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第二章 激動

【第72話:動き出す世界】

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 その日も王城での話し合いは紛糾し、平行線のまま終わろうとしていた。
 しかしその時、その知らせは突然飛び込んできた。

「だからそれでは王都の守りが手薄になるではないか!今こうやっている間に闇の眷属の侵攻がおこればどうするのだ!今はまだ東の国境線にこの国の主力が展開したままなのだぞ!一刻も早く…「お取込み中の所失礼致します!!」」

 突然扉が開かれ、近衛兵と思わしき人物が飛び込んでくる。

「何事だ!人が大事な話をしている時に!」

 と、話を中断されたことが気に入らない官僚が口調を荒くして飛び込んできた近衛兵に尋ねる。
 すると近衛兵は、

「申し訳ありません。ですが冒険者ギルドの連絡網からの緊急連絡が入りましたのでお許しください」

 そう言って冒険者ギルド経由の緊急連絡が入った事を伝える。

 冒険者ギルドは一応国を跨いだ機関なので国を超えて連絡する為に様々な連絡手段を持っている。
 そのため、国同士での連絡を行う場合は直接やり取りをするよりも、間に冒険者ギルドに入ってもらった方が早く連絡が取れた。

「いいから早く報告しなさい!」

 痺れを切らしたユナが官僚への謝罪などいいからと近衛兵に命令する。

「失礼しました!東の隣国のゲルド皇国が闇の軍勢の侵攻を受け、我が国に助けを求めてきております!」

 と、衝撃の報告をもたらすのだった。
 ~
 その後、ゲルド皇国からもたらされた情報を全て聞き終わると部屋は静寂に包まれていた。

「そ、そんなに酷い状況なの…。もう国が亡ぶのも時間の問題じゃない…」
「ゲルドの戦力は我が国とあまり変わらないはず…、このままでは我が国も同じ運命を辿るぞ」

 ユナと官僚の一人がポツリとつぶやいた。
 長年小競り合いを続けていた憎き敵国ではあるが、特別非人道的な国というわけでもなく、既に地方都市は陥落し、皇都まで闇の軍勢が迫っていると聞いては思わず同情してしまう。
 それ以前にパタ王国もさほど変わらない戦力しか持っていない為、もしゲルド皇国が亡べば次は自分たちの番だと嫌でも認識させられたのだった。
 そんな中、大騎士シトロンが言葉を発する。

「国王陛下。恐れながら申し上げます。憎き敵国ではありますが、このまま放っておけば次は我が国の番なのは間違いないでしょう。幸い今我が国の主力は東の国境線に展開しております故、急ぎゲルド皇国皇都ゲルディアに向かわせ、人類の力をあわせて闇の軍勢に対抗すべきかと思われます」

 その言葉に官僚たちは思わず反論しようとしたのだが、感情を抜きにして考えると今動かなければ次は自分たちの番になるのは明白であり、それなら今共に戦って活路を示すべきだと口をつぐむ。
 そして今までずっと静観していた国王が口を開き、

「わかった。もうこうなっては他に選択肢はないだろう。シトロンよ。すぐに貴公も準備を整え第一騎士団の元に向かい、直接指揮を執って見事闇の軍勢を打ち破ってくるのだ!」

 と決定を下したのだった。

 ~

 オレ達は特訓を終えてエルフの里に戻ってくると、すぐに夕食を取りまったりと心地よい時間を過ごしていた。

「今日の晩御飯は美味しかったでござる~。あれは何という料理でござるか?」

 と、メイが今日の料理の名前を聞いてくる。
 オレもよく知らないので助けを求めるようにリリルの方を向くと、クスリと笑いながら

「今日頂いた料理はこの地方の特産品であるキトの実とユング鳥を一緒に煮込んだ『キットグ』という料理ですよ」

 と丁寧に教えてくれる。
 しかし、知識かくかくしかじかとしては知っていたのだが、どちらの食材も食べるのは初めてなのでオレはとりあえず美味しかったとだけ覚えておく事にした。
 淹れてもらったお茶をすすりながら、そんな他愛もない話をしている時にそれは聞こえてきた。

 リンリンリンリン…

 そしてその厳かな音とともに、部屋の中に少し小さな光の柱が立ち昇る。
 そして鞄の中から木彫りの女神像が飛び出してきて宙に浮く。

「うわっ!?何でござるか!?」

 と驚くメイに、オレは

「あぁ。セリミナ様だから大丈夫。気にしないで」

 と当然のように答える。
 しかしメイは、

「えぇぇぇ!?気にするでござるよ!?全然大丈夫じゃないでござる!?」

 と叫んで、何故か慌ててキントキを呼びに行くのだった。
 ~
 大騒ぎのメイとキントキに、緊張に固まるリリル。
 普段通りのオレとパズ。
 そんな三人と二匹の見守る中、光の柱の中からセリミナ様が現れる。

≪ゆ~う~と~!「気にしないで」じゃないです!私の使徒なのに優斗とパズは全然ありがたがってないわね!これでも古の神の一柱なんだよ!?≫

 と、いきなりご立腹だった。

「いやぁ。そう言われても感謝も尊敬もしてますけど、現代っ子なんで神様とか言われてもピンとこないですし?」

 と言い訳してみるオレ。

≪もう!優斗は一度私直々にみっちり修行をしてあげるから覚悟しておきなさい!≫

 などとセリミナ様とじゃれあってると、後ろで二人と一匹があんぐりと口を開けたまま固まっていたのだった。
 ~

「ユ!ユウトさん!?暁の女神様になんて口のきき方してるんですか!?」

 我に返ったリリルにまで怒られ、内心いつもの事なのになぁとか思いながら謝る。
 毎晩寝る前に祈りを捧げているのだが、最近は2、3日に1回は顕現するのだ。
 だんだん緊張感も薄れていくのも仕方ないと思うのだが、こちらの世界ではとんでもない事なので以後みんなの前では控える事にしようと決めるのだった。

 そしてその後、何か変に緊張感の抜けた空気の中、闇の眷属の侵攻という驚愕の知らせを聞くことになるのだった。
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