5 / 23
第一章 Legend Idoru Notes
走り屋と付喪神
しおりを挟む
車が轟音を唸らせ爆走する。決して広くはなく、加えて乗り捨てられた車が障害物のように散見する道路を減速することなく、むしろどんどん加速しながら黒い何かの大群から遠ざかっていく。少女は車の揺れに堪えながらなんとか京人形の言葉通りシートベルトを付け身を強張らせていた。
「あの、花音さんはどうするんですか!」
「安心しい、花音はんならすぐ追いつくさかい。ほれ」
何事もないように京人形が言いながら窓の外を指差す。光の球を無数に撃ち出しながら爆走する車の後を追う花音の姿が見える。縦横無尽に飛び回りながら、花音は走行する車の上に飛び乗った。
「おいおい、俺の愛車にあまり乱暴なことするなよ」
「うっさい! これでも気つかってる方なんだから! っていうか、傷つけられたくないなら黙って運転しろ!」
へいへい、とぶっきらぼうに相槌を打ちながら車を細い中道へと入れる。蜘蛛の巣のように入り組んだ道を難なく突っ切り、再び大きな通りへと出た。
「飴ちゃんいるかいな、お嬢さん?」
「え?」
外の様子を気にする事なく京人形は少女に飴を一つ差し出した。この状況でここまで落ち着いていられるものなのかと疑問に思いながらも少女は恐る恐る飴を受け取る。
「ところでお嬢さん、お名前はなんちゅうんや? ちなみにウチはお松や。よろしくな」
「えっと、アリスです。よろしく……あれ?」
少女は自分が口にした言葉に驚く。まるで”以前から自分がそう名乗っていた”かの様に、自然と口から溢れていた。呆けているアリスの顔を、お松は神妙な面持ちで覗き込む。
「アリスはん。あんた、前にもウチと会うたことあったかいな?」
「えっと……ごめんなさい。私、今までの記憶が無くて。でも、アリスって名前は何でか自然と出てきたんです」
「うーん、ウチの気のせいなんかなぁ」
お松のゆったりとした空気に影響されてか、アリスは少しだけ緊張の糸が解れていた。とはいえいま現在も黒い何かに追われ続けている。車外の花音の様子を伺うと光の球を撃ち続けながら、訝しむ様な表情だった。
「なんでだろ……いつにも増して今日は調子が良い気がする。力が溢れてくるっていうか……」
「お嬢、大橋を過ぎれば奴らのテリトリーから抜けられる。そこまで持ちそうか?」
「ぜんぜん余裕! っていうより、なんかいつもより調子良いからドンと来いって感じ!」
「お嬢もか? 実は俺も今日は気分が良いんだ。どんな道でも走り切れる気がするぜ!」
二人は自身の身体の異変に驚きつつも、気を緩めることなく周囲を警戒する。気がつくと背後の黒い何かの群れは、花音の光の球による攻撃で明らかにその数を減らしていた。あとは目の前に見える大橋を越えるのみ。
しかし、束の間の安堵を打ち砕く様に目の前の建物が先回りしていた黒い何かの群れによって倒壊し、大橋までの道を封鎖した。
「あの、花音さんはどうするんですか!」
「安心しい、花音はんならすぐ追いつくさかい。ほれ」
何事もないように京人形が言いながら窓の外を指差す。光の球を無数に撃ち出しながら爆走する車の後を追う花音の姿が見える。縦横無尽に飛び回りながら、花音は走行する車の上に飛び乗った。
「おいおい、俺の愛車にあまり乱暴なことするなよ」
「うっさい! これでも気つかってる方なんだから! っていうか、傷つけられたくないなら黙って運転しろ!」
へいへい、とぶっきらぼうに相槌を打ちながら車を細い中道へと入れる。蜘蛛の巣のように入り組んだ道を難なく突っ切り、再び大きな通りへと出た。
「飴ちゃんいるかいな、お嬢さん?」
「え?」
外の様子を気にする事なく京人形は少女に飴を一つ差し出した。この状況でここまで落ち着いていられるものなのかと疑問に思いながらも少女は恐る恐る飴を受け取る。
「ところでお嬢さん、お名前はなんちゅうんや? ちなみにウチはお松や。よろしくな」
「えっと、アリスです。よろしく……あれ?」
少女は自分が口にした言葉に驚く。まるで”以前から自分がそう名乗っていた”かの様に、自然と口から溢れていた。呆けているアリスの顔を、お松は神妙な面持ちで覗き込む。
「アリスはん。あんた、前にもウチと会うたことあったかいな?」
「えっと……ごめんなさい。私、今までの記憶が無くて。でも、アリスって名前は何でか自然と出てきたんです」
「うーん、ウチの気のせいなんかなぁ」
お松のゆったりとした空気に影響されてか、アリスは少しだけ緊張の糸が解れていた。とはいえいま現在も黒い何かに追われ続けている。車外の花音の様子を伺うと光の球を撃ち続けながら、訝しむ様な表情だった。
「なんでだろ……いつにも増して今日は調子が良い気がする。力が溢れてくるっていうか……」
「お嬢、大橋を過ぎれば奴らのテリトリーから抜けられる。そこまで持ちそうか?」
「ぜんぜん余裕! っていうより、なんかいつもより調子良いからドンと来いって感じ!」
「お嬢もか? 実は俺も今日は気分が良いんだ。どんな道でも走り切れる気がするぜ!」
二人は自身の身体の異変に驚きつつも、気を緩めることなく周囲を警戒する。気がつくと背後の黒い何かの群れは、花音の光の球による攻撃で明らかにその数を減らしていた。あとは目の前に見える大橋を越えるのみ。
しかし、束の間の安堵を打ち砕く様に目の前の建物が先回りしていた黒い何かの群れによって倒壊し、大橋までの道を封鎖した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる