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ぐっすり寝ていたら

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夢を見た





「ジャクリーヌ・ラス・シュマイゼル!
貴様は私に相手にされない事に嫉妬して、ライラに数多くの嫌がらせをしたのは明らかになっている!
貴様との婚約を破棄させてもらう!」


………え~と…………なんだコレ?
どこだココ?

あ、夢か。
シチュ的によく読む断罪モノの、クライマックスシーンだな。

どうやら学園のパーティー会場で私が断罪されているみたい。 
あ~、あるある。

前方の数段高くなっている小さなステージ(なぜそんなものがあるのかは知らないけど)に、【いかにも】な金髪碧眼の、小説の挿絵でよく見かける貴族っぽい服装の男性と、腕にしがみつく【いかにも】なピンクでユルフワヘアーのドレスの娘。金銀財宝付き。
何なら頭に生花付き。
リアル頭お花畑デスカ~?

そして対面している私の頭の中では、コレまでのダイジェストシーンが3倍速で放映中。


なるほどなるほど、私は【ありがち】公爵令嬢(一人娘で跡取り)、政略結婚の相手は、侯爵家の甘やかされ四男、ただしイケメン。
そのお相手は【ありきたり】な男爵令嬢で、真実の愛に目覚めた二人に立ち塞がる高位貴族な悪役令嬢な私、ね。

ん~、ならこの夢は、断罪からの逆ざまぁなんだよね。
なにせ相手の女、ピンク頭の男爵令嬢だし。


「貴様は私に相手にされない嫉妬から、この愛らしく優しくて寛大で気弱で健気でちょっぴりドジで笑顔の可愛い(いや、盛りすぎだろ)ライラに意地悪を言ったり、私物を捨てたり、形見のオルゴールを壊したり、あまつさえ町中で暴漢に襲わせようとしたな!
貴様の行いは全てライラから聞いているぞ!」
「ジャクリーヌさん、謝っていただけたら私は全て許します」
「ああ、なんて寛大で慈悲深いのだ」

いやいや、ホントこう言う話のテンプレだよね。
悪口、器物破損、階段落ちか暴漢って。

それより男爵令嬢が公爵令嬢を【さん呼び】って、やっぱりおかしいんだよね?
周りがザワザワしているけど、現代人な私にはそこはあまり気になんないな。
貴族階級なんぞなくとも、漫画や小説で培った貴族のアレコレはなかなか正しいみたい。

なんて考えている間にも、頭の中の記憶から、正しい情報を入手完了。
これ、私がざまぁして良いんだよね?
だつて私の夢なんだから。
それなら遠慮なく………



「婚約破棄は承ります。
でもその前に、私がそちらのモロビッチ様に嫌がらせをしたと言う証拠はございまして?
ああ、きっとモロビッチ様の証言が全てだと仰るのでしょうね」
「モノディッチだ!
人の名前を間違えるなんて最低だな!」

あ、それはごめん、ピッタリな家名だと思ったら、違ったみたいね。

「すみません、私彼女と話したこともないですし、自己紹介もいただいておりませんの。
(この意味通じないだろうね)
なので少し間違えたみたいですわ。
それは置いといて、意地悪を言った…でしたか?
………ふふふ、お子様ですか?
『お母さま~、○○様が悪口言うの』
って、子供ならわかりますけど、私たちくらいの歳になって悪口を言われたからって、いちいち泣きつくなんて………クスクスクス」

私に釣られて会場のあちらこちらから、クスクス笑いが。
成人間近の17歳だし、貴族って噂話してナンボなんだよね?
悪口くらいいなせないといけないんじゃないの?

「酷いです~」

モロビッチが手で顔を覆っているけど、涙出てないよね。
元婚約者が胸に抱き寄せてこちらを睨んでるけど、怖くともなんともない。

んでなんだっけ?

「私物を捨てた?
何を捨てたのか知りませんけど、私他人の荷物を漁るなんて下品な真似したことないですわ」
「ジャクリーヌさんに教科書や筆箱を捨てられました、私見てましたもん」

いやいやいや、これ突っ込まなきゃダメなのかな?
矛盾発言気づかないか?

「いつですか?」
「移動教室でクラスに誰もいない時です」
「授業中に?」
「忘れ物をとりに戻った時に、ジャクリーヌさんが捨ててるのを見ました」

え~、なんだろ、なんだか馬鹿馬鹿しくなって来た。

「授業中は私も授業を受けていますが?」
「……と、途中で抜け出したんだと思います!」
「コレってアリバイ証明する必要ありますか?
授業を抜け出したことがないのは、クラスメイトや先生達に聞けば良いですし、なにより、移動教室でクラスに人がいなくなったら、施錠されますわよね?
どうやってあなたのクラスに侵入しろと?」

どうやら以前窃盗事件があったらしく(貴族学園だと言うのに)クラスから人がいなくなると、クラス担任が鍵をかける様になっていると言う情報が頭の中にあるので言ってみた。

「えっと………窓からとか?」
なんて小声で言ってるけど、自分の首絞めてるだけだよ、ビッチちゃん。
貴族令嬢が授業中に窓から侵入とか、漫画の見過ぎっすか?(漫画なんてない世界だけど)

「それに見ていたと言うのなら、その場で止めるのではありませんの?」
周りは頷いているし、元婚約者も困惑顔を浮かべてるよ、ビッチちゃん。


「あと何でしたかしら、形見のオルゴールを壊したでしたか。
そもそも、形見の品を学校に持ち込んだのですか?
首飾りや指輪ならまだしも、オルゴールを?」

この世界でのオルゴールって、日本の片手に握り込める様な小型の物ではなくって、40センチ四方の大きな物だよ?
そんな物をわざわざ学園に持ってくる?
ありえなくない?

「トー様にお見せしようと持って来たのです。
それをジャクリーヌさんが壊しているのを見ました」
「いつ?」
「授業……ちゅ……………、いえ!放課後に!」
「どこで?」
「えっと……そう!校舎裏です!」
「そこまでどうやって運ぶのかしら」
「カバンに入れ…………あ!そうだ!スカートの中に隠してです!」

あ~、これ付き合うの面倒になって来た。
周りの目も冷たいを通り越してシラけているの気づかないかなぁ。
一体どの世界に40センチ四方の箱を制服のスカートの下に隠して移動する公爵令嬢がいるのやら。
めっちゃガニ股になるやん。
想像したら笑えるわ~。


「えっと、えっと………、暴漢に襲われて私、怪我をしそうになったんですよ」

あ、流石に空気に気づいたか、話を変えて来た。

「いつ、どこで、どんなふうに?」
「えっと、昨日の放課後、町に行った時に、5人の男性に囲まれて裏道に連れ込まれそうになったのです。
何とか逃げ切ることができたけど、とても怖かったんですよ、酷いです」

いやいやいや、酷いのはあんたの設定でしょ。

「昨日の放課後襲われそうになったと仰るのに、とても元気なのですね。
私が襲われそうになったら、きっとショックで数日寝込むと思いますわ」

私の言葉に多くの女性が頷く。

「それに、5人の男性に囲まれて無傷で逃げ仰るなんて、あなたとても素晴らしい身体能力をお持ちなのですね。
私には無理ですわ」

盛りすぎでしょ。
魔法もない、痴漢撃退用品もない様なこの世界で、男の人でも5人の男に囲まれて無傷で逃げきるなんて、ほぼ無理だと思うよ。
一人二人ならまだしも。

「それに、なぜ私がその襲撃の犯人だと?」
「男の人たちが言ってました!
『ジャクリーヌお嬢様の命令だから悪く思うなよ』って」
「襲撃犯が依頼主をわざわざ口にして、しかも無傷で逃げられてしまうなんて、娯楽小説でもありえない話ですわ。
もういい加減およしになった方がいいと思いますわよ」

飽きて来たしね。
それに私はビッチちゃんより、元婚約者に言いたいことが山ほどある。
本番はコレからよ~!


「飛びます様」
「誰だそれは!
私はトー・ヴィ・マシューだ!」
「あら、失礼、元婚約者様、きっとこの先お顔を合わすことがないと思いますので、一つ宜しいかしら?」
「な、何を言っておる、私は次期公爵としてシュマイゼル家を継ぎ、お前を追い出しライラと幸せに暮らすのだからな」

あ~、ほら、この言葉だけで周りは色々気づいたと言うのに、本人だけ、いや、ビッチちゃんと二人だけが理解していない。


「まず一つ、シュマイゼル公爵家の跡取りは私です。
あなたは婿入りの予定でしたけど、あくまでも婿であり、私の補佐です。
発言権は有っても、決定権は全て私です。
妾や愛人を持つ事は許しませんし、浮気をした時点で公爵家から出て行っていただきます。
万が一私をどうにかしたとしても(殺したりとかさ、監禁とか)、外戚のどなたかが後を継ぎますから、あなたが後を継ぐ事は万が一にもありません」

「ばかな!
貴様と結婚して、私が公爵家を継ぐのだろう?」
「いえ、ありえません。
逆になぜ血のつながりの一切ない、格下の、しかも頭の悪い方に後を継がせないといけないのです?」
「なに?!」

「二つめ、私が嫉妬をしたなどと仰っていましたけど、貴方のどこに?」
「な、なに?!」

いや、『なに?!』じゃなくてさあ~

「成績順のクラス編成で最下位のDクラスですし、剣術も不得意、乗馬も歩かせる事ができるだけ、走れば遅いし、末っ子ですから甘やかされていたのか、見通しも考えも甘いですよね。
唯一良いのは顔だけですけど、顔なんて面の皮一枚……言葉が悪かったですわね。
容姿なんて歳を取れば劣りますし、すぐに短気をおこす貴方の表情は褒められたものではありませんよ。
しょっちゅう人を睨むので、目つきが悪くなって来ていますし、眉間の皺も綺麗に消えていませんよ。
下卑た笑いを浮かべすぎて、口元も歪んできているのでは?
唯一の取り柄がなくなって来てますわよ」

いや、ホント、表情が酷いと顔が良くても台無しだよね。

「婚約者だったと言うのに、贈り物もしてこない、手紙を出しても無視をする、約束はすっぽかす、お茶会に呼んでも来ない、夜会にエスコートしないしダンスもしない、それよりもドレスを一枚も贈ってもらったこともないですわよね?
婚約者がドレスを贈り、エスコートをしてファーストダンスを踊ると言うことをご存知ないのかしら?」

酷ぇもんだよ。
なぜこんなやつと2年も婚約者してたの、私。

「一度だけ行った観劇デートは、チケットの手配から馬車での迎えまで、すべて私でしたよね。
しかも観劇の後のディナーの支払いまでもすべて私持ち。
なのに帰りに送り届けたのは侯爵家ではありませんでしたよね?
あの後どちらに行かれたのか、従者が確認してますのよ」

いや、なぜこんな奴と婚約した、私。


「領地経営は私がしますから、下手に口出しされる方より、少々頭の緩い方の方が都合が良いと思っていましたけど、想定外に【ハズレ】でしたわ」

成程、口出ししようにも頭が悪くて口出しできないところが良かったのか。
要は種馬扱いで、可愛い子供を作るために、顔を重視したのか。
私も酷ぇな。


「三つめ、あなた隠している様ですけど、水虫を患っておりますわよね?
あれって移るそうですし、あと、お脇の臭いが少々………」

水虫にワキガまでバラしちゃったよ、イヒヒヒヒ。

顔面蒼白になった元婚約者は、ブルブル震えながら涙目になり、

「一つって言ったじゃないかー!!」

と叫びながら会場から退場して行き、残されたビッチちゃんはやっと気づいたのか、キョロキョロと周りの目を見て、これまた退場して行きました。

残された私は周りから、

「よく今まで我慢したね」
とか、

「爵位を無視していて癇に障っていたから、スッキリした」
とか、

「あの女性、マシュー様以外の男性にも言い寄ってましたのよ」
とか、

「あの方々は今まで何を学んでいたのでしょうね」
とか、

「水虫は嫌ですわよね」
とかとか、概ね好意的に受け取られて一安心。

でも、私の方が爵位が上だったからできたことだよね。
これが相手の方が上だったら泣き寝入りもあったのかも。

貴族社会は噂が広がるの早いし、面白おかしく改変されるだろうから、きっとあの二人に未来はないよね。
でも冤罪断罪する方が悪いんだし、それより先に浮気をするのが間違い。

浮気をするなら、先に別れてから身綺麗にしてからでしょ。
まあ、身綺麗もなにも、我が家を乗っ取る気だったみたいだから、完全アウトだよね。

取り敢えず公爵家で両親に報告をしなきゃ。
乗っ取りを防いだよって。
次の相手はもっとマシなの探してよって。
なんなら結婚しなくても良くない?って相談してみようかな。

この世界では結婚しないとハンパもの扱いみたいだけど、次期公爵なんだから、権力で黙らせれば良いんじゃない?とか思うしね。









ところでこの夢いつまで続くんだろう?












夢………だよね?
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