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後編

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自分がいつから【あった】のかはもう覚えていない。
広く深い森の中、我はあった。

気付けば我に叶うモノも無く、周りのモノ達は我を【王】と呼び、集つどって来た。
集って来たモノの面倒を見ているうちに、国のような物が出来ていた。

我が領土には豊富な資源があり、広大な森の豊富な資源を人族との取引材料とした。
森には無いものとの等価交換だ。
弱い人族では、森に住まう獣達に太刀打ちができないのであるから、ある意味人族を守っているとも言えるのでは無いであろうか。

我ら魔族は魔法や体力を使うことは得意だが、何かを作り出すことや、新たな物を生み出すことが苦手だ。
対する人族は、魔力も少なく力も弱いが、物を作る事に関しては、とても優れている。
お互い持ちつ持たれつの関係だった。


我ら魔族ならどんな凶暴な獣が現れても問題ない。
強靭な肉体や、豊富な魔力が有るのだから、どんな外敵が来ても返り打てる。
種族的に数が増えることも少ないので、広大な森の中だけで生きていくのも問題はない。

反対に人族は寿命が短い分、繁殖力が高い。
数百年のうちに我ら魔族の数百倍以上に増えた。

数が増えれば、争いも起きる。
我らにすれば考えられない事に、人族同士で争い、勝った者が国を作り、更に数を増やし、他国を侵略し、奪い、また数を増やし………。
暫くすると均衡が訪れた。

しかし数を増やすことを止めない人族は、住む場所を求め、他国とは争わない代わりに、山を潰し、森を切り拓き、川を埋め、大地の形を変え蔓延った。

その内不可侵で有ったはずの我らの領地、広大な森…大森林にも立ち入る様になって来た。

それだけなら見逃していただろう。
だが奴等は、自然と共生している我らと違い、そこに有る恵みを根こそぎ持ち去る。
それだけで無く、自分達と見た目が違うと言うだけで、角あるモノやミミあるモノを傷つけたり殺したり、見た目が美しいと耳長族を攫ったり…。

関係を断つだけでは同胞やこの地を守れ無いことがわかり、我は大森林全てを結界で覆う事にした。
どんな攻撃を仕掛けようと、大魔法を当てようと、結界が壊れることはない。



筈だった。



結界を張って二百年程経った頃だろうか、とてつも無い違和感が結界に接触した。

何事かと移転してみると、そこに魔族でもないのに黒髪で、黒い目をした人族が結界の中を歩いていた。
着ているものは見たことのない上着に、ズボン、頑丈そうな脹脛までの靴を履いている、薄い体の人族だ。

しかもその人族は、我と同等の力や魔力を持っている事が感じられた。

もしや魔族と人族の間に生まれた者かと思い、声をかけてみたところ、どうやら異なる世界からこの世界に喚ばれて来たそうだ。

何故人族が異なる世界から人を喚ぶ方法を知っていたのか、何故この世界に来る事で未知なる力を手に入れる事ができたのか、何故他の世界から来た者が交渉に来ているのか。

我の問いかけに彼の者は、
「いや、異世界召喚モノなんてそんなモンでしょ。
日本人喚ぶのはチートありきでテンプレだし、『魔王をどうにかしろ』とか言いつつ、結界の外までしか護衛しないとか、捨て駒すぎて笑える。
大体一方の話しか聞かないってあり得なくない?
それってほぼ確実にざまぁ展開じゃん。
だから集まってたオーサマ達に言ったやったよ。

『要するに資源物資が欲しいって事なんでしょ?
なら定期的に交易できる様に交渉してやるから、それで我慢しな!
欲ばってばかりなら、この場で広域魔法をぶっ放してやろうか?
大体自分の領地にある資源を独り占めしたからって、その土地の者の自由じゃん。
あんたらお偉いさんが集まってるくせに、ただ単に物欲で侵略しようとしてるって分かんないとか、オーサマやめた方が良いんじゃ無い?』

ってぶちかまして来た」

と言って笑ってた。

細部は分からぬが、複数の国が集まり、異なる世界の力を借りてでも、我を滅し、大森林の資源を手にしようとしたところ、喚んだ人間に交易だけで我慢しておけと諭されたと。
武力をちらつかせて。

「……ふふっ………ふはははは、其方なかなか面白いな、肝が据わっておる」
「へへへ、だって大体異世界召喚なんて、喚ぶ国がクロってのが殆どだからね、ちょっとカマかけてみたら、やっぱりオーサマ達が悪だったんじゃん。
護衛という名の監視もお断りしてここまで来てないんだし、とりあえず交渉してくれるとありがたいな。
一応国には家族がいるから、元の世界(日本)に戻りたいんだけど、必ず帰すから交渉だけはしてくれって頭下げられたんだよね」

まあ、異なる世界から人を喚ぶなどという大規模な魔法を使ったのだから、ある程度の成果は欲しいだろう。

「そうだな、お前が我を楽しませてくれたなら、交渉の席にくらいは着いてやろう」
「楽しませる?芸人でも無いのに無茶振りだ!」
「先ずは其方の世界の話でもしてもらおうか」
「あー、異文化交流ね、オーケーオーケー。
ありきたりだけど、科学の話をしてあげましょう。
車、飛行機、スマホ、どの辺りからいこうかな~。
まぁ構造とか原理とかは知らんのだけど」



半年程かの者は城に滞在した。
【地球】の【日本】の話をたくさん聞いた。
この世界についても聞かれただけ答えた。
かの者の家族の話も聞いた。

「両親や妹には会いたいけど………離れたく無いな…」
「なら、我の伴侶となるか?」
「………うん」

たくさん話をするうちに、互いに離れがたくなってしまい、我はかの者と番う事となる。

人族とは、条件付きで交易を再開することとした。
その際に判明したことなのだが、異なる世界から喚ぶことは出来ても、戻す事は出来ないようだ。

「そんな気はしてたんだ。
だってそっちのパターンの方が多いし。
両親には死んだ後、魂で会いに行くよ」

かの者の世界では、死んだ魂は距離も時間も超えるそうだ。
しかも死したのち、再び生まれ変わると。

「私の方が先に死んじゃうけど、絶対生まれ変わるから、私のことを探してね。
忘れたとしても絶っっっ対に思い出すから。
だから迎えに……来てくれるよね?」
「必ず見つけて迎えに行くと約束しよう。
そしてまた共に生きよう」

今際の際に交わした約束を、我は守ることとなる。


かの者は何度も生まれ変わった。

犬や猫、鳥などの動物に、海を泳ぐ魚、時には虫や草花に生まれ変わることもあった。
数百年会えないこともあった。
何度も何度も生まれ変わり、その魂を見つけて来たが、言葉を交わせる人や魔族や獣人に生まれ変わる事が無いまま一千年の時が過ぎた。


かの者の魂の軌跡を追い辿り着いたのは、かの者の言っていた【地球】の【日本】で、かの者の【妹の娘】として、初めて人として生まれ変わっていた。

言っていた通り、距離も時間も超えて、かの者は肉親の元へ戻ったのだ。

まだ記憶は戻っていないが、いずれ約束通りに我を思い出してくれるであろう。
それまで、かの者の育つ様を見守るのも一興。




そう思っておったのに……。




重なる死骸の中、生き残った者達に今回の茶番を全世界に広げ、二度と同じ事が起きぬ様動く様に命じる。

この地は…そうだな、茶番を記録しながら一番憤っていた奴に任せてみよう。
我を煩わせる事なく生きていくならそれでよし。
いつでも滅する事は出来るのだから、今はそんな些事より、かの者を迎えに行かねばならぬ。

日本ほどでは無いが、この国も綺麗な物や美味しい物がある様だし、かの者の暇つぶしにでもなるだろう。
そうだな、かの者の好きな【カラオケ】や【サテン】【コンビニ】なる物を作るのも良いな。
以前はどう言ったものかが分からず、話を聞くだけであったが、今はどう言った物なのか知る事ができたしな。

……ああ、こうしている間に彼女の記憶が戻ってしまうかも知れぬ。
待たせるわけにはいかぬから、早く迎えに行こう。

我は一千年のうちに構築した、時空を超える転移魔法の魔法陣を描き、愛しき魂の伴侶を迎えに、再び【日本】へ旅立った。





#############

この世界では女性はみなロングヘアーでドレスを着ているので、ショートヘアーでジーパンを履いた召喚者を男性と勘違いしたので、聖女ではなく勇者として記録されている…という設定です。
薄い体…胸がないのを本人は気にして、敢えてボーイッシュなスタイルだったと思っていただけると。



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