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第三章 異世界の馬車窓から
初代様の記録〜其の弐〜
しおりを挟むその場には我の他に三人の男が蹲っておったが、二、三の小さき妖…妖精と言うものが身体に入ったかと思うと、暫くして皆立ち上がった。
一人は伴家の者であった。
どうやら爆破に巻き込まれた様だな。
しかし爆破の衝撃の為か、奴め我を分からぬようだ。
奴との話は後にして、この国の王の話を詳しく聞いていく。
「それで其方(そなた)は我に、魔物供を討ち滅ぼせと願うのか?」
ここ数年戦は方面軍へ任せ、我は中央を抑えておったからな、久々の戦に腕がなるわ。
意気込んでいる我に王は首(こう)を振る。
「いえ、私としては魔物を滅ぼしたく無いのです。
元々この地は彼らの物、後から来て先住者を追い出したのは我々です。
ですから、出来る事なら彼等と話し合い、共存できる道が有れば良いと思うのですが」
……甘い考えだ。
「それで策はあるのか?」
「そうですね、先ずは魔物の王と話をしてみたいです。
共存出来るにしても、無理だとしても、全ては話をしてからだと思うのです」
本当に甘いな。
だがその甘さも一興やもしれぬ。
全てを根絶やしにすれば良いと言うばかりでは無いからな。
「なれば此方の力を示し、ある程度相手の戦力を抑え交渉に持ち込めば良かろう」
悩むまでも無い。
「……我々は魔物の前に無力なんです。
魔物は魔法が使えます。
火を飛ばして来たり、水のない場所で水に溺れさせられたり、魔法の使えない人である私達は、為すすべがなく、ここより南の国々は全て滅ぼされました。
私達も時間の問題だと思っていましたけれど、妖精達が力を貸してくれ、私達にも妖精の術が使えるようになり、現状はどうにか膠着状態を保っています。
その現状打破の為にどうすれば良いか思い悩んでいるところ、別の世界の方の知恵と力を借りるようにとアドバイスを受け、妖精の術を使いました。
どうか知恵を貸していただけませんか?」
滅ぼすだけなら、頭を取ると残りの戦力は散り散りになり、早期終着が付くのだが、頭と話したいとなると、圧倒的な力量差を見せつけ、戦意を砕き、此方の優位を持って交渉すれば、思うままとなる。
だが戦場がまるで分からぬ今、実案を出すのは無理だな。
もっと詳しく現状を把握しなければ。
「要は相手の戦力を削ぎ、一番上の者との会見の場を持つ為力を貸せ、と言う事ですね?」
話を聞いていた若い方の男が言葉を発する。
若いが頭の回転は悪くないようだ。
「それなら詳しく現在の戦局を教えてください。
作戦をたてましょう」
どうやらこの若者も力を貸すようだ。
我を差し置いて策を立てようとは面白い。
お手並み拝見といこう。
聞くところによると、ここでの戦さとは、馬鹿正直に正面突破だけだそうだ。
相手もこの方らも戦いには不慣れなようだな。
「お互い正面から衝突し、力技で押し切るだけなんですか?」
若者の問いに答えるは、将軍と呼ばれた大男だ。
「そうだ、お互い正々堂々真っ正面から剣を合わす、それが戦いだ」
前代的な戦さ方法よの。
「しかし魔物は魔法を使って来るので、剣を交わす前に人側は負傷者が増える一方で、負けてしまうのだ。
この国は妖精の術で反撃するので、何とか拮抗状態へ持ち込んではいる」
術を使おうと使うまいと、正面からと言うのは変わらぬようだな。
更に話を詰めようと思ったのだが、王の後ろに控える年嵩の男が口を挟む。
「詳しい話は腰を落ち着けてしましょう。
先ずは皆様、此方へどうぞ」
ふむ、立ったままであったな。
年嵩の男に指図された若い男に連れられ、一旦その場を離れた。
*****
部屋に通され腰を落ち着けると、控える伴が耳打ちしてきた。
「上様、そのお姿はいかがなされましたか?」
懐から小さな鏡を取り出し渡して来る。
鏡を覗くとそこに映し出されたのは、我であって我では無かった。
その小さな鏡面から此方を見返しているのは、若かりし頃の我だ。
元服直後くらいか?
そう言われれば肌に張りもあるようだな。
「我は若返りおったのか?面妖な事よ。
お主は変わらぬな」
伴に鏡を返すと、一緒に連れてこられた男が、それを貸してくれと言いだし、伴が手渡すと仰天し声を上げる。
「何だ?儂も若返っておるぞ!
何が起こっているのだ?」
若い男も鏡を覗くが、そちらは変わらなかったようだ。
どうなっているのか分からぬが、異郷の事など分かる筈もない。
姿が変わった事について考えるのはやめた。
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