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第三章 異世界の馬車窓から
初代様の記録〜其の捌〜
しおりを挟むほう、甘いくせに大きな事を言いよる。
理想を述べるのは簡単だ、果たしてそれを成すだけの力が此奴にあると言うのか?
「……私達魔物は人とは見た目も力も、寿命も違います。
それでも共に有れるとお思いですか?」
敵の大将が尋ねるは、もっとものことだ。
「思います。
確かに見た目は違います。寿命も違うでしょう。
しかし話は出来ます。
お互いに大切なものを守りたいと言う心も有ります。
通じる言葉と心が有れば、時間はかかるでしょうけれど、共に生きていけると私は思います」
「そなたはそう思えど、周りの奴らが同じ考えだとは思えぬ」
甘い考えに口を挟んでしもうた。
すると王は笑って言う。
「それに付けましては、貴方のおかげで解決しました。
貴方の恫喝により、足を引っ張ると危惧していた貴族が丸々居なくなりましたからね。
それに自己の功名ばかりを考える、古い考えに凝り固まった兵士や、国民の事を蔑ろにして利益ばかり貪る役人まで、一掃できましたから」
何と、我は利用されたのか?
「私達には祝福も加護も有りますし、これからの国造りには貴方方も居ますからね」
何とこらからも我等を利用すると堂々とぬかしよる。
してやったりな顔に呵々と笑いが出るわ。
愉快愉快、こやつは甘いだけでは無かったか。
「ふむ、面白い。
良かろう、一度終わったこの命、今生はこの国の行く末を見るとしよう。
お主のその心意気を貫く限り、我の力を貸そうではないか」
我が受けると、部屋の隅で黙って座しておった他の者も同意する。
「我は上様の仰る通りに致します」
伴が言うのに続き、医師の男と兵の若い男も頷く。
「そうですね、私は医師として、生きる人、生きようとする人の力になる事が使命です。
その為なら力を貸す事に異存はありません」
「自分も微力ながら尽力させていただきます」
それを聞いて敵大将に問うてみる。
「こちらとしてはそう言う事だ。
そちらはどうする?
甘くも策士な男と和平を結ぶか、最後の一兵迄戦う事とするか。
……但し戦うと言うのなら容赦はせぬぞ。
我も折角手にした力、存分に振るってみたいからの」
言いながら気を飛ばしてみると、敵大将等は震え上がる。
「私達も無駄に負傷者は出したくありません。
住む場所と安寧を確約して頂けるのなら、兵は引きます」
大将が頷くも、副将の大鬼が口を挟む。
「魔王様、本当に信じられるのでしょうか?
騙されているのではありませんか?」
ふむ、場を読み即断する事の出来る者が上に立つは良い事なれど、それを鵜呑みにするだけではなく、考慮する副官の存在も重用(ちょうよう)成り。
妖供との共存、この国の主人の夢物語ではなく、新しき世界の一歩と言って良いであろう。
まこと面白き処へ喚び出してくれた事よ。
「安心せい妖供。
此度の和平この第六天魔王 織田信長が必ず果たしてみせようぞ」
話は終わり皆で町の入り口へと向かい、此度の話し合いの結果を告げ、一先ず互いの武装を解かせ、町中へ誘う。
戸惑いながらも妖供は大将の言葉には従うようだ。
人も膿を出し残った者だ、主君の言葉に従わない謂れはない。
その後はこれからの事を細かく決めていくこととなった。
話し合いは数日続くが、我は参加せず、町中の小競り合いを収めて回る事とした。
ここは我の国では無い、細かい取り決めは国の者がすれば良い。
この国の行く末を見守ると決めた我は、我の出来る事をすれば良いであろう。
……まあ、小競り合いを諌めると言う大義で身体を動かしたいと言うのが正直なところでは有るが、それくらい大目に見てもらおうか。
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