100 / 109
新生リズヴァーン
しおりを挟む妊娠が発覚してから十日程過ぎた。
リズヴァーンの両親は領地へ戻り、リズヴァーン本人はそのまま滞在している。
両親達は今まで以上に俺に激甘だ。
でもそれに輪をかけてリズヴァーンが甘い。
こいつこんなキャラ違ゃうやん!って突っ込みたくなる程甘々だ。
そんな甘い日々に少しずつ慣れて来ている今日この頃。
これからの大まかな予定としては、俺は予定通りに王都へ戻ることとなる。
現代社会と違い、出産で命を落とす女性は少なくないそうだ。
だからこそ、万が一を考えて、腕の良い医者が多い王都で出産する事に。
赤子の死亡率も高いから、生後半年から一年は王都で過ごし、その後結婚式を挙げ、リズヴァーンの領地で新生活を開始する。
そんな流れになるそうだ。
生まれた子は乳母が育てるのが貴族なんだそうだが、うちの両親もリズヴァーンの両親も、サポート役として乳母は雇うけど、自分で育てたと聞いた。
元庶民としては、自分で育てるのは当たり前って気がするけど、サポートはありがたい。
ほら、よく【育児ノイローゼ】とか耳にしてたし、夜泣きにキレて子供に暴力振るうとかも聞いたことがあるから、手伝いの手はありがたい。
しかし子連れの結婚式……うん、またぐるぐるなるから今は考えないでおこう。
美味しいものを食べ、体を動かすために庭や領地を散歩して、疲れたら部屋で本を読み、兄からお店のことについて色々聞き、母や婆さまから子育てのこと(俺や兄の赤子の頃の話)を聞き、のんびりと過ごす。
全てに付き添うリズヴァーン。
最初は違和感あったけど、そのうち慣れた。
母に教えてもらいながらお守り刺繍もしている。
赤ちゃんグッズ(スタイや靴下など)を作り、刺繍を入れていく。
なかなか上手くいかないけど、頑張っている。
珍しくリズヴァーンがそばに居ず、母と二人きりでチクチクしていた時に、母が話してくれた。
「なぜあんなにもリズヴァーンが気を配っているのか不思議でしょう」
「ええ、そうですわね。
いつもならお兄様と離れな……一緒に……えっと…」
なんと言ったらいいのやら。
「ほほほ、リズヴァーンはアルバートの事が大好きですものね。
出会った頃からずっと側に付き添っていたわ。
それが今では貴女に付きっきりですものね。
ちょっと鬱陶しく思っているのではなくて?」
母よ、言いにくい事をズバッと言うねぇ。
「そんな鬱陶しいだなんて。
私を思ってのことなのですから」
「きっとマギーも言わないでしょうから、私が伝えておくわ。
リズヴァーンには三つ下のきょうだいが居たはずなの」
え?初耳なんですけど?
母が教えてくれたのは、リズヴァーンが生まれた3年後、マギーおばさんが妊娠したらしいんだけど、本人も周りも気づかず、普段通りに狩に参加していた時に、魔獣の突進を避けて転び、流産してしまったと。
自覚のないまま流れてしまった子供にショックを受けたおばさんは、暫く塞ぎ込んでしまい、泣き暮らしたそうだ。
いつも元気な母が泣く姿を近くで見ていたリズヴァーンの心にも、少なからず傷を残したようで、リズヴァーンまで暗く沈みがちになってしまい、これではダメだと立ち直ったそうだけど、それ以降どんなに望んでも子供はできなかったそうだ。
リズヴァーン本人は兄との出会いの衝撃で色々吹っ飛んだみたいで、あっという間に元どおりになったそうだ。
それから兄への依存のような執着が生まれたようで、実はうちもリズヴァーンの両親も、このままでは不味くないか?と心配していたそうだ。
そんな時に俺…いや、キャスティーヌがリズヴァーンに想いを寄せるようになって、これは是非とも二人をくっつけてしまえ!となったんだって。
しかしまぁ、なかなか頑ななリズヴァーンに、無理なのか?と思っていたら、少しずつ俺達の壁がなくなって来て、いきなりの婚約申し込み。
よし!この機を逃すな!と思っていたけど、なんだかんだで距離が縮まっただけのまま。
このままでは俺が不幸になるのでは?
と思っていたら、まさかの妊娠発覚。
その衝撃の事実がリズヴァーンの過去の傷にどう働いたのか、今の新生リズヴァーンになったんだって。
んー、物心ついた頃に母親が泣き暮らしていたらトラウマにもなるよね。
それが新しい命を育むことで傷が無くなるのなら、それはいいことだと思う。
本人も言ってた【家族】に対しての感情も加わると、あの喜びもわかる気がする。
でもこれで俺が流産でもしようものなら………考えるだけで恐ろしい。
こりゃあリズヴァーンとその両親の為にも頑張って元気な子供を産まなけりゃなんないよね。
頑張って安静にして、栄養とって、心穏やかにストレス溜めず、妊娠生活を送らなければ………ん?何か矛盾がある気がする?
でもまあ、そんな重い話抜きにしても、母子共々無事に出産を終えたいよね。
折角の第二の人生、キャスティーヌの意識を乗っ取っている現状、俺の記憶が戻らないままなら、100%キャスティーヌが送っただろう新婚生活を円満にする為にも、まずは無事に出産。
俺としても、結婚から逃れられないんだから、穏やかな生活を送りたい。
何より死にたくない。
勿論新しい命の炎も消したくない。
周りのためにも、お前自身のためにも、元気に育って無事に生まれて来てくれよ。
そんな事をつらつらと考えながら刺繍を入れる昼下がりの一幕でした。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる