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第三章 異世界の馬車窓から
一旦立て直し
しおりを挟む「あと…周りにいらっしゃる方々は…」
牧さんの周りは十数人の女性が取り囲んで居る。
「皆俺の嫁」
ドヤ顔で言うけど、この国は一夫多妻制なのか?
「じゃあ膝に座って居るのはお孫さんですか?」
椅子に腰かけた牧さんの膝上には、豊かな尻尾をふわさぁ~と広げた狐の魔物の女の子が腰かけて居る。
十歳くらいかな?
「この人は自分の奥さんです」
「え⁈」
いや、どう見ても子供だよね?
僕より少し大きいけど、小学四、五年くらいだよね?
犯罪じゃないか……いや、異世界だからセーフなのか?
いや、でも牧さんって190歳は超えてるよね?
やっぱりどう見てもマズイでしょ、アウトでしょう!
パニックっている僕に、奥さんが挨拶をしてきた。
「こんにちは、マキ・ケモ・ロリです。
お兄ちゃん共々よろしくね」
お兄ちゃん?ってか名前‼︎
「えっと…………ちょっと待っていただけますか?」
ダメだ、一旦離脱して立て直さないと無理だ。
僕はニトとスイの腕を引っ張り部屋を出た。
*****
「ニト君、話を聞かせて貰おうか…色々とね」
「何か有ったか?」
惚けるニトに、スイが重いため息をつく。
「何の説明も無しに面会するのは辞めて欲しいと伝えましたよね?
ウチ様に何も伝えていないのですか?」
「その方が面白……ゲフッ!」
言い終わる前にスイの拳がニトの腹を抉る。
そして僕の方を振り返り、何も無かったようにニッコリ微笑んだ。
「ウチ様、何か気になる事が有れば説明しますよ。
ユウ様に聞くのは疲れるでしょうから」
ハッキリ言うなぁ。
まあその通りなので、思いついた事を聞いてみた。
「この国って一夫多妻……奥さん何人も持てるの?」
「あー、【俺の嫁】ってヤツな、あれ曾祖父さんが言ってたけど、元の世界の言葉で【途轍もなく気に入っている異性】って意味なんだろう?
だから曾祖母さんは【嫁】じゃなくて【奥さん】って言うって言ってたぞ」
……いや、違うだろ。
それとも広い意味ではそうなのか?
「名前が変わってるけど…アレってマキさんが付けたの?」
「ああ、曾祖母さんはずっと名前が無くて、【狐の】って呼ばれてたから、曾祖父さんが名前をつけたんだって。
【ケモ】は豊かな尻尾から、【ロリ】って【この世で最も尊く愛おしい】って意味なんだろ?
んでもって【お兄ちゃん】って【ただ一人の大切な旦那様】って意味って曾祖父さんに教えてもらったよ。
やっぱり世界が違うと言葉も変わるもんなんだな。
変わってて面白いから、教えてもらったそちらの世界の言葉を、この国では普通に使ってるよ」
……いやいやいや、色々違うだろ!皆騙されてるだろ!ヤバイだろ‼︎
大丈夫か、この国!
でもそれよりヤバイのはやっぱり…
「この国って子供を妻に迎えて良いの?
と言うか、曾祖父さん年取らないの?」
そう、十歳くらいの奥さんもヤバイけど、牧さんどう見ても三十代半ばだよ?
「曾祖母さん見た目はあんなだけど、五百歳超えてるから。
初代様の頃から居るから、中身はちゃんと婆さんだよ」
「私も気になって聞いた事が有ります。
うちの高祖父殿とさして変わらない筈なのに、いつまでも見た目が変わらないので。
どうも奥方様の幻影の魔法で、お二人の出会った頃のままの見た目にされて居るそうです」
「ああ、曾祖父さん言ってたな。
『合法F uuuuuu!神モフモフの上に永遠のロリ!尊みが深いわ~』ってね」
………………病んでませんか、彼の方……。
「あの~、スイさん、このまま回れ右で帰ってはいけませんか?」
「そうしたいのは山々ですが、問題が生じるかと思われます」
やっぱり逃げられないか。
「何でだよ~、陽気で楽しい年寄りだぜ、楽しんで行ってくれよ」
ニトが僕の脇の下に手を入れて抱え上げる。
多少のオタ…趣味人の方々には山田さんで慣れたと思ったけど、ちょっと深すぎて……でも逃げられないんだな………。
「それとニト、馬車の中ではプライベートとして言いませんでしたが、言葉遣いを直しなさい」
あー、スイが突っ込まないなって思ってたけど、移動中は仕事じゃないと大目に見てたのか。
「いや、だって公務と言ってもここ俺の曾祖父さんの国だぜ?
身内の前で堅っ苦しく喋るなんて無理だ」
「……プライベートなら見逃しますけど、会見中は公務です。
切り替えて下さい、子供ではないのですから」
スイの言葉に一瞬カチンときたって顔をしてから、
「分かりました。気をつけさせていただきます」
不機嫌な顔のまま言葉だけは丁寧にする。
何だかなぁ、一緒に居る僕も気疲れするから自然体のままで良いと思うんだけどなぁ。
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