上 下
119 / 161
番外編ーこぼれ話集ー

その10 馬車の中

しおりを挟む
皆さんこんにちは。
トウ・ドウ・ウチこと東堂内 柊一郎です。

城を出てトキ家へ向かう馬車の中、なぜか僕は今、座席の上で絶賛正座中です………。


*****


王城を出て、馬車で町中を行く僕と秋彦さん。
窓の外から見える町並みは、前回と違う。

道なんて沢山あるんだから、前回と違う道を通ってるんだろうな。
それにしてもなかなか到着しないな…。

などと思いながら、珍しくも静かな秋彦さんをチラ見すると、
「あー、ちょっと寄り道しようと思ってね。
大丈夫、その分余裕を持って到着時間伝えてるから」
そう言ってまた口を閉じる。

何が用があるのかな?


なんて思っていた僕は、呑気者でした。

馬車が止まったので外を見てみると、町の外の草原のど真ん中だ。
「それじゃあわたしは少し席を外しますね」
そう告げると、御者の人は馬車から離れて行った。

残ったのは僕と秋彦さんのみ。

「取り敢えず座ろうか」
言われて地面に座るけど、なぜか向かい合わせ?

フーーッと大きくため息をついた秋彦さんの、スーツの胸ポケットから、一人の妖精が顔を出す。
あれってもしや……。

「もしもし、マッキー、聞こえるかい?」
『はいはーい、いつもの如く感度良好』
やっぱり遠話の子か。

「もうさー、おっちゃん呆れて口ポカーンだよ。
ちょっとそこに座りなさい」
「いや、座ってますけど?」
「正座だよ、せ、い、ざ!
俺たち君にはほとほと呆れたよ、マッキーも言ってやれ」
『うっちーくん、ニトから聞いたよ、君何してるの?』

え?一体何が始まったの?
思わず口がポカンと開く。

「何ポカーンとしてんの、まさか身に覚えが無いとでも?」
前置きも何もなく、いきなり責められても、何が何やら…。

『君さー、自分らがあれだけ言ったのに、なんでBLルート突入してんの?』

………はーーーー⁈

「ちょっ、それ何の言い掛かり⁉︎」
「あの真面目君を落としたんだろ?
耽美趣味はいただけないねぇ」

真面目君とはネイのことか。

「落としてない!
誤解もいいとこじゃん!
ただ目を見て話をしただけじゃん!」
「目と目で通じ合う~、か?うん色っぽい~ってやつか?」
『スキルのせいで孤高を貫いていた孤独な青年の、心の隙間にそっと寄り添って…か?
君は一体どこを目指しているんだ?』
「どこも目指してな~~い!
妄想を爆走させないで!」
誤解も甚だしい!

『じゃあ何で周りに女の子を置かないの?』
「なぜ男で周り固めてんの?」
「だ~か~ら~、前も言ったけどど、好きでそうしてんじゃなくて、そうなってたの」
自分からそうしたんじゃないんだし。
そして始まる二人の妄想の暴走。

『それでも「専属メイド付けて下さい」とか…』
「女教師に個人レッスンして貰いたいですとか言えるよね?」
『専属メイドに、膝枕、添い寝、一緒にお風呂のフルコース……』
「女教師に、一つ問題を解くたびにご褒美の……」
『君は僕の専属なんだから、僕の言うことは何でも聞かなきゃダメなんだよ、とか……』
「先生、僕に大人の個人授業を……とか」
……うん、この二人の性癖と言うか、AVのラインナップがわかるな。
と言うか、正座までして僕は何を聞かされているんだろう。

「はーはーはー…話は逸れたけど、とにかく!君の女っ気の無さは異常だよ」
異常と言われても…。

「うちの店に来たら女の子付けるからね」
それ、何か違う店なんじゃないの?

『そうだよ、アッキー。
いっそのこと女子寮でも作って、そこに放り込んじゃえ』
「おっ!女子寮と管理人!
それもアリだね」
ナイナイナイナイ。

「そりゃあ可愛い女の子が側に居ると、嬉しくはあるよ。
だけどまず大前提で、僕はこの幼児体形だから、何もできないし、未発達だからもよおしもしない。
さらに周りの人って、寿命長くても二百~三百年だろ?
僕が女の子と付き合えるようになるまでに何百年かかると思ってんの?」

そう、何百年も経たないと大人になれないんだから、そう言う欲求も体と共に成熟していくんだと思う。
今は綺麗な女性や、可愛い女の子見ても『ああ綺麗だね、可愛いね』としか思えないし。
だから僕にも運命の人が居たとしても、出会うのはそれこそ何百年、下手したら何千年とか先になるんだろうな。

『ま?それま?
何百年も禁欲生活?
魔法使い通り越して神にでもなるの?』
「うわ~…ムッチンプリプリのチャンネー居ても、絵に描いた餅状態?
イケイケギャルに乗っかられても、無反応?」
『アッキー、そんな可哀想な子の周りを女の子で囲むのって、拷問にならないか?』
「そこにヘブンが有ってもゲートをくぐる事も出来ないなんて……」
『柊一郎、なんて可哀想な子』
「これはもう黙って見守るしかないか」
『それな』

…………何だろう、空気が痛い……。

『……いやー、うっちーはうっちーのままでイイヨ!』
「そうだね、おじさん達がでっかいお世話サマーだったよ!」
『うんうん、今日の話は無かった事で。
じゃあまたな』
…………………………………………。

「あー……御者呼んでこようかな。
早く店に戻らなきゃ、時間食っちゃったな~」
牧さんの通話は途絶え、秋彦さんは馬車の元へ。

…………泣いてなんかいないやい!
ちょっと目に熊澤さんの毛が入っただけだい!

その後、トキ家に着くまで、馬車の中の空気は物質化したように重かった……。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女が婚約破棄されて処刑されてしまったら王国は滅びる?

鈴原ベル
ファンタジー
シューペリア王国の伯爵令嬢リリアン・マールベラは、変身魔法で魔族から人々を守る聖女として、崇拝されていた。彼女は王太子の婚約者として、次期王妃の座が約束されていた。だが、彼女は卑劣な罠に嵌められてしまう。婚約を破棄されてしまったばかりか、無実の罪を着せられて処刑されてしまうのだった。火に包まれながら リリアンは生きる事を願った。果たしてリリアンは転生できるのか? 聖女のいなくなった王国は魔族に滅ぼされるのか?

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

処理中です...