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第八話 推しだけじゃなくて推しの要素を構成する周りのキャラだいたい皆好きになるから結局箱推しになる その4

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「そうですわ……。わたくし達の世界は、元々、侵略なんかする必要はなかったのです」

 ミーティアちゃんが、ぽつぽつと語り始める。
 小さな声に、溜め息が混ざった。

「でも、数年前、突然、世界のあちらこちらに黒い穴が出現するようになりました。その穴は、無差別に、人や物、家を全て呑み込んでしまったのです」

 「黒い穴」。
 「マジカル☆ステラ」では、出て来なかった名前だ。
 私が必殺技を無理矢理変えてからというもの、アニメのシナリオでは出て来なかった要素が次から次へと出てくる。
 もし、私が前世の記憶を取り戻さずに、ずっと「星見台あかり」のままメテオくんと戦っていたら、やっぱりこの世界でも、新しい妖精であるレグルンや、ミーティアちゃんに出会わずに終わっていたのだろうか。

「お父様やお母様、お兄様達……、いいえ、コメット王国に住まう国民全員が、黒い穴を『ブラックホール』と名付けて、ありとあらゆる手段を使って、なんとか世界から消そうと戦っていました」

 ミーティアちゃんの声は、少しずつ震えていく。
 それでも必死に震えを抑え、眉をしかめて話を続けた。

「……、一度は、世界から全ての『ブラックホール』を消すことに成功はしたのです。だけど、また、ブラックホールがわたくし達の世界を侵食し始めたのです。だから……」
「私達の世界を、侵略しに?」
「そういうことですわ」

 ミーティアちゃんは、そっぽを向いて、それきり黙る。
 なんというか、事態はかなり深刻だ。
 今までメテオくんは自分の王国の王子として、ただ王様と王妃様に命令されて戦っているのかと思っていたけれど、それだけじゃなかったみたいだ。
 自分の世界が消えるかもしれないと思ったら、他の世界を潰してでもなんとかしようと思うだろう。
 そもそも、「マジカル☆ステラ」では、コメット王国の王様と王妃様を改心させたところで終わっていたけれど、もしこの設定がアニメでもあったとしたら、その後はどうなっていたのだろう。
 少なくとも、こちらの世界では、アニメと同じように戦っていたらコメット王国は滅んでしまっていたかもしれない。

「事情はわかったよ。要するに、その『ブラックホール』って奴を、ぶっ潰せばいいんだね?」

 拳を握り込む。
 そういうことなら、「ポラリス・パンチ」を復活させてもいいかもしれない。
 ただ殴り合うだけなら、話は簡単だ。
 だって、私は「マジカル・ポラリス」なのだから。

「そ、そうですけど……、簡単なことではないのです」
「やってみなくちゃわからないよ。むしろ、人間相手じゃない分、殴りやすい。皆でボコボコにしてやれば――」
「アステルお兄様が!」

 鼓膜がびりびりと痺れるぐらいの声が、部屋全体に響き渡る。
 見ると、ミーティアちゃんが、潤んだ瞳でこちらを見ていた。

「コメット王国最高最強の第一王子が!『ブラックホール』を消滅させてから行方不明だったのです!ずっと、長い間、皆でお探ししていて……」

 こちらに眉を寄せて、睨んで。
 それから、目尻が緩んで、涙がぽたぽたとあふれ出す。
 乱暴に腕で拭ったけれど、それでも止められないようで、寝転がってうつ伏せになってしまった。
 しゃくりあげるのに合わせて、小さな背中が上下する。

「お兄様はいなくなってしまわれた……。あんなにお強かったのに……」

 背中をさすらずにはいられなかった。
 メテオくん達コメット王国サイドにこんなに重い事情があったなんて。
 メテオくんとミーティアちゃんがお兄さんを亡くしているなんて、夢にも思わなかった。「マジカル☆ステラ」では、そんなことは何も語られていなかったのに。
 つくづく、前世の記憶を思い出しておいて良かった。

「それなら、なおさら私達も戦わなきゃね。メテオくんとミーティアちゃんのお兄さんまで奪うなんて信じられないよ。一発殴らなきゃ気が済まない」
「な、なんでそうなるんですの?!」

 ミーティアちゃんが、勢いよく起き上がって私の方に振り向く。
 そのおかげで、ミーティアちゃんの豊かな黄金のツインテールが、私の顔に直撃した。

「ぐほっ」

 あ、なんかいい匂いがする。
 襟首を掴まれて近づかれたから、余計に。

「あなた、ばかですの?!あなたもアステルお兄様みたいになってしまうかもしれませんのよ?!それでもいいんですの?!」
「良くはないけど、何もしないわけにはいかないよ。だって、このままメテオくんとミーティアちゃんにこの世界を侵略されるわけにもいかないからね」

 たいして痛くはなかったけれど、ものすごくいい匂いがした。
 やっぱり、多少雨に濡れて泥を被っても、シャンプーの匂いは抜けないものなのだろうか。
 さすが王女様。

「……、本当に、そんなのばかですわ。わたくし達の世界のことなんて見捨てればよろしいのに」

 そんな金色のツインテールが、少ししゅんとして、へたっているのは気のせいだろうか。

「見捨てられないよ。だって、メテオくんの世界だし。ついでに、その『ブラックホール』が私達の世界に来ないとも限らないし」

 襟首にかけられた手が力なく降ろされる。
 うつむいてさ迷う瞳を覗いて、私は笑って見せることにした。

「そうと決まれば、明日、あおいちゃんとことねちゃんに話してみるよ」
「星の妖精としても、この話は見過ごせないポラ!しっかり皆で話し合うポラ!」
「レグぅ!」

 ポラルンも私の方針に賛成してくれたようだ。
 今までどこに隠れていたのか、レグルンが出てきてミーティアちゃんの周りをふよふよ飛び回る。もしかしたら、慰めているつもりなのだろうか。

「なんですの、この赤い妖精……」
「レグぅ!レグ!レグ!」
「もう……。この世界を守る妖精のくせに、人懐こいですわね……」

 ミーティアちゃんが両方の手のひらをくっつけて差し出すと、レグルンはその上に乗って頬をすりすりし始める。
 ……、この妖精は間違いなく私から生まれたのだと、改めて実感した。

 と、その時である。

「おねえ、帰ってたの?」

 部屋の扉がノックもなしに開けられる。
 現れたのは、ランドセルを背負ったほむらちゃんだった。
 ミーティアちゃんのことも、ポラルンのことも、レグルンのことも、しっかりと凝視している。
 ミーティアちゃんはまだいい。まだいいとしよう。人間だから、どうにでもなる。
 問題は、ポラルンとレグルンだ。
「マジカル・ステラ」のことも、ましてやその変身妖精のことも、ほむらちゃんを始めとする星見台家の人達には秘密なのに。

「え……?どうしたの、おねえ……」
「ほ、ほむら、あのね、これは……」

 どう言い訳をしようかと考えていた、その矢先。

「……、あ、ホームステイの子、もう来ていたんだ。おねえ、迎えに行ってくれたんだね?」

 ……、え?

「わたくし、ミーティア・コメットと申します。よろしくお願いいたしますね」

 ミーティアちゃんは立ち上がり、当たり前のように優雅に微笑んでほむらちゃんにお辞儀をする。
 ほむらちゃんも先ほどの怪訝そうな顔はどこへやら、笑って「日本語上手だね」と返す。

「私は星見台ほむらです。よろしくね、ミーティア」

 ほむらちゃん、ミーティアちゃんに、普通に自己紹介をして、普通に挨拶をして、普通に部屋に戻っていく。
 その、ものすごく普通で何もない流れに、呆気に取られてしまった。
 ……、なにこれ。どうなっているの。

「簡単な記憶操作魔法ですわ」

 ほむらちゃんが自分の部屋の扉を閉めた音を聞いてから、ミーティアちゃんがぼそっと呟いた。

「え……、なにそれ」
「あなたのご家族の記憶を少し書き換えさせて頂きましたわ。わたくしは、たった今より、『星見台家にホームステイをすることになった外国の子』ですの。これくらい、庶民ならまだしも、コメット王国の王族であれば基本中の基本の魔法ですわ。……、と言っても、使用は制限されておりますけれど」

 簡単に言っているけれど、凄まじい魔法だ。
 ……、一瞬、「この力を使えば、力づくでこの世界を侵略しなくても簡単に支配出来てしまうのでは?」と思ってしまったことは秘密である。

「へぇ……、すごいね。………、あれ?ということは、メテオくん……」
「お兄様も、もちろん使えますわよ。必要に応じてすぐに。しかも、わたくしよりずっと多くの方に対して。確か、何百人単位でしたわ」
「わお……」

 ということは、メテオくんこと「天手オリト」が「元々休んでいた」ように皆の記憶が変わってしまっていたのは、別にメテオくんが消えたわけでもなんでもなく、彼としては当たり前の芸当だった、ということか。
 なんだ。良かった。

「というわけで、お世話になりますわね。『星見台あかり』さん」

 それはちょっと悪戯っぽいものだったけれど、ミーティアちゃんは、ようやく少し微笑んだ。
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