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第三章 異世界の馬車窓から
マキ家の書は
しおりを挟む「そうだ、うちの書を持って来たんだけど、読むだろ」
部屋でのんびりしていると、牧さんがやって来た。
いや、もうお腹いっぱいで読む気無いんだけど……。
大体どんな感じか、話しててわかったから、もういいよ。
声に出さなくでも態度で読みたく無いのがわかったのか、
「まあまあ、うちの書は他の家の書と比べて一風変わった書なんだ。
見るだけでも見てみなよ」
そう言いながら入り口近くに置いていたワゴンを押して中へ入って来た。
ワゴンの上には20冊以上有るだろう冊子が乗っている。
他の家の書は、大体5センチくらいの厚さの辞典っぽかったけど、牧家の書は暑さ1センチくらいで冊数が多い。
「ほう、ユウ様は真面目に書を書いているのですね。
うちの高祖父殿だけですね、書いていないのは」
スイが感心していると、ニトが目を逸らした。
「真面目…ねえ。
スイが見たら怒るかもしれないけど、まあウチ以外には見せちゃダメってわけじゃ無いし、スイも読んでみる?
なかなかの力作だよ」
えー、こんなに沢山の書付を読まなきゃいけないの?
スイも読む気なのに、ここで僕だけ読みたく無いと言えないじゃないか。
諦めて一番上の冊子を手に取る。
【牧 悠の軌跡~全てはモフモフの為に~】
……………………いや、もうこれ読まなくて良くない?
一緒に表紙を見ていたスイの表情も強張る。
半ば嫌々にページを捲ると…中は漫画になっていた。
「え?牧さん漫画描けるの?」
僕の言葉に、ニトは首を振る。
「いや描けないよ。
妖術の無駄遣いだよ」
あー、記録の子と絵の子で、頭に浮かべたものを書き留めてもらってるんだね。
変わった使い方だよな、ある意味妖術の可能性の一つを示したと、言えなくもない……のか?
その漫画は、軽い生い立ちからイベントで倒れてこちらの世界へ喚ばれ、侵略戦争を回避する為、同時に喚ばれた敏和さんと国を回って交渉をした事も描かれていた。
敏和さんが戦争におけるデメリットと、同盟を結ぶメリットを、牧さんが魔物との付き合いで得られる利点を主に受け持っていたそうだ。
真面目で考え過ぎる敏和さんのフォローや、固くなりがちな話し合いで、オタクの知識をフル活用して和ませながらも話の主導権を取ったりと、思いの外活躍したみたい。
どうやらゲームや漫画、小説やアニメの知識が、ファンタジーの世界では大いに役に立ったようだ。
成る程成る程。
漫画なので読み易く、1冊目を読み終えた僕に、スイが聞いてきた。
「すみませんウチ様、これはどうやって読めば宜しいのでしょうか?」
あー、うん、そうね。
四コマ漫画だと上から下へ読めばいいけど、コマ漫画だと、大ゴマが有ったり見開きが有ったり、変形ゴマが有ったりで、読み方がわからないって人、たまーーに居るからね。
しかし説明しようがない。
「基本右上から左へ、右下へ行って最後は左下………、ニュアンスだよ、スイ君」
説明を投げてしまうのも理解して欲しい。
変形ゴマが多いのは初心者に不親切だよ、牧さん。
そんなこんなで2冊目を手に取ったんだけど…………2冊目の途中で書を閉じた。
そして他の書もをパラパラとめくり、そっと閉じてテーブルに置く。
「スイ、その最初の一冊だけ読んだら、後のは読まなくていいと思うよ」
2冊目から後の20冊近くはどうやらモフモフについて力説しているようだ……。
「いや、ここ大事か?
一冊目の内容をもっと詳しく書くべきだろ!」
思わず声を出して突っ込んでしまったのは仕方ないよな。
「ニト、他の人に見せるのは一冊目だけで十分だ。
二冊目以降は内輪用に保管してなさい」
パラ見しただけだけど、種族によるミミや尻尾の形状、手触り感、触られた時の反応などを事細かく記されていた。
真面目な研究……と言うには無理がある。
漫画だし、相手が皆幼女と言うから、逆に禁書指定されてもおかしくない。
兎に角これは公にしちゃあダメだろう。
……特にスイに見せたらどうなるか…………。
早々に戻して来るようにニトに伝えた僕だった。
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