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第一章 旅立ち

【第21話:冒険者はじめました】

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 少し軽い気持ちで依頼を受けにきたオレ達だったが、その斡旋された依頼内容が思いのほか危険度の高い物だった。
 そのため一旦保留にしてもらいギルド2Fのテーブルで話し合っていた。

「アリ塚の確認された場所がかなり近かったので討伐依頼的には楽な部類なのですが、、どうしましょうか…?キラーアントの討伐は当たり外れが大きくてリスクが高い依頼なので悩みますね…」

 リリルが言うには、キラーアントは集団で行動する事が多く、出会った集団の規模によって危険度がまったく異なってくるという。

「リリル殿。どれぐらいの規模の集団なら問題なさそうでござるか?」
「そうですねぇ。ユウトさんとパズくんの戦闘力がずば抜けてるし、キントキくんもいるから10匹や20匹でもなんとかなるかもしれないですけど、その中に上位種のソルジャーとかが交ざってると、結構危険になるかなぁ?」
「リリルの見立てだと、10匹ぐらいならソルジャーとかいうのが交ざってても大丈夫そう?」
「はい。10匹以内なら油断しなければ大丈夫じゃないかと思います。あとは不意打ちされたりしなければ?」

 リリルの見立てを聞いたオレは、

「じゃぁ、依頼受けてみてもいいんじゃないかな?パズが気配読むの得意だから、多い集団をさければ何とかなりそうだし」

 そう。パズはかなり遠くの気配を正確に察知できるようなので、不意打ちはもちろん、近づいてくる集団の規模の把握も問題ないと提案してみる。
 するとパズも「ばぅばぅ」と同意の気持ちを伝えてきたので、結局オレ達はその依頼を受けることになった。
 ~

「は~い。じゃぁこれで依頼の手続きは終わったわ。これが契約の石よ。無くさないでね~」

 と、説明を終えた受付のお姉さんは最後に契約の石を一つ渡してきた。

「これが契約の石かぁ。ありがとうございます。それでは早速向かいますので失礼しますね」

 オレが代表して契約の石を受け取り、お礼を言ってギルドを後にする。

 依頼の内容はもちろんキラーアント討伐だ。
 アリ塚の場所は街から近い森の中、比較的浅い場所にあるようで、ギルドから特別依頼の指定がされていた。
 おかげで冒険者ギルドの方で乗り合い馬車まで手配してくれており、その森の入口まで連れて行ってくれるそうだ。
 他にも素材買取サポートがあるようで、倒したキラーアントを森の入口まで持っていけばその場で買い取ってくれるらしい。
 結構至れり尽くせりだ。

「特別依頼だったからあんな少し強引に斡旋してきたんですね」

 とリリルが言うと、メイが

「特別依頼とは何でござるか?」

 と聞いてきた。
 オレも特別依頼という言葉自体は知らなかったのだが、話の流れから何となくは理解できていたので説明してみる。

「ギルドが緊急性が高いとか重要度が高いとか判断した依頼を特別依頼として指定するんじゃないかな?それで指定されると優先して冒険者に斡旋したり依頼自体をサポートしたりするような?」

 違う?と、リリルにも確認する。

「そうですね。だいたいユウトさんの説明通りです。今回は森の前までの乗り合い馬車の手配と、出張素材買取がサポートの内容ですね」
「なるほどでござる。ユウト殿、リリル殿ありがとうでござる!」

 といってまたメモを取るメイであった。
 ~
 その後、受付のお姉さんに教えてもらった南門の所まで行くと、2頭立ての乗り合い馬車が1台止まっており、ちょうど出発するところだった。

「あ!待ってください!オレたちも乗ります!」

 そういって駆け出して御者のお兄さんに話しかける。

「おっと~、ちょうど良い所にきたな。今から出るところだ。2、、いや3名か?ん?そっちの従魔は乗せれないが大丈夫か?」

 さすがに大きめの馬車といってもスターベアはもちろん乗れなかった。

「大丈夫でござる!キントキには馬車の後ろをついてくるように言うでござる」

 一瞬語尾のござるに驚いた様子だったが、そのまま無事出発することになった。
 パズは普通に馬車に乗れたのだが、キントキの背中が気に入ったのか背中の上で気持ちよさそうに惰眠をむざぼっていた。

「ユウト殿…。パズ殿は本当にいったい何者なのでござるか…」

 と、また聞かれたのだが、「…ちわわ?」とだけ答えるのだった。
 ~
 馬車に乗り込むと、オレ達のパーティー以外にもう一組のパーティーが乗っており、

「よう!お前らもキラーアント討伐か?若いのにやるなぁ」

 と、気さくに話しかけてきた。

「はい。初めての依頼なんで浅い所でやるつもりですがよろしくです」
「おぉ。そっちのちびちゃんが見習いって感じか?初依頼でキラーアント連れていくとかすげーな!」

 なんかメイだけ見習いのように思われていたが、話すと長くなりそうなのであえて説明しなかった…。
 話しかけてきたパーティーは四人組で、全員が20代前半ぐらい、男のみ前衛のみのコッテリパーティーだった。
 感じの良い人達だったのだが、リリルを恋人と勘違いされて途中から半分妬みのこもった冷やかしに、少しげんなりするのだった。
 ~
 その後、馬車で1時間ほど揺られて森の入口に到着する。
 そこまで鬱蒼うっそうとした感じではなかったが、結構木々の生い茂る森だった。
 一緒に乗ってきたパーティーの人たちは、後ろにスターベアのキントキ(と、パズ)がついてきているのにかなり驚いていたが、

「それじゃぁ、お前らも気をつけてな!彼女しっかり守れよー!ひゅーひゅー!」

 とか最後まで言っていた…。

「えっと…。それじゃぁオレ達も行こうか?」

 そのせいでオレは変に意識をしてしまうが、リリルも同じだったようでうわずった声で返事していた。

「そ、そうですね!わ、私たちも行きましょう!」

 ~
 出発しようとしていると、キントキから降りたパズが近づいてきて今度はオレの頭に飛び乗った。

「ばうぅ!」

 出発ー!らしい。。移動中本気で寝てたみたいで無駄に元気だ…。

「そうだ。メイは斧?を腰につけているが、自身でも戦えるのか?」

 馬車の中で確認できなかったので聞いてみる。

「近接も出来るでござる。この斧はマジックハチェットで結構強いでござる」

 と、自慢の武器のようで少し嬉しそうに答えてくれた。

「お~魔法の武器なのか。それは凄いな。どんな効果があるんだ?」

 魔法の武器だと言う事なので戦力の把握の為にも確認する。

「あ。ユウトさん。魔法の武器などは冒険者の間では詮索しないのがマナーなんですよ」

 と、リリル先生が教えてくれる。

「そうなのか。メイ、悪かったな。無理に言わなくてもいいからな」

 と取り消したのだが、メイは逆に聞いてほしかったらしく、

「む、無理ではないでござる!二人は恩人なので特別に教えてあげるでござる!」

 と、言って教えてくれた。言いたかったのね…。
 なんでもこのマジックハチェットは、メイの家に代々伝わるものだそうで、魔力を流すと持っている人には重さが感じなくなるそうだ。
 しかも、斧自体の素材が特殊なものらしく通常より魔力撃の威力がアップするらしい。

「凄い武器じゃないか。それならメイ自身も戦力として考えても大丈夫そうだな」

 と呟いたのだが、その後メイの口から凄い情報が飛び込んでくる。

「もちろんでござる!メイはキントキとの対戦成績で48勝21敗2引分で勝ち越してるでござる!」

 衝撃の事実!
 なんとメイはスターベアのキントキよりも強いらしい。

「え!?メイちゃんそんなに強いの?」

 リリルが驚き、思わず聞き返す。
 オレも信じられなくて聞き返そうとすると、

「ばうわぅ」

 パズが本当らしいよ~と気持ちを伝えてきたのだった。

(ござるだけでもキャラたってるのに、熊連れて斧持ってて熊より強いとか、『金太郎キャラ』まで付いてくるのか…)

 と、思ったのは内緒の話である。
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