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第五章 問題は尽きないようです

言葉を交わす意味があるのか?

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「一先ず身を正してはいかがか」

色々な感情を押し込めたジン前王が言うが、皇帝をはじめとしたその場に居る8人の男達は下卑た笑いを浮かべたままで、まともな会話にもならない。

スイが目を塞いだままだけれど、ニヤ達の視線で全てが頭の中に映し出されている。

ふとピヤの視線が動いたかと思ったら、左右にある扉が開き、武装した集団が雪崩れ込んできて僕らを取り囲んだ。

ベッドの上の一番若い(と言っても四十代くらいだが)男が武装集団に告げる。

「皇帝陛下のお楽しみを邪魔する不埒者どもを殺せ」

その言葉に武器をとる彼らは20人ほど、室内のため手にする武器は短剣やナックルだ。
対するこちらの武器はロングソードや両手剣、刀など、この狭い空間では不利な物ばかりだ。

こちらのエモノを見て勝利を確信している集団。
面白い見世物が始まったとばかりに、犯しながらもニヤニヤとこちらを見ているベルンリグールの重臣達。

「スイ」

僕が一言告げると、全てを了承したスイが、目を覆っていた手を外し、パチンと指を鳴らす。

「!!!!!」
「な!……なんだ………」
「動……けない……」

周りを取り囲んでいた集団が床に這いつくばる。
スイの重力の子の術だ。

「んー…磁力の子居るかな?」

僕の言葉に銀色に輝く妖精が二人、両手を挙げると、集団の持っていた鉄製の短剣やナックルなどが、手から離れて中空に集まる。
その塊をニヤの空間に放り込み、武装解除させた後、転移の術でフェンディスの髭マロの元へ飛ばす。

武装していた集団は、多分フェンディスの実行犯の一味だろう。
違ったら違ったでいいや。

動きを止め、あんぐりと口を開けて見ていたベッドの上の男達が声を上げる。

「……貴様らは一体なんなのだ」

その問いに答えるのはジン前王だ。
他のメンバーは全員怒りに言葉も無いのだが、王様のメンタルは強靭だ。

「我らはラグノルの者。
我が国の民を返してもらいに来た」
「国の民だと?
我らは人民など拐かしてはおらぬ」
「そうだとも、我らが連れ去ったのは下賎な魔物のみだ」
「そうだそうだ、人には一切手を出しておらぬ」

騎士団員の殺気が増す。
「……魔物の方も我が国の民である」
「何を言っておる、魔物は魔物ぞ。
高貴なる人に役立てる事こそに意味があるのでは無いか」
「魔物を民とは、追放された輩は人としての尊厳をも持ってないようであるな」
「所詮国から追放された者どもの末裔だ」

ゲラゲラと下品に笑う男ども。
もうさ、殺っちゃおうよ。
僕だけじゃなく、周りの騎士団員も同じ考えだ。

それでもジン前王は言葉を重ねる。
「……なぜ魔物の方を攫い殺している」
流石に周り中の殺気を感じたのか、中年の男が答える。

「攫って殺しているわけではない。
我ら尊きベルンリグールの役に立っているのだ。
実に光栄な事であろう」
「…………役に立つとは、そうやって犯す事か?」
ジン前王の握る拳から、血が滴り落ちる。

「ははは、コレは単なる余興よ。
こやつらの心臓を潰せば邪法が使えるのであろう?
別世界から役に立つ者を喚ぶ事ができるやもしれぬからな、実験の為にも有意義に使わせてもらっておるぞ」
「だいたいどこかは知らぬが、邪法を用いて別の世界から役に立つ人間をホイホイ読んで使っておるそうではないか。
そんな便利なものは我ら尊きベルンリグールの民こそが使うべき力であるからな」
「だからと言って下賎な追放者の末裔どもが素直に方法を教えるわけもなかるう。
だからこそ我々が直々に実験しているだけの事、逆にそんな便利な力は下々の者から自主的に我々に献上するのが筋であろう」
「違いない」

……なんだ、コイツら。とっとと殺ろうよ。

「英雄を召喚する事の理由は?」
感情を抑え込んだジン前王の言葉に、男どもは嗤う。

「英雄とは、笑わせてくれる。
高々別の世界の人間であろう。
どんな力を持っているかは知らぬが、使い勝手が良ければ起用してやるし、使えないなら破棄すれば良い」
「そうだとも、使えぬ道具は処理するべきだからな」
「しかし別の世界の人間を英雄とはおかしな事を。
英雄とはベルンリグールの皇帝の為にある言葉ぞ」
「まさしくその通り」

いや、確かに英雄召喚だとか言われても、僕はただの一般人だったから否定はしないけど、僕の後ろの二人が……怖い。





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