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第五章 問題は尽きないようです

対話

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『君はあの子達を連れて北へ行きたいんだよね』

『はい、北の大国が魔物の方を攫って酷いことをしているのを止めたいんです』

『酷いこと……ねぇ』

『攫って殺して、心臓を取り出すなんて、人のやる事じゃ無いですよ』

『人のやる事じゃない……ねぇ』

『その理由が異世界から召喚したいからって、間違えてる』

『間違えてる……ねぇ』

何だろう…何だかずっと呆れたような相槌を打たれている気がする。

『神として、こんな残虐な事を許して良いのですか?』

僕はちょっとムッとして言うのだが、帰ってきた答えは、

『神…ねぇ。ボクが神だといつ言ったかな』

だった。

『あなたは神では無いのですか?』

『そうだねぇ、ボク達はボク達だ』

はぐらかされているのか、暖簾に腕押し状態に苛立ち、質問を重ねる。

『残された神話に書かれている五柱の神々では無いのですか?』

『この世界に来たのはボク達だよ。
一人は空に溶けて、一人は土に混じり、一人はボク達の姿を模した。
そしてボクは水に溶けた』

『やはり神なのですね』

『神…ねぇ……。
ねえ、神って何だろう?』

逆に聞かれてきたので、僕は答える。

『……人々を見守っていて、間違った事をしないように、正しい道を示す存在?』

『間違った……ねぇ。
間違ったってどんな事?』

『……騙したり盗んだり殺したり、公衆道徳に外れる事?』

『正しい道ってどんな事?』

『…………嘘をつかず、相手を敬い、必要以上の贅沢を求めな………』

自分で言ってて何か違うと思い、言葉が止まる。

『嘘をつかない?騙さない?
人にそれが出来るのかい?
太ったことを気にした人に太ったと言えるのかい?
嫌いな人が遊びに来て、来るなと言えるかい?』

『……悪意のない嘘なら…………』

『盗まない?
今にも死にそうなほど飢えている貧乏な子供が、金持ちの食べ残しをゴミ箱から取ったと罰せられた。
ゴミを盗んだ貧乏な子供が悪いのかい?』

『……そんなのは詭弁ではないのですか?』

『人を殺さない?
子供を殺され妻が犯され殺され、物まで盗まれた男が復讐相手見つけて殺した、それも許されない罪なのかい?』

『極端過ぎます、そんなのはケースバイケースじゃないですか』

『そうだね、ケースバイケース。
人は信じたい事を信じ、行きたい道を行く、悪い事も正しい事も変わる。
人はやりたい事をやる、人の行動は、それぞれが選んだ結果だ』

『選べない人もいます』

『分別のつかない幼子なら選べないかもしれないね。
でも大人は皆自分で道を選んでる』

『そんな事は無いと思います。
弱い立場の人間は道を自分で選べません』

押し問答の様な言い合いは続く。

『果たしたそうかな』

『国家に睨まれたら、一般人はどうしようもないじゃないですか』

『本当にどうしようもないのかな?
国を出て別の国へ逃げる、人のいない地へ行く、味方を見つけて戦う……簡単に思いつくだけでもやりようはあるよ』

『逃げられない人もいます』

『なぜ逃げられない?
本当に嫌な事なら命がけで逃げれば良い。
逃げないのは本人に逃げる意思が無いからじゃないの?』

『極論過ぎます』

『虐げられても戦う事も逃げる事もしない、自分で行動しないで嘆くだけ。
それって可哀想な自分に酔ってるだけなんじゃないの?』

『あなたは!……何が言いたいのですか?』

『言いたい事?
そうだねぇ、やりたい事をやりたい様にやれば良い?』

『皆が皆やりたい様にやると秩序が乱れるじゃあないですか』

『秩序…ねぇ。
正義や秩序、正しい事なんて誰が決めると思う?
歴史も何も強いものが好きなように決めるんだよ』

『全てがそうだと言い切れないじゃあないですか』

『強さ…力、権力、金、知恵、方法はそれぞれさ。
皆自分が住みやすいように世界を作り変える。
規則や法律だけでなく、山を削り川の流れを変え、海を埋め立て、都合のいいように全てを変える、それが人間でしょ?
だから君も好きにすればいい。
君の周りの人を攫った人を殺すのも、国を滅ぼすのも、好きにすればいい』






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