだゼクスに行く手を阻まれていた。

(くっ!?あのデカい魔物は!?)

 そして思考がそちらを向いた瞬間を見逃してくれるほどゼクスは甘くなたった。
 羽をこちらに突き出すと一瞬で伸びてオレの胴体にめり込んだ。

「かはっ!?」

 オレは10mほど吹っ飛びながらも頑丈な体とローブを与えてくれたセリミナ様に感謝し、空中で体勢を立て直して何とか足から着地する。
 すぐさまゼクスを視界に捉えるが、先ほど魔物を呼び出す対価に支払った羽は既に再生されているのに気づき、

「一瞬で治る対価とか反則じゃないのか……」

 と愚痴るがゼクスは勿論待ってくれない。
 ゼクスから放たれた漆黒の羽根の弾丸が雨あられのように降り注ぎ一瞬身構えるオレだったが、突然現れた半透明の仮初の手がそれらを纏めて薙ぎ払う。

【権能:鬼殺しの手】

「僕やキントキを忘れてもらっては困るでござる!」

 メイは薙ぎ払った巨大な仮初の手で今度はゼクスに拳を打ち込もうとするが、

「あなた達こそ忘れてもらっては困りますね」
「忘れてしまった事を後悔させてあげますね」

 クスクスとトストスから打ち込まれた漆黒の鎖のようなものがメイに迫る。
 しかし、メイが焦る事は無かった。

「がぉぉ!!」

 巨大化したスターベアのキントキは、メイの前に割り込むとその漆黒の鎖を腕で絡みとり、お返しとばかりにクスクスとトストスを引きずり倒す。

「「きゃぁ!?」」

 見た目通りの可愛らしい声を出して前のめりに倒される二人。
 いかに上級魔人と同等の力を有する二人でも、膂力で【権能:そびえ立つ山】を発動したキントキには敵わなかったようだ。

 しかし、今度はそのキントキが数メートルも吹き飛ばされる。

「がぎゃぅぅ!」

「うぁ!?キントキーー!!」

 メイが慌てて仮初の手で受け止めるがかなりのダメージを受けたようだった。

「ふん……意外としぶといな」

 そしてキントキを吹き飛ばした張本人のゼクスは、興味なさげにそう呟く。

「ゼクスーー!!」

 オレは元々纏っていた≪神光しんこう武威ぶい≫に更に魔力を込めて能力を底上げすると、一気にゼクスに詰め寄って抜き放った名も無きスティックで光の斬撃を直接叩き込む。

 ガギギン!!

 しかし、その光の斬撃は闇の斬撃によって阻まれた。

「その程度の力で……」

 そう言いかけたゼクスだったのだが、

義憤ぎふん爪痕つめあと

 そう呟いたオレから放たれた5本の爪痕がゼクスの体に直接刻み込まれる。

「ぐ!?おのれ!!」

 そう言って一旦大きく距離を取って怒り狂うゼクスではあったが、その数秒後には既にその傷は回復してしまっていた。

「えぇぇ~……それはズルくないか……」

 オレのその愚痴が今度は聞こえたのかゼクスの口に嘲笑が浮かぶ。

「ぐははは。使徒の力程度でオレを倒せると本気で思っているのか!」

「クソーヤバイゾー!イッタイドウシタライインダ」

 オレがそう言うと更に満足そうな表情を浮かべるゼクスだったのだが……、

「ユウト兄ちゃん、芝居下手すぎるよ……まぁそれに気づかないあっちの魔人もどうかしているけど……」

 遠くから隠れて見守っていたズックが呆れたように呟いていたのには気付いていないようだった。

 ~

 ユウト達が戦闘を始めていたその頃、パズ達の馬車ソリに迫る大きな影があった。

「ばぅわぅ!!」

 パズがそれに警戒の声をあげると、リリルが気付きすぐさま魔法を撃ち放つ。

≪わが身は力。そのみなもとは火。全てを焼き尽くす紅蓮の刃よ。我に仇なす敵を切り裂け!≫
贖罪しょくざいやいば!』

 その詠唱によって紡ぎだされた大きな炎の刃は、薙ぎ払うようにその猛追してくる魔物に迫り確かに命中させた。

 ドゴォン!

「やったか!」

 獣人の護衛がそう声をあげるが、ユウトがいればそれはフラグだと注意した事だろう。
 そしてそのフラグの通り、無傷の魔物が炎を『喰らいながら』飛び出してきた。

「なに!?あの魔物は!?」

 炎に耐性のある魔物はそれなりには存在する。なので炎が効かないという事はありえると予想できた。
 しかし、その魔物は効かないどころかリリルの放った炎を喰らいながらその速度を緩めることなく迫ってきていた。

「あれは!!ケルベロス!!あの三つの頭を持つ狼型の魔物は村の文献で見た事があります!!」

 シラーさんが文献の挿絵で見たものとそっくりだと皆に伝える。

「ケルベロスっちか!?魔物の中でも国が騎士団総出で対応するような魔物っちよ!?」

 サルジ皇子を診ていたグレスが驚きの声をあげてすぐさまスリングを取り出すと、

「アースーショットーー!!」

 と巨大な土の槍が迫りくるケルベロスに撃ち放つ。
 そして正確無比にケルベロスの真ん中の頭の鼻っ柱に命中したかと思った直前、その槍はケルベロスの強靭な顎で噛み砕かれるのだった。

「「そ、そんな……」」

 プラチナ冒険者の一撃を軽くあしらったその姿に、護衛の獣人の二人が絶望の声をあげる。
 そしてもっと速度をあげて逃げないとと思ったその時、ガクンとその速度が落ちたのを感じる。

「ばぅぅん!」

 そしてまるで氷の上を滑走するように進んでいく馬車ソリと逆光するように小さな小さな影がすれ違う。

「パズ君!!」

 そしてリリルが声をあげたその時、ケルベロスの体は地面から突き出た巨大な岩の槍によってその巨体を吹き飛ばされたのだった。

「ばふふふふっ♪」

 遠く離れたユウトにはこう聞こえていただろう。

 さぁ僕と遊ぼうよ♪
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

処理中です...