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第五章 問題は尽きないようです
会議・3
しおりを挟む牧さんが言うには、マモランドの民の一人がオワリ在住の友達の家へ泊まりに行き、帰国途中忘れ物に気づいて友の家へ戻ると、姿が消えていた。
その時は、ただ外出しただけだろうと思って気にしなかったのだけど、その時以降姿を見ていないと。
当時は気に留めなかったのだけれど、友以外の違和感のある魔法の気配が薄っすら残っていた気がすると思い出し、牧さんに報告してそうだ。
ただ本当に薄っすらだったし、日数も経っているので今更確認しようもなく、確たる証拠は無いのだけど、何かの手掛かりにならないかと思っての報告だそうだ。
「魔法は純粋な魔物の方にしか使えないのだから、もし拉致だとすると、魔物の方が魔物の方を拉致している…と言うことになるのか?」
「魔物が魔物をさらうメリットが無い」
ラトさんの問いに答える牧さん。
「もしラト様の言うように、魔物の方がさらったとしても、どこへ何の目的でか、不明ですな」
フジ家のレフさんが言う。
「意味もなく同族をさらうなんて事、魔物はしない」
「ユウ様の言葉に賛成ですね。
仕事柄魔物の方と接する事が多いですが、魔物の方は仲間意識が高いですから、同族をどうこうするとは思えません」
ルツさんの後を継いだキシ家のネジさんが言う。
「…洗脳されているとか、人質か何か取られて脅されているとか?」
敏和そんの発言に、視線が集まるけど、もし魔族の人がこの行方不明事件に関わっているのなら、脅されているか洗脳されていると言うのはあるだろうと思う。
騒つく会議室に更に騒つかせるハルさんの言葉が発せられた。
「本日報告された事でまだ一つも裏が取れていませんけれど、事故に遭った馬車の中から、二人の魔物の方が遺体で発見されました」
「事故があったと言う報告は受けていませんが」
「カイ様、報告は暫く入らないかと思われます。
……事故があったのは山脈北の小さな町の外れですから」
「山脈の北⁈」
「魔獣に襲われたようで、御者や同乗者も亡くなっていたそうですが、二人の魔物の方以外は人間だったそうです」
一層騒つく室内。
「魔物が北の地へ行くわけがない。
その魔物が行方不明事件に関与しているのか…」
「もしくはその二人は攫われただけで、同乗者の人間が攫ったのか」
「だが人間が攫ったのなら、魔法を使って攫った形跡があったと言うのは?」
「山脈の北とは、魔物の方はどこへ連れて行かれようとしたのだ?」
収集のつかなくなって来た騒ぎを、ナチが止めた。
「鎮まれ。
今ここで騒いだからと言って何も解決に繋がらない。
本日おきたと言う事故の詳細を調べる事により、判明する事も出てくるだろう。
至急調べるように。
そしてその結果が分かり次第対策を練るとし、本日の会議はこれで終了とする」
ナチの言葉に皆一斉に頭を下げる。
ナチが退出する時、チラリと室内を振り返ると、前国王のジンが頷く。
その頷きに、小さく息を吐いてナチは部屋を出て行った。
それでいい、みたいな感じなのかな。
こんな大人数の会議なんて開かれる事無いし、内容も今までにない系統の、この国では珍しい、事件に関する会議だったから、ナチも内心不安だったのかな。
この国は神の祝福で大きな事件なんて起こる事無いから、誰にしても初めての事だったろう。
僕も心の中でナチにお疲れ様と声を掛けた。
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