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第三章 追憶と悔恨

【第133話:これから】

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 皇都にて穏やかな数日の時が流れていた。

 魔人ゼクスの件は冒険者ギルドと国にも報告しており、双方全力で行方を追ってくれているようだが、まだ何も報告はあがってきていない。
 また、あれほど激しかった魔族や闇の眷属たちの行動も鳴りを潜め、世界は仮初の安寧の時を過ごしている。

(ずっとこのまま平和な時が続けば良いのに。でも……これで良かったんだろうか……)

 気付けば取り留めもない思慮の海に沈んでいた。
 しかしその時、明るい声がオレを現実に引き戻してくれる。

「ユウトっち。何ボーってしてるっち?リリルっちの事でも考えてたっち?」

「な!?ち、違うっちよ!?」

 突然のツッコミに思わずグレス化してしまった……。

「今回の件は、ほんとにありがとうっちよ」

 いつも通り宿で朝食を食べている途中なのに、いきなりグレスがあらたまって礼を言ってくる。

「急にどうしたんだ?今日は雨でも降るのか?」

 ちなみに皇都周辺は雨期以外はほとんど雨が降らないそうだ。

「え?今日、雨降るんですか?」

 席を外していたリリルが戻ってくると同時に、素で聞いてくる。
 それに対してグレスは少し拗ねたように口をとがらせると、

「振らないっちよ!ユウトが仕返しに俺っちをからかっただけっち」

 とこたえ、真面目に言ってるのにすぐ茶化すっちと文句を言っている。

「ユウト殿は急に改まられて恥ずかしがってるだけでござるよ」

 メイさんがたまに鋭いツッコミを入れてくる件について。
 オレはその言葉でできた場の空気がくすぐったくて、

「ま、まぁ何だよ。もうグレスは『暁の刻』のメンバーなんだから今更そんな事気にするなって事だよ」

 とか言ってみるが、何か見守るような生暖かい視線がオレの心の防壁をガリガリと削ってくる……。

 オレは何かこのままこの話題を続けるのが危険そうなので話題を変えてみる。

「それよりこれからどうするかなぁ……あちこち行ってみたいとは思っているんだけど……」

「どうするって……どうしましょうか」

 思えばリリルと出会ってから、ずっと選択の余地なく慌ただしい日々を送ってきたから、リリルもオレと同じくこの後どうするのが良いのか思いつかないようだ。

「なぁ。グレスは本当に残らなくても良いのか?」

 オレは先日グレスに、皇子が見つかったのだからパーティーを抜けて残っても良いんだぞと伝えたのだが、もうその気は全くないようで、オレ達と冒険者として生きていくと答えていた。
 だけど、やっぱり気になってもう一度聞いてしまう。

「それはこの間こたえたっち。前から考えていた事だからそれこそ気にしないで良いっちよ」

「気が変わったらどうするでござる。ユウト殿は余計な事聞いたらダメでござるよ!」

 メイはせっかく仲良くなったグレスと別れるのは嫌なのだろう。

「まぁ確かにそうだな。オレの方こそ仲間だとか言っときながら何度も聞いて悪かったよ」

「でもこの後どこに向かうでござる?ユウト殿にも神託はないでござる?」

 メイがセリミナ様からお話が無かったかと聞いてくるので、

「あぁ~そう言えばセリミナ様からお話があったよ」

 と思い出してこたえると全員が身を乗り出してきて

「「「そう言う大事な事はすぐに教えてください!(でござる!)(くれっち!)」」」

 と怒られるのだった。

 ~

 オレは何とか3人を宥めると、どんな内容だったかを説明を始める。

「まぁ神託って程の事ではないんだけど、夜のお祈りしてたら話しかけてきて ≪ん~?暫くは……たぶん2、3年かな?それぐらいは【邪神ヒリウス】の活動が低下しているから【世界の裏側】も静かだと思うよ。その間は異世界観光でもして好きに過ごしたら?≫ だってさ」

「「「・・・・・・・・・」」」

「ん?どうしたの?」

 オレは一言一句その通りに伝えたのに、不満そうにジト目で見つめられているのに気づいてきいてみたのだが……。

「セリミナ様がそんないい加減な言い方するわけないっち」

「そうですよ!いくらユウトさんでも失礼です!」

「そうでござる!使徒にあるまじき行為でござる!」

「ばうわぅ!」

 何か一匹面白がって便乗している奴がいるが、とりあえずこう思う。

「何か理不尽だ……」

 ちなみにこの後、国とギルドにもちゃんと報告しました。

 ~

 オレはもう一度3人を宥めると、あらためて皆に希望の場所はないか聞いてみる。

「僕は皆で行くならどこでも良いでござる!」

 まぁメイはそう言う気がしていました……。

「私も特には……。ユウトさんの行きたい所で良いですよ」

 うん。リリルもそう言う気がしていました……。
 うちのパーティーってあまり自己主張ないんだよね。

「俺っちは一か所行ってみたい所があるっちよ」

 パーティー唯一の自己主張男グレスさんが行きたい所があるようだ。

「ん?どこに行きたいの?」

 オレがそう聞き返すのを待っていたかのように少し間をおいてもったいぶると、グレスはようやくその場所を口にする。

「帝国っち。デルファイ帝国の首都『デルフィ』に行きたいっち」

 この大陸で最大の広さを誇り、人、経済、軍事の全てにおいて絶大な力を誇る国だ。

「人類初のプラチナランク冒険者パーティー『精霊の涙』がいるところですよね?」

「そうっち。この世界の冒険者ギルドの総本部のある場所でもあるし、首都デルフィのすぐ近くには次元迷宮『サルバロス』があるっち」

 次元迷宮とか言うオレの好奇心をくすぐるキーワードが、グッと心を鷲掴みしてくる。

「よし!そこに行こう!」

「決めるの早いっちよ!?」

 即断即決と言って欲しい。

「まぁ次元迷宮ってのに心を鷲掴みにされたのは認める」

 とりあえず開き直っておく。

「開き直ったでござる……。まぁでも僕も行ってみたいでござる!」

「私も次元迷宮『サルバロス』の話は聞いたことがあります。私たちはもっと強くならないといけないですし、次に向かうのには良い場所なんじゃないでしょうか」

「じゃぁ決まりだな!次はデルファイ帝国の首都『デルフィ』にしよう!」

 あっけなく次の目的地を決めたオレ達は、こうしてもう一度前に進み始めるのだった。
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