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第三章 異世界の馬車窓から
道中〜ネイ団長との話 2〜
しおりを挟む「同じ町にトモ家?の方もいらっしゃるのですよね?」
確か先にそちらへ行くと言う事だったよな。
「そうですね、トモ家の方々にはずっとお世話になっています。
以前の世界で主従関係だったそうです。
別世界の事なのですから、以前の関係は忘れても良いと思いますけどね。
でもそのおかげで私達は好きな事を出来ているのが現状ですが」
好きな事?それってスイの家みたいな感じに、自由奔放なのか?
なんて思ったのが顔に出たのか、スイが首を振る。
「元々軍務大臣は他の家の方がやっていたのですが、ラト様が実力で今の地位に就いたのです。
うちとは違いますよ」
「揉めたりはしなかったのですか?」
大臣職なんて上昇志向が有れば、絶対に手放したく無いだろうに。
「当時の軍務大臣の方は、家系的には古くから続く名家でしたけれど、後継の方が亡くなって、他家へ嫁がれて居た長女の方が家を継いだのですが、そのご主人様はどちらかと言うと文系の方でして、とても軍をまとめる事はできなかったのです」
「そこで名乗りを上げたのが、ラト様なのですよ」
「父は元々長(おさ)を継がず、地元で自衛団を作り、兵を束ねていました。
町や周辺の状況を報告するのに城へ上がった時に、軍の状態を見て「このままでは有事に使い物にならない、自分が叩き直してやる」と王に直訴しまして」
おお、ラト様ってなかなかアクティブだね。
「向いていない仕事に、体調を崩していた大臣が了承したと言う話です。
一族の方々も、このまま無理に職に就いていて、不祥事を犯す事になるより、職を離れて穏やかに暮らしたいと言われる温厚な方が多くて、すんなりと話しは纏まりました」
仕事にも、向き不向きはあるからね。
ストレス溜めるより転職した方が正解だと思う。
「じゃあ元々はオダ家は大臣職には就いていなかったんだ」
「そうですね、城から離れたオワリの町を治めるのと、国境を守る事がオダ家の仕事でした」
ニッコリ笑うネイさんだけど、ちょっと違和感が……。
「あの…」
ネイさんに声をかけると、どうされましたか?とこちらを見るけれど、やっぱりそうだ。
「聞いていいことかわからないから、答えたくなければ答えなくていいです。
……ネイさんスイ以外の人と視線合わせないよね?」
ズバリと言うと、ハッとしたネイさんと一瞬視線が合ったけど、すぐ逸らされた。
「あー…それな……。ってかよく気づいたな。
まぁ小さな事は気にするな」
あははと笑いながらニトが言うけれど、スイの隣、斜め向かいに座っているネイさんは「いいのですよ」とニトに言う。
「話をしているのに視線を合わせない…目を見て話さない事は失礼だと思いますが、私の血筋の問題で、視線を合わせる事の方が失礼にあたるのですよ」
血筋?もしかして母親がバンパイヤだから何かあるのかな?
「普通は魔物のハーフには魔法は使えず、その特徴も、身体的なモノ以外は受け継がれません。
しかし私は母親のチャームの能力が受け継がれてしまいました。
それも中途半端に……。
普通ですと、バンパイヤは視線を合わせると、相手を自由に操れます。
その相手も選ぶ事ができますが、私は視線が合った相手を無差別に……魅了してしまうのです」
「魅了?操るとは違うんですか?」
「そうですね、操るとは好きなように行動を指示する事ができます。
でも私の魅了は……」
説明しづらいのか、口籠るネイさんの後をスイが引き継ぐ。
「ウチ様が動物や魔物の方に囲まれるのと同じ感じですよ」
あ~、フェロモン垂れ流し状態……すごくよくわかる。
しかしそれは辛い。
「あれ?でもスイとは視線合わせるよね?」
スイだから大丈夫なのか?
何だかスイなら大丈夫と言われても、納得出来るけど。
「自分より上位種には効きませんので、スイ様となら視線を合わせられます」
「ドラゴンハーフだもんねぇ」
「後は自分と同等の種の方ですと、影響があったりなかったりですので、ニト様の場合、体調によれば……」
ニトは妖狐の血筋だから上位種になるのかな?
でも、体調によっては魅了にかかるのか。
「隙があるから影響を受けるのですよ」
「スイさんドイヒー」
うん、ニトは隙だらけっぽいね。
「……こんな中途半端な力無ければ良いのに…………」
俯き小さくこぼすネイさん。
「親の血はどう影響するのかわかりませんからね……。
ネイ様の気持ちよくわかります…」
あー、スイもコンプレックス持ってるもんね。
違う種族の血が混じると言うのは色々あるんだなぁ。
「でもさ、ウチなら大丈夫なんじゃない?
何せほぼ不死身なほど祝福が有るんだし」
重くなりかけた空気を全く無視してニトが言う。
何その無責任発言。
「……ありえるかもしれませんね」
あれ?いつもならピシーッて言うスイも同意見?
「今なら狭い場所だし、俺もスイも居るから、試すだけ試してみれば?
視線を合わせられる人が増えるのって良くない?」
おいおいおい、僕の意見は?
「……そうですね、試してみてもよろしいですか?」
視線をずらせたまま聞いてくるけど、これって断れなくないか?
「構いませんよ」
としか言えないでしょ、この流れ。
ネイさんの目を見ていると、失礼しますと一言告げて、ゆるりと視線を合わせる。
「………………」
「…………………………」
「…………………………………………」
「……………」
「なんとか言えよ!」
あ、ニト、突っ込みありがとう。
「なんともありませんか?」
「こう…好きだー!とか、触らせろー!とか思うか?」
暫し考えてみる。
「いや、なんとも」
「抱きつきたいとか、好きにしてとか、無いですか?」
好きに……とか老若男女問わず言われるの?
僕みたいに幼児体形ならまだしも、二十代半ばに見える成人男性に?
女性相手ならまだしも、それ以外だと絵的に無いわ。
「無い無い」
「ほら、大丈夫だったろ?」
なぜかニトがドヤ顔をする。
「良かったですね、これで気を使わずに話せる相手が増えましたよ」
「それにネイの気持ちはウチにはよくわかるだろうしな」
あー、そうね。似たような悩みだよね。
「これから仲良くしてくださいね」
僕が言うと、しっかり視線を合わせて頷きながら微笑んだネイは……うん、もしかしなくても、魅了の力が無くても迫られるのでは無いのか?と思わせる魅力的な微笑みだった。
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