90 / 161
第三章 異世界の馬車窓から
オダ家の書は……
しおりを挟む昨日はスイもニトも付いて来なかったけど、今日は一緒だ。
トモ家だと畳の部屋だったけど、今日はヤクさんが気を利かせて、洋室を準備してくれたとのこと。
良かったねスイ。
ネイに案内された室内では、モトさんとヤクさんが先に座っていた。
二人の前のテーブルの上に書物は無く、30センチ四方の木箱が一つあるだけだ。
「本当に私達もご一緒してよろしいのですか?」
テーブルに着いたニトが言う。
おお、ちゃんと仕事モードだ。
スイは今までずっと一緒だったから、僕が書を読む時一緒に見てたけど、ニトは他家の書を見るのは初めてのようだ。
昨日のトモ家の書はスイも見てないけどね。
「構いませんよ。
元々後世の方に見せる為の物ですからね。
この国の方なら誰でもご覧になって構わない物ですよ」
うん、確かに【書】って人に見せる為に残す物なんだから、当たり前の答えなんだろうけど、多分ニトとしては、他所の家の内部事情を覗き見してしまうって感覚なのではないのかな?
僕が始めはそう感じたように。
そんなこんなを考えているうちに、モトさんがヤクさんに目配せし、立ち上がったヤクさんが木箱を開け、中の物を取り出す。
中から出て来たのは、片手に乗るくらいの大きさの、卵型の石だ。
赤味がかったその石は、遊色効果と言うんだっけ?オパールの様に、光の加減で色んな色が浮かんで見える。
「これは……【記録の石】…?」
隣に座るスイが、驚いた様に小さく呟く。
「え?あの城に有る【王家の石】と同じなのか?」
スイの呟きに反応するニト。
二人ともこの石が何なのか知ってる様だ。
と言うか、【記録の石】って言うくらいだから、名前から何なのかわかるけど。
「でもアレって青味がかった透明じゃなかったか?」
「ええ、それに大きさも小さいですけど、あのいくつもの色が浮かぶ見た目はそうとしか思えませんが…」
どうやら見たらわかる物らしい。
「お前知らなかったのか?」
「ええ、聞いていませんね。
そもそも王家以外に存在するとは思いませんでした」
何だか二人がテンパってる。
スイの取り乱しようは、ニトの言葉遣いにツッコミを入れ忘れるほどだから、よっぽど意外な物なんだ、この【記録の石】って。
「お二人は【王家の石】をご覧になった事があるのですか?」
モトさんがスイ達に尋ねる。
「…ええ……。
記録は見た事ございませんが、遠目に拝見した事はございます」
「俺もチラッと見た事があるくらいだけど……」
ニトは完全に素だね。
それに【王家の石】って牧さんの大学ノートで見たよな。
「こちらは【王家の石】をご覧になった初代様が、これは面白いと仰り、祝福を下さっている以外の妖精に力を借りて作ったそうです」
「バカな、祝福を与える以外の妖精が力を貸すなど聞いた事ない」
ニトさーん、後でスイに怒られるよー。
正直二人がここまで驚く事なのか、ちっともわからないんですけど。
でも、繋がっていない妖精の妖術が使えるのかってのは、後でニヤ達に聞いてみよう。
って言うか、ニヤ達当事者じゃん、詳しく聞いてスイ達に教えてあげよう。
二人の反応に出遅れ感のある僕、何も知らないから「へー、この世界にはこんな物があるんだ」としか思えない。
乗り遅れてしまってる。
「これって名前を聞く限り、初代様の記録が見れるという物なんですよね?」
「そうですよ、初代様の記憶を記録した物です」
記憶の記録か、映画みたいな物だったり?
「どうやって見るのですか?」
「この石に触れると見る事が出来ますよ」
ほお、映写機みたいに映し出すんじゃ無くて、触るのか。
「触っても?」
僕が聞くと、「はいどうぞ」と目の前に石を置いてくれる。
「スイ達は見ないの?」
まだ呆けている二人に声をかけると、はっと正気に戻った。
「これは直に触れても良いものなんですか?」
いつもの調子に戻ったスイが尋ねる。
「ええ、直接触らないと見る事は出来ませんよ」
「一人ずつですか?それとも複数人同時に見るとこが出来るのですか?」
「一度に何人でも。
指先だけでも手の平でも、直接触れさえすれば、どなたでも見る事は出来ます」
へー、そんなもんなんだ。
モトさんが改めて「どうぞ」と言うので、僕達は視線を交わし、三人でその石に触れてみた。
1
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説


【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

嫌われ者の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。
家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。
なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる