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第五章 問題は尽きないようです

再び浮く

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『あら、一人でここまで来られたのね』

前回同様水に浮いているとの予想は外れ、僕はうつむきに宙に浮いていた。

「あぶっ!……落ちる落ちる!」
慌ててジタジタしていると、頭の中に女性の声が聞こえてきた。

『うふふ、落ちないわよ。
ここがどう言う場所なのか、あなたは分かっているのでしょう?』

うん、前回来た時に何となくわかった。

ここは現実ではない、イメージの世界?とでも言うのかな、夢の中みたいなものなんだろうって思ったから、今回も強く願えば来られるかな、と思ったんだけど、前回と同じ場所だと思っていた。

『ふふっ、正解。
ここはあなたの思いが導いた場所、そして私達もあなたとの関わりを拒否しなかったから来られた場所。
あなたの思いが弱かったら来られなかったし、私達が拒否したら辿り着けない場所。
前回と違うのは、私が空に溶けたからかしら』

なら前回の人は水に溶けた人だったのかな。

『ふふっ、頭の回転の速い子は好きよ』

深い意味がないとわかっていたも、ちょっと照れてしまう。

いやいや、そんな場合では無かった、大事な用があるんだった。

『わかっているわ、あの醜い男の治める国の事でしょう?
あの人も怒っているわ。
私達と同じ形にしたって言うだけなのに、何を勘違いしているのかしら。

ただ同じ形にしたってだけなのよ?
空の子達の様に素晴らしい声があるのでもないし、美しい羽があるわけでもない。
水の子達の様にキラキラしているわけでもないし、四つ足の子達の様に力強くあるわけでもないのに、何を勘違いしたのかしら』

別に血が繋がっているとか言うわけでは無いんですね?
一緒に降りてきた方が子供を産んで、とかじゃなく、同じ形に作ったってだけなんですね?

『そうよ、この世界の全ての生き物は私達が形作った、全ては同等な命なの』

まあ私の空の子達が一番素敵だけれどね、と姿も見えないのにドヤ顔しているのが伝わってくる。
そういった事をわからせて貰いたくて、あの男も連れてこようと思ったんだけれど、どうやら失敗したみたい。

宙に浮いているのは僕と空を自由に飛んでいる、色とりどりの鳥だけだ。

『あら、見えないかしら、ほらあそこ』

見えない存在に指差された感覚の方を向くと、居たよ、あのどうしょうもない男が。

浮いていると僕と反して、地面に埋まって顔だけを出した状態だ。

『今ね、あの勘違い男に、あの人とあの女(ひと)がきっちりと教え込んでいるから。
本当はずっとあの勘違いをどうにかしたかったのよ。
でも私達と繋ぐすべがなかったの。
前回は妖精達が、今回はあなたが媒体ね』

成る程、直接接触はできないのか。
………………ん?でも600年前か何だかに、魔物と接触して魔王を生み出すこととなって、その後にラグノルの王様の夢枕に立ったんだよな?
言ってること違うくない?

『うふふ、やつぱり頭の回転の速い子ね。
あれはあの子の力を使って接触したの。
あの子は見守るだけで、力を使っていなかったから出来たことなのよ。

私達は力を使って命を生み出したから、直接接触する程の力は残っていないの。
でも媒体があったり、そちらから接触してくれればこうしてお話はできるわ』

んー、それじゃあその見守っている方に夢枕とかに立ってもらうことはできなかったのかなぁ。
そうすればこんな大ごとにならなかったと思うんだけど。

『そうね、そう思われても仕方ないわよね。
でもあの子も魔王を生み出したのと、妖精を生み出したことで力を使い果たしちゃったのよ。
実際まだ眠りについてるわ。
もう暫く……そうね、後300年近くは目覚めないと思うわ。
あの子が眠りについてからあの国の暴走は激しくなったから、近くで見守っているだけでも、なんらかの抑止力になってたみたいね』

見守るだけで?

『そうよ、だって見られていたら悪い事しにくいでしょう?
それが目に見えない意識下の事でも同じなのじゃあないかしら』

成る程、目に見えなくても、存在を感じ取れていたんだろうね。
それがなくなってタガが外れたと。

『そうね、昔はここまで酷くはなかったもの。
それは他の国も同じ事だけれどね』

…………他の国……聞きたく無い。
目の前の問題解決が第一なんだから、関係ない国の事までは責任ないよね。

『ふふっ、そうね、今のあなたには関係ないわね』


やーめーてー、そんな意味深なフラグは不要です。





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