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Ⅰ
しおりを挟む「なあ、はるとなんかあった?」
部室までの道を歩いている最中、唐突に紘人が切り出した。心臓がどきりと跳ねた。紘人はおちゃらけて見えるが、ときたま鋭いことを言うから侮れない。
「なんも。てか、なんでそう思うの?」
「はるもあさひも、なんか変な間あるし。それに、やたらはるのこと気にするじゃん」
心当たりしかないが、それを大っぴらにすることはできない。誰にも言わないでと言われてしまっている。言葉にしなくても、態度に出てしまっていたら同じだ。気をつけなければならない。心の中で指摘してくれた紘人に礼を言う。
「そうか?でも、まあ、遥貴が接客苦手かも~って言い出すとは思わなかったなあとは思うけど。」
「だよな!?はる、いいやつだし、いっぱい話してくれるし、全然そんなふうには見えないよな。」
やっぱり、誰の目から見てもそうなのだ。昨日の姿と、普段のあいつは結びつかない。
「ま、ひとにはそれぞれ、そういう意外な一面があるもんなんだろ。さて、朝練してないぶん、頑張るか~。」
「それはお前だけだけどな!」
残念ながら1年生に呑気に喋っている時間はない。ポンと背中を叩かれ、それぞれ自分のロッカーに向かい、着替えを始めた。
部活はつつがなく終了した。昨日のようなミスをすることもなかった。夏の大会で負けて、3年生が引退したばかりの重要な時期でもあるし、気を抜いてはいられない。ほかのことばかり考えているわけにはいかなかった。
1年に課された後片付けも終わって、帰路につく頃には辺りはもう真っ暗だ。学校は都市部から少し離れた場所に建っており、街灯の少ない薄暗い道を抜けなければ駅には着かない。ひとと一緒だと気にならないが、ひとりだと若干怖い。というのも、昨日の件で再び顧問と話をしているうちにチームメイトは先に帰ってしまったのだ。顧問も怒っていたというのではなく、ただ心配してくれていたのだが、そのせいでひとりでこの道を行くことになってしまった。
人気の少ない道で、自分の足音だけがする。デジャヴだ。昨日の、遥貴の姿が頭をよぎる。
遥貴は見せるつもりもなかったのに、と言ってた。そして、今日の態度だ。きっと、触れられたくないことなのだろう。だから、昨日のあの一件は、残暑が見せた幻、夢だったとでも思って、なかったことにしてしまえばいい。
記憶に蓋をして、明日からはいつもどおり、何も知らないただの友人として振る舞えばいい。そう心に決めた。
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