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第三章 異世界の馬車窓から

初代様の記録〜其の参〜

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男のうち一人は医師で、先程戦について問うていた男は兵士だと言う。
どうやら我の居た頃より幾年も後の日の本から来たとの事だ。

二人共我の事を知っておった。
尾張の田舎の小倅だった我が、歴史に名を残しておるとは、愉快な事よ。

我が死んだ後何やかんやでは、サルが天下一統し、その後タヌキが全てを握ったのか。

ふむ、面白そうだな、この目で見てみたかったわ。

興を引かれ話を聞いておると、先程の王と名乗る者共が部屋にやって来た。
そこで大まかなこの国界隈の話と、戦さの現状を聞く。

戦い方は先程もちらりと聞いた、正面衝突のみだそうだ。
策も兵法もあったもんではない。

「そもそもその魔法とは何ぞ?」
我が尋ねると、
「実際にお目にかける方が早いでしょう」
立ち上がり窓辺に寄ると、窓を開ける。

「…私に祝福を与えてくれている風の妖精よ、その力をお貸しください……、
その風、鋭き刃(やいば)となり我が手から放たれよ、ウインドカッター」

何やら呪文を唱え終えると、其奴の手から風が放たれ、前方に有った木の枝が、見えぬ力により切り落とされた。
ほう、面白い。

「魔物は皆魔法を使います。
系統は有るようですが、火や氷を飛ばして来たりします。
弓矢でこれを撃ち落とす事は出来ず、盾で塞ぐのも限界が有り、人には対処が出来ません」

聞くと此方の国では、剣と弓と槍と斧で戦うそうだ。
種子島や投石器や大筒などの飛び道具は無いとの事。
盾も木製の物だけで、火が飛んで来るとそれまでと。

「足場を崩すために穴を掘ったり、罠をはったり…細道へ誘い込み挟み撃ちにしたりもしないのですか?」
兵士の男が聞いておる。
ここの者共よりは戦についてわかっているようだ。

「狩では無いのだからそんな卑怯な真似などせぬ」
肥えた老人が声をあげる。
「戦に卑怯も何もあるか。
毒を盛ろうと、焼き討ちしようと、大群で包囲網をひこうと、先ずは勝たねば話にならぬ。
負けは即ち死なのだからな。
死を前に卑怯云々言っておれるか。
死にたく無いから我等を招いたのだろう?」

我が口を挟むと、肥えた男はおし黙る。
「話をするにせよ何にせよ、先ずは力を見せ、相手の気勢を削ぐのが早いのでは無いか?」
「早い遅いの問題では無い」
肥えた男が更に言い募るが、兵士の男が水を差す。

「いえ、早いに越した事はないと思います。
戦いが長引けば、双方被害者は増えるだけですよ。
短期で終わらせる事が一番被害が少なくて済むのでは無いですか?」
ふむ、此奴中々頭の回転が速いようだ。

「戦さの指揮はこちらに任せてもらおう、それが手を貸す条件だ。
さすれば早期決着をつけ、相手の首領を生きてこちらに連れてくる事を約束しよう。
その後の交渉はそちらが好きにすれば良い。

この世の事など我等には分からぬ故、我等は我等に出来ることをする、それで問題が有ると言うのなら、この話は辞めだ。

客分として招かれたのかも知れぬが、我等はそなたらの家臣では無い。
我等のやり方に不満があるのなら、我等は手も口も出さぬ。
そなたらだけで好きにすれば良い」

当然の事と我が言うと、橋に座る男が声を荒げた。




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