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第四章 そしてこれから

選んだ理由

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「そしてもう一軒、ヤギ家にも惹かれました。
自然と共に生きている、自然に生かされている事を感じられる、とても惹かれる場所でした。
しかしながら、私はかなりの長い期間このままの姿です。
はっきり言って農業をするには無理な身体です。
本当に子供の使いしか出来ません」

「仕事など気にする事は無い」
これも思った通りの反応だ。

「いえ、見た目はこの様に幼くなっていますけれど、私は元の世界で言う所の『中年』に差し掛かっている成人男性です。
仕事もせずに庇護されて生きていくのは、倫理的にもダメなのでは?

健康な身体に、生活に関する知識も有ります。
見た目は子供ですが、自分の意識では立派な大人だと思っております。
大人が働かないで、人の世話になっているのって、元の世界では『穀潰し』とか『ヒモ』とか『ニート』とか…まあロクな意味では無いのですが、歓迎されません。
『働かざる者食うべからず』とか言う教えも昔からありますしね。

第一自分自身、働かないで人の世話になっていると、腐ってしまいそうなのです。人として」
ろくでなしロードを邁進しそうだよ、働かないと。

「それで商売をやっておるトキ家なのか?」
「はい。
読み書きには妖精達のお陰で問題ないですし、計算…金勘定は不得手では有りませんし」
長く一人暮らししてたからね、家賃や水道光熱費、通信費に年金と保険代、交通費に交際費、食費に雑費。
色々やり繰りして、結婚に向けて貯金もしていた。
経済観念はバッチリだよ。

結婚資金は無駄な出費になったけどね……。

それにやっぱり仕事しないとダメになるよ、他人は知らないけど、僕はムリ。
貧乏性だと笑うなら笑え、だよ。

おっと、考えが脇道に入り込んでしまった。
真意を探る様に、僕を見ていた王様が、小さく息を吐き、ケチさんに声をかける。

「トキ家としては問題ないか」
「はい、光栄に思います。
……しかしながら、ウチ様に今一つ確認をしたいのですが……」
ケチさんがこちらに向かい一言。

「ウチにはアノ人が居ますけど宜しいですか?」

あー、はい。
仕入れの旅とかに出てても神出鬼没なあの方ですよね。

「秋彦さんはとても愉快な方ですから、大丈夫です」
問題ないとは言い切ることはできないけど、嫌いじゃないし。

声に出さない僕の言葉を読んだ様に、ケチさんは頷いた後、
「少々騒がしい家ですが、宜しければ我が家においで下さい」
「こちらこそよろしくお願いします」

頭を下げ合う僕達に王様が、
「それでは迎える準備が整うまで、今暫く城で過ごして貰う事となる。
ゆっくりと過ごしてくれ。
では皆、今回はこれで解散とする。
ご苦労であった」
王様が声を上げると、皆一斉に頭を下げた。
それを見て僕も慌てて頭を下げる。

王様が退出するのに僕の横を通り過ぎる時、
「急に居なくなると寂しいからな、準備はゆっくり時間をかけてくれ。
また共に食事をしよう」
と、小さな声で囁いた。

僕は笑って「はい」と答える。






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