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第三章 追憶と悔恨

【第113話:ダンジョン その1】

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 その頃、ダンジョンの最奥にてうごめく者たちがいた。

「ゼクス様。そろそろこの遺跡の主も『堕ちた』ようですわ」
「ゼクス様。遺跡の主もたいしたことなかったようですね」

 二人の少女はクツクツと笑いながら足元にひれ伏すこのダンジョンの本来の主である『不死王ゲルグランデ』を睥睨へいげいする。
 中級魔人の『クスクス』と『トストス』は位階こそ『中級魔人』であったが、それは『上級魔人』になる為の力がないのではなく、上級魔人になる際に生じる姿の変革を好まないだけであった。

 魔人は下級、中級、上級とわかれているのだが、実際には邪心から授かる恩恵呪いの強さを表すだけで、総合的な強さはベースの強さによる所も大きいため、同じ位階でもその強さはまちまちであった。

 そしてクスクスとトストスは並の上級魔人をはるかに凌ぐ強さを秘めていた。

「もうよい。その辺にしておけ。主が死ねばダンジョンの崩壊が始まってしまう。せっかく丁度よい隠れ家を見つけたのだからな」

 グレスは鷹揚に頷きそう話すと、ダンジョンの『主の間』、いわゆるボス部屋を後にするのだった。

 ~

 オレ達はダンジョンの封印のかかっている鳥居のようなオブジェの前までやってきていた。
 ダンジョンの下見はあらかじめしていたので、オレはこのオブジェを媒体にして結界が張られているのはわかっていた。
 結界自体はそこまで強力なものではないため魔物や人の侵入を完全に防ぐものではなかったが、無理に入って結界そのものが機能しなくなると困るので獣人から許可をもらう必要があったのだ。

(まぁ許可が降りなかったら結界を壊してでも侵入して、責任をとってダンジョンを攻略するつもりだったけどね。決して『ダンジョン』という響きに『血沸き肉踊る冒険』を期待してワクワクしたりなんかしていない)

 ここにいるメンバーは『暁の刻』のオレ、パズ、リリル、メイ、キントキ、グレスの四人と二匹以外に、獣人のシラーさんと護衛のソルブとヌアーさん、そして孤児院のズックだった。

 シラーさんはそのオブジェの前まで行くとそっと手を触れて見上げると、目を瞑って何やり呟き始める。
 オレ達はその様子を少し離れた所から眺めていると、突然オブジェが揺らいだように見えた。

「終わりました。さぁ、一時的に封印が解けていますので中に入ってください」

 結構あっけなく封印を開けたシラーさんがそう言うとオレは先頭に立って歩きだす。

(ふふ。まずはダンジョン一番乗……)

「ばぅっ!」

「あ!?ズルい!」

 パズが僕が一番乗り~!とか言いながらオレの頭の上から飛び降りて先に入っていく。

(く……決してダンジョンにワクワクなんかしていない。いないぞ……)

「に~~ばん♪」

 オレがパズに先を越されて内心悔しがっていると、タタタと走ってきたズックに先を越されてしまう。

「ズック殿!危ないでござるよ!」
「がうがう!」

 今度は、先ほどズックの護衛をお願いしたメイとキントキが一瞬でオレを追い抜いてダンジョンに入っていく。

「待つっちよ!罠とかあったらどうするっち!」
「そうですよ!」

 そしてグレスとリリルにも追い越され、取り残されるオレ……。

「えっと……」

 こうしてオレ達のダンジョン探索の幕はあがるのだった。

 ~

 ダンジョンは朽ちた遺跡が変化して発生したものだそうで、見た目は少し複雑なつくりをしている遺跡のような姿をしていた。
 正確に確認したわけではないが、オレの『第三の目』を使って調べた所、その広さは円状に直径1kmほどで更に地下に幾層かの層が広がっていた。
 入って数分で魔物に遭遇し、その後も数分に1回のペースで次々に魔物に出くわしている。

 まぁ先頭を歩くパズが鎧袖一触がいしゅういっしょく氷のつぶてで蹴散らしていて一歩も歩みを止めてもいなかったりするのだが……。
 鼻歌交じりに歩くパズの後姿を見ながら、

「な、なんか思ってたダンジョン攻略と違う……」

 とオレが思わずこぼしてしまう程、単に歩いて進んでいくだけになっていた。

「さ、さすがパズ様ですね!」

 ただ、その光景は『暁の刻』以外メンバーの目にはあまりにも衝撃的で、シラー達獣人やズックは目を輝かしていたのだった。

(まぁ待ち伏せしている敵の位置も強力な罠もオレの『第三の目』でバレバレなわけで、闇の眷属の大軍勢をも退ける戦力があるのだから『血沸き肉踊る冒険』など期待したオレがバカだった……)
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