145 / 161
第五章 問題は尽きないようです
一回戦
しおりを挟む「さて、勝負をするのは良いけど、こっちが勝った時のメリットが少な過ぎるとおもうんだが?」
髭がいちゃもんつけて来る。
「こっちが勝っても、不法侵入を罰するだけだろ?
それって普通の事だ。
いきなり無断で執務室に入って来るのは国際問題だろ?」
「成る程!」
だからクマ将軍!
「そっちが勝ったら、不法侵入を無かったことにした上、交渉の場まで設けるんだから、フェアに考えると、こちらにも何かメリットが無いとおかしい話だよな」
「成る程!」
………ダメだ、将軍は交渉に向いてない。
同じ脳筋の筈なのに、髭は流石に国のトップだね。
役者が違うよ。
でも髭の言う事は最もかもしれない。
いきなり目の前、城の執務室に移転して来たら、速攻で捕まって牢屋に入れられても仕方ないよね。
それを交渉の場まで作ってくれるって言うんだから、一度だって負けるつもりはないけど、負けた時に国から出ていくってだけじゃフェアじゃないかも?
「なに、難しい事じゃない。
こちらが一勝でもしたら、一つだけいただきたいモノがある」
金か?
多分どうにか出来るたろうから頷くと、髭がニヤリと笑った。
「ならこちらが三勝であんたらの処刑、二勝で投獄、一度でも勝ったら国外追放と………アンタを貰おうか」
「なっ!!」
髭がイヤらしい笑顔で指を刺したのは、スイだった。
「いやー、アンタから強者の気配がビンビンと感じるけど、どんな風に強いのか全く見当もつかない。
拳闘士って訳でもないし、肉弾戦に向いている身体だとも見えない。
かと言って似合う武器もない」
強いて言うなら鞭か?
ニヤつきながら髭が言う。
ちょっと「あ、似合うかも」と思ってしまったのは押し隠して、一歩前に出る。
「人を渡せとは、随分な要求かと思いますけど?」
「どのみちこっちが勝ち続ければアンタらの命はこっちのものなんだから。
全勝したってそいつだけは助けてやろう。
俺の片腕として働いてもらおうかな」
ま、それ以外にも使い道はありそうだしと、ニヤケている髭に応えたのは、クマ将軍だ。
「よかろう、その条件をのもう」
クマーーーーーーーーーー!!!!
思わず蹴りを入れてしまった。
身長差の有る蹴りは、弁慶の泣き所に決まる。
蹲り脛を撫でながら、クマ将軍がそっと耳打ちをして来た。
「大丈夫ですよ、ウチ様。
例え一度でも負けるわけがない」
まあ、見てて下さい、と言ったクマ将軍は、腰から剣を抜き、対戦相手に剣先を向けた。
「さあ、では始めましょうか」
「あー、退屈でちょっとイラついたから、手加減なしで行かせてもらうぜ」
肩にかけていた戦斧を両手で持ち、将軍の対戦相手が構える。
「では一回戦といきますか」
皆が壁際まで下がり、髭が合図を出すと、戦斧を構えた男が、想像以上の速さで将軍に駆け寄り、その大きな斧を振りかぶった……。
手合わせと言っても形式ばった試合ではなく、勝つか負けるかの勝負なので、審判などはいない。
倒れた方が、死んだ方が負け。
フェンディスの手合わせはいつでも真剣勝負なのだそう。
流石に命までは取らないだろうけど、怪我した時のため、ニヤを呼んでおこう。
………なんて要らぬ心配でした。
男の振りかぶった戦斧は、斜めに構えた将軍にいなされ、勢いで僅かに体勢が崩れたところに、追い打ちをかける様な、将軍の足払いで男が地面に転んだ。
その男の首の横に剣を立てる。
「勝負有りでいいな」
言いながら剣を少しばかり首筋に当てる。
「ま…まいった」
呆気ない勝負だった。
瞬殺過ぎて、観客からブーイングの嵐だ。
「確かに体勢は崩したが、直ぐに立て直しただろ、あんな瞬間によく判断できたな」
ネイを挟んだ向こうに居る髭が呟く。
確かにほんの一瞬だったと思う。
重さのありそうな戦斧を振りかぶった時点で狙っていたのでなければ、転ばす事はできなかったと思う。
「流石と言ったところか。
アイツも欲しいな」
やらないよ、将軍は。
勿論スイだってやらないからね。
呆気なくても瞬殺でも、まずは一勝だ。
ーーーーー〈切り取り線〉ーーーーー
実はこの回、別サイトでアップした時漏れた回なんです。
今回修正していて気づいたんですけど、今更かとあちらでは抜けたままです。
なので辻褄が合わないったら………。
しかも二年前の作品なので、スイを欲しがる髭とあっさり勝つクマ将軍の話だとは覚えていても、詳細は遥か彼方……。
流れ的にこんな感じだと思います。
しかし一話丸々記載漏れで気付かないなんて………
1
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説


【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

嫌われ者の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。
家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。
なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる