【完結】アラサーの俺がヒロインの友達に転生?ナイワー

七地潮

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試食の手が止まらないです

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「とても気に入ってくれているみたいだけど、キャスティーヌ嬢…先程団子なども食べていたよね?
…………太るよ」

うぐっ!
コウエンジの言葉に手が止まった。
周りに目をやると、無言で皆に注目されていた。
だって仕方ないじゃん、約一年ぶりの煎餅だよ?

「すみません、初めての味と食感につい夢中になってしまいました」
ばりぼり系の食べ物なんて無いし、この言い訳で通るでしょ?多分。
呆気にとられていた兄とリズヴァーンとクリスティーナも手を伸ばす。

「堅い…けど歯応えがいいですわね」
だよねー、でもこの固さが良いんだよ、濡れおかきは俺の中では邪道です。

「でも辛くないかな?
塩も辛いけど、この茶色いのも辛い」
慣れないと塩煎餅や醤油あられは辛く感じるだろうね。
「でもクセになりそうだな」
だよね、だよね~、やめられない止まらないになるよ。

「キャスティーヌ嬢は勢いよく食べていたけど、お茶請けと言って、お茶を飲みながら食べるのが一般的だからね。
口の中が辛く感じたらお茶を飲むといいよ。
ご年配で歯の弱い方は、温かいお茶でふやかして食べたらもするね」

コウエンジに言われて、準備されていたお茶を口にする。
お茶は飲み易い麦茶の、暖かいものと冷たいものだ。
ばあちゃん食べ(ふやかして食べる事)をするのはみたくなかった……。

「……なんだか不思議な感覚ですね。
なんと言えばいいのでしょう」
クリスティーナが頭を傾げると、コウエンジが俺の言いたいことを言ってくれた。
「我が国では『ほっこりする』とか『まったりする』と言う感覚ですかね。
小腹が空いた時、お菓子を食べて暖かいお茶を飲み、リラックスして仕事の続きを…、と言う生活リズムで過ごす者が多いですよ。
それが和菓子だったり、手軽な煎餅かは別れますけど。
但し、お腹の持ちが良いですから、食べ過ぎるとご飯が食べれなくなりますけどね」

コウエンジがウインクしなが茶目っ気たっぷりで言う。
はいはい、煎餅一袋食べてご飯の代わりにする奴は多かったよね。
連れ連中とか、姉貴とか、俺とか…。
しょっちゅう母に「飯の前に菓子食うな」って怒られてたよ。

「これはクセになりそうですし、少量で安価で販売し、気軽に買える、リピーター獲得商品としたらいかがでしょうか」

少量で平民でも子供でも買える金額設定にして、何度でも店に来てもらい、特別な日や自分へのご褒美に少し高価な和菓子を買うって感じにすれば良いのではないかとコウエンジがプレゼンしている。

やっぱり生菓子は少し高価になるから、いくつも買えないし、しょっちゅう買えるものじゃないだろう。
5人家族で一つの生菓子は無理でも、生菓子一個分の値段のあられなら、家族皆で口にできる。

そして平民が滅多に口にできない生菓子は貴族や金持ちへの【ある程度でも裕福でないと食べれないよ】ってので自尊心くすぐるだろう。
更に注文でオリジナルの菓子も作ったリすれば、見栄をはりたい人達はこぞって【自分だけの菓子】を注文するのでは?

…うん、この商売の未来は明るいね。
そして俺のおやつタイムも明るいね。
あ~、海苔巻き煎餅の海苔がパリパリで幸せ。

でもこれでラストにしなければ。
確か煎餅二枚でご飯お茶碗一杯分のカロリーだとか、姉貴が言ってたような記憶が。
団子と大福もさっき食べちゃったし、あられもつまんだ、煎餅はこれで4枚目………。

いかん、マジでドレス入らなくなる!!

断腸の思いで煎餅から目を逸らす。
煎餅の職人さん2人はとてもニコニコ顔で俺を見ている。

「あそこまで気に入ってくれると嬉しいですね」
「そうだな、この国でも精進してあの娘の笑顔を曇らせない様、美味しい物を作ろうな」

因みにお二人の名前は、あられや煎餅を作るのに似合いの名前?なソーカ氏とカネダ氏だそうだ。
【カメダ】じゃなくて【カネダ】ね。
んでもって【草加】ではなく【宗賀】さんだそうです。
…カネダさんのこと間違えてカメダと呼ばない様にしなければ。


しかし今まで、店には携わらないからと遠慮して、話し合いには参加しなかったけど、聞いてるだけで楽しいし、ワクワクする。
こんな事ならもっと早くから参加してればよかった。
誘われて断らなくてよかったな。

それにやっぱり日本文化…もどきに触れると、ちょっと胸がジンとする。
おお、俺にもそんなナイーブな気持ちがあったんだね。

それからも、話し合いやらなんやらに参加させてもらった。
うっかりボロを出すといけないから、聞く専門で、意見は聞かれない限り出さないけどね。

初めて食べたって感じないほど、お煎餅などを無心に頬張っていたことには「キャシーは食いしん坊さん」の兄の一言で、誰も疑問に思わなかった。
ナイスフォローだけどさ、キャスティーヌは年頃の娘だってわかってるのかね、あの兄は。 


当初の予定では、一月の滞在の後、職人さん達は一旦引き上げる筈だったけど、カネダ氏とソーカ氏は残る事になった。
コウエンジと紅茶を取り扱う店に、和茶を扱ってくれる様に売り込みに行ったり、そこでお茶のおまけとしてあられを付けたり、バザーに出店したりと、前宣伝って言うのかな?
とにかく色々動いている。

実は話を詰めていけば行くほど、お茶までクリスティーナの店で取り扱うのは難しいのではないかとなったのだ。
生菓子と干菓子だけならお茶も扱う余裕はあるだろうけど、あられや煎餅もとなると、店の規模を大きくして従業員を沢山雇わないと無理じゃね?と。
だって受注でオリジナルな生菓子も作るって話だし、配達とかもやることになるだろうし、経営が波に乗ったらあっぷあっぷしそうだ。

だから店内での試飲以外はまるっと投げると。
餅は餅屋、お茶はお茶屋ですな。

そうすると店を出す場所も、取り扱ってくれるお茶屋の近くを探さないといけないし、父からはそろそろ国へ申請するから、今の段階で決まっていることを書類にまとめて提出しろってせっつかれるしで、兄もクリスティーナもコウエンジもドタバタしている。

リズヴァーンは定位置の兄の側で、俺はその近くで見ているだけなんだけどね。
とりあえず3人の目の届くところに居ろと言われている。
………子供かよ!

見てるだけで楽しいし、差し入れでカネダ氏達がくれるあられは美味しいし、不満はないけどね。
ただ俺だけがのんびりしていて良いのかなと、両親の呵責が……良心の呵責が無いとは言えない。

だが口は出さぬ!
俺は【のんびりまったり自由気ままなスローライフ】を送るんだ。

は~お茶が美味し地。
玄米茶はないかな。




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