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第五章 問題は尽きないようです

神とは

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何だろう、言い合っているうちに訳が分からなくなってきた。
身勝手な話をされていると思うけれど、相手の言葉も間違ってはいないと感じる。

『相手の国は召喚がしたい、けれど魔法も術も使えない、それでも召喚がしたい。
情報を集め研究し、可能性のある方法を見つけた。
それが正しいか実験をしている。

君の元いた世界でも動物実験や人体実験もあったんじゃあないのかい?
彼らは彼らで生活を豊かにするための努力をしている。

君から見れば自国の民を攫う悪だとしても、立ち位置が変わると全てが変わる。
自分が正しいと思うことを、自分のやりたいことをやればいい。

君の力の方が、君の意思の方が強ければ、周りは君が正義だと認めてくれるだろう。
それでも相手からすれば君は悪だ。
絶対的な正義も悪も無いのだから、君は君の好きにすればいい』

この相手の言っている事は間違えてはいないのかもしれないけれど、極論過ぎる。
唆されているような気がする。

『あなたは……悪魔なのですか?』

『さあ?【ボク】は【ボクら】だよ』

この相手はこの世界を作った存在のはず。
神では無いのか?

『君は神の作り方を知ってるかい?』

質問の意味がわからない。
神は神なのでは無いのか?

『人の祈り、願い、信仰、畏れ、尊敬、愛情、願望、想像……色々なものから神は生まれる。
人、自然、動物、空想上の生物、全てのものが神になり得る』

……成る程、なんとなくだけど理解できた。

『じゃあ神に対するものはどうやって生まれる?
同じ生き物が悪鬼になったり神になったり、同じ自然現象が尊ばれたり忌み嫌われたり。
神も悪も人の意志から生まれる。
同じものが神となり悪となる。
じゃあ何が神で何が悪だと思う?』

『……人の捉え方次第…ですか?』

『そう、人に都合の良いものが神であり、都合の悪いものが悪だ。
神も悪も人それぞれの受け取り方次第、受け取りたいように受け取るものだよね』

僕にはその極論に言い返しようが無い。

『ボクらはこの星が気に入って、この星に交わり、彼女は見守りたいから交わらずに残った。
ボクらもやりたい事をやりたいようにやっている。
君もそうすればいい。

人の考え方、受け取り方、感じ方、何を良しとし、悪とするかは人それぞれ。

全ての人がそれぞれの考え、正義を持っているのだから、君が、君の周りが良い生き方ができる道を選べばいい。

ボクは君の行く道を見たいと思ったから、今回力を貸すことを選んだ。
妖精達は君が好きだから君に力を貸すことを選んだ。
さあ、君はどんな道を選ぶ?』

相手の言う通り、全ての人が幸せになる道なんてあり得ないのはわかる。
なら僕は僕の周りの人達が幸せになる道を選ぶ。

『さぁ、君の選ぶ道を聞かせてくれ』

『……北の国へ行き、捕まっている魔族の人を解放する、召喚を辞めさせる、そして………』

目を閉じると、家族が行方不明になった魔族の人の顔が…怒りに震える牧さんの顔が浮かんでくる。

『首謀者に報復を』

はっきりと言葉にすると、手を叩く音が聞こえてきた。

『君の選択を聞き届けた。
強い意思は強い力だ。
報復は何も生まないと言う考えもある。
しかし報復することによって救われる心もある。
君は君の周りの人の心を救うが良い。
生きるとは綺麗事だけでは無いと君は理解した。
君の選んだ道を進むが良い。
その時君は………………』

声が次第に小さくなっていき、僕は意識を失った。





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