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第三章 異世界の馬車窓から
初代様の記録〜其の伍〜
しおりを挟む協力するにも、我等は何も知らぬ。
この地の事も敵の事も何一つ知らぬでは策の建てようよない。
近隣の地形などを示した図を見ながら、相手の布陣なども聞くが、やはり一つ処に集まっておるだけの様だ。
これで戦さと呼べるのであろうか。
余程これまで戦さとは無縁だったと言うところなのであろうな。
「して、先程の術とやらは我等も使えるのか?」
「【人に祝福を与えし妖精の術】ですか?
種類は違いますが、祝福さえ受けていれば、その祝福をもたらす妖精の【人に祝福を与えし妖精の術】を使う事が出来ます」
王に尋ねてみたのだが、長くてかったるい。
「……長いのう、【妖術】で良かろう」
我が言うと、先程術を放ってみせた男が息を飲む。
「長いとか短いとかの問題ではありません!
妖精の協力無くして我々には魔物に立ち向かう術(すべ)は無いのですよ!
不興を買ってしまうでは無いですか!
「煩いのう、不興も何も此奴ら愉快そうに笑いながら舞っておるでは無いか」
我の周りを漂う小さき者を指すと、その男は驚いた顔をして詰め寄って来る。
「あ……貴方は妖精の姿が見えるとでも言うのですか⁉︎」
「見えるも何も、そなたにはこの羽を生やして飛んでおる幼子共(おさなごども)が見えぬのか?」
他の者共を見てみるが、どうやら我以外にはこの小さき者は光の塊にしか見えぬ様だ。
「王以外に見える者が居るとは……」
男の呟きに伴が口を挟む。
「上様は日の本を統べるべき方ですからね。
俗民の見えぬものを見るのも当然の事です」
何故か此奴が誇らしげな顔をするのは良いが、話が進まぬでは無いか。
先程の事を思い起こしてみれば、小さき者の力を引き出すとの事であろう。
使える妖術は千差万別のようだが、どうやって推し量るべきかと考えておると、周りを漂う赤き者が肩に乗り、こちらを見上げる。
言葉は通じずど、何やら想いが伝わって来る…ような気がする。
身体の奥底に熱い何かが感じられ、我は窓辺へ歩み寄り、右手を差し出し心のままに動いてみる。
「……火よ…」
右手を突き出し、身体の中の熱を撃ち放つ。
掌の上に現れた火の玉は、前方へと飛び出して行った。
ふむ、感覚はわかった。
なれば熱いものとは別に感じる弾ける様なこの感覚は…。
手を天空に翳し感覚のまま、感じる力を振るう。
「雷(いかずち)よ」
天空より稲光と共に雷が空を割く。
面白いのう、なれば次は、
「闇よ」
指す方角が闇に包まれる。
「ほほぅ、これは面白い、全ては思うままか。
まだ別の力も感じるが、それが何かはわからぬの。
わからぬものはどうすればよいのだ?」
問いながら振り向くと、皆一様に顔色を無くしておる。
先程我に難癖をつけてきた男などは、蒼白になり震えておる。
「ほ……他にもですって?」
「ああ、後二つ程力を感じるのお」
我の言葉に更に酷く震えたかと思うと、今度は顔を真っ赤にして怒鳴りだした。
「なんなのですかこれは!
私は王と同じ二つもの祝福を受けた一番の術師ですよ!
それなのに何故こんな異世界の得体の知れぬ者が、この私より祝福を受けるのですか!
神が私を認めたから、妖精も二つの祝福を与えてくれたのでしょう?
何故その私より……こんなふざけた話納得いきません!
私が一番なのです!
私が誰よりも優れていなければ可笑しいでしょう!
私が……私が……」
「…此奴何を言っておる?」
様子のおかしくなった男に言うと、男は更に赤くなり、声を張り上げる。
「この異界人が!
我に祝福を与えし妖精よ!我のプライドをコケにするこの男に裁きを!
ウインドアロー!」
目に見えぬ風の矢を放って来るが、身体の動くまま、術を放ってみる。
「時よ」
我が術を発すると、喚いておった男と共に、風の矢はその動きを止めた。
ふむ、不明な術の一つは時を操るものか。
我が納得しておると、意識を取り直した王が指示し、止まったままの男を部屋の外へと連れ出させた。
部屋の中はしんと静まり返っておる。
煩くなくなり良い事だ。
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