107 / 161
第四章 そしてこれから
選んだ理由
しおりを挟む「そしてもう一軒、ヤギ家にも惹かれました。
自然と共に生きている、自然に生かされている事を感じられる、とても惹かれる場所でした。
しかしながら、私はかなりの長い期間このままの姿です。
はっきり言って農業をするには無理な身体です。
本当に子供の使いしか出来ません」
「仕事など気にする事は無い」
これも思った通りの反応だ。
「いえ、見た目はこの様に幼くなっていますけれど、私は元の世界で言う所の『中年』に差し掛かっている成人男性です。
仕事もせずに庇護されて生きていくのは、倫理的にもダメなのでは?
健康な身体に、生活に関する知識も有ります。
見た目は子供ですが、自分の意識では立派な大人だと思っております。
大人が働かないで、人の世話になっているのって、元の世界では『穀潰し』とか『ヒモ』とか『ニート』とか…まあロクな意味では無いのですが、歓迎されません。
『働かざる者食うべからず』とか言う教えも昔からありますしね。
第一自分自身、働かないで人の世話になっていると、腐ってしまいそうなのです。人として」
ろくでなしロードを邁進しそうだよ、働かないと。
「それで商売をやっておるトキ家なのか?」
「はい。
読み書きには妖精達のお陰で問題ないですし、計算…金勘定は不得手では有りませんし」
長く一人暮らししてたからね、家賃や水道光熱費、通信費に年金と保険代、交通費に交際費、食費に雑費。
色々やり繰りして、結婚に向けて貯金もしていた。
経済観念はバッチリだよ。
結婚資金は無駄な出費になったけどね……。
それにやっぱり仕事しないとダメになるよ、他人は知らないけど、僕はムリ。
貧乏性だと笑うなら笑え、だよ。
おっと、考えが脇道に入り込んでしまった。
真意を探る様に、僕を見ていた王様が、小さく息を吐き、ケチさんに声をかける。
「トキ家としては問題ないか」
「はい、光栄に思います。
……しかしながら、ウチ様に今一つ確認をしたいのですが……」
ケチさんがこちらに向かい一言。
「ウチにはアノ人が居ますけど宜しいですか?」
あー、はい。
仕入れの旅とかに出てても神出鬼没なあの方ですよね。
「秋彦さんはとても愉快な方ですから、大丈夫です」
問題ないとは言い切ることはできないけど、嫌いじゃないし。
声に出さない僕の言葉を読んだ様に、ケチさんは頷いた後、
「少々騒がしい家ですが、宜しければ我が家においで下さい」
「こちらこそよろしくお願いします」
頭を下げ合う僕達に王様が、
「それでは迎える準備が整うまで、今暫く城で過ごして貰う事となる。
ゆっくりと過ごしてくれ。
では皆、今回はこれで解散とする。
ご苦労であった」
王様が声を上げると、皆一斉に頭を下げた。
それを見て僕も慌てて頭を下げる。
王様が退出するのに僕の横を通り過ぎる時、
「急に居なくなると寂しいからな、準備はゆっくり時間をかけてくれ。
また共に食事をしよう」
と、小さな声で囁いた。
僕は笑って「はい」と答える。
1
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
遥かなる物語
うなぎ太郎
ファンタジー
スラーレン帝国の首都、エラルトはこの世界最大の都市。この街に貴族の令息や令嬢達が通う学園、スラーレン中央学園があった。
この学園にある一人の男子生徒がいた。彼の名は、シャルル・ベルタン。ノア・ベルタン伯爵の息子だ。
彼と友人達はこの学園で、様々なことを学び、成長していく。
だが彼が帝国の歴史を変える英雄になろうとは、誰も想像もしていなかったのであった…彼は日々動き続ける世界で何を失い、何を手に入れるのか?
ーーーーーーーー
序盤はほのぼのとした学園小説にしようと思います。中盤以降は戦闘や魔法、政争がメインで異世界ファンタジー的要素も強いです。
※作者独自の世界観です。
※甘々ご都合主義では無いですが、一応ハッピーエンドです。
御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる