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第五章 問題は尽きないようです
そして僕の日常の事
しおりを挟むいつものように店番をしながら、納品された新たな見本品の検分をしていると、来店を告げるドアベル(カウベル)が鳴った。
「いらっしゃいませ」
入り口に目をやると、スラリと背の高い男性が店に入って来るところだった。
引き締まった身体に、白い騎士団服、輝くブロンドは緩くウェーブしている、絵に描いたような王子様な容姿の……ワンコ副団長だ。
「ウチ様、団長より伝言を承って参りました!
本日急遽王妃様の帰宅へ付き添うため、来店出来なくなってしまったとのことです!」
……いや、ネイ、いつもの事だけど、こんな私信に部下を、しかも副団長を使うなよ…。
「了承しました。
しかしリイさん、前々から言ってるけど、私用の伝言なんて断っていいと思うよ。
それに別にネイとは約束しているとかでも無いんだし」
しかしリイさんは、ニッコリ微笑み緩く頭を振る。
「いえ、例えどんな些細な事であろうと、団長の言う事に私は従います!
逆に団長の用件を他の人に任せるなんて事、したくはありませんので!」
あくまでも表情は王子様スマイルなのに、後ろでは尻尾がブンブンと勢いよく振れている。
「それと、こちらは私の私用なのですが、来週ウチの妻の誕生日でして、週末に家でささやかな誕生会を開くのですが、娘が『是非』ウチ様にいらして欲しいと」
ははーん、今日はこっちが本命の話題だな。
「すみません、来週末はヤギ家の農園でタタンジュのメンテナンスなんです」
タタンジュのメンテナンス…つまり躾だ。
生まれて間もない仔タタンジュに、人や家畜を襲わないとか、作物を荒らさないとかを教えたり、毒抜きの手伝いなどを、タタンジュを紹介?した責任として、仔タタンジュが生まれる度にやっている。
タタンジュだって一応魔獣だからね。
人と共存する為にはきちんと躾をしないと、お互いに悲しい事になるからね。
「そうですか…キロが残念がります…………と言うか「パパの役立たず」とか「パパなんてキラ…」とか言われたらどうすればいいんですか!」
あー……ミミはペターンと寝てるし、尻尾は内に丸まってるし……本当に王子様ルックスとのギャップが………。
でも大体、本人の誕生日ならまだしも、母親の誕生会なんて、呼ばれても…だよ。
「ねー、ウチ様、ちょっと顔を出すだけでも…なんだったら次の週の頭にキロに会うだけでも…」
「あー……ごめんなさい、週頭はチムちゃんと買い物をする約束で……」
「チムちゃんと?
キロとは会わないのに、チムちゃんと買い物……。
そんな事キロが知ったら「パパなんて大っきら……」………ああああ…!!
あの、キロもそこにご一緒する事は無理ですか⁈」
リイさんには悪いけど、そうすると僕の負担が……。
「ごめんなさい」
嫌な事ははっきりと断ろう。
「ああああああ…キロ、ごめんよ、パパが不甲斐ないばかりに……」
あー、リイさん蹲ってしまったよ。
騎士団服汚れるよー。
本当に残念な人だよなぁ、見た目はこんなにキラッキラなのに。
そんな収集のつかない所に、騎士団の団員さんが店に入って来た。
「副団長、団長がお呼びです」
団員さんは、床に蹲っている姿を見ても一つも気にせず、用件だけ伝える。
この姿が日常だと物語ってるよな。
団長と聞いた途端、頭に張り付いていたミミがピーンと立った。
「わかった、すぐ向に向かう」
立ち上がった時には、先程嘆いていたのと全く別人のような、完璧な王子様。
ただしズボンの膝下が汚れているけど…。
慌しく出て行った二人を見送り、僕は見本品の検分に戻る。
なんて事はない日常の一コマだ。
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