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第三章 異世界の馬車窓から

僕だってたまにはちょっとシリアスな話もするよ

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敏和さんとの話は続く。

「しかし元の世界に比べて不便なのは不便だから、差し障りの無い発明はしてるのだけどね。
元々発明や復元が趣味だから、実はちょこちょこと色々作っているのだよ」
「ん?それってもしかして水道とか?」
よくよく考えてみると、熱湯が出る水道って元から有ったはず無いよね。

「そうだね、水道は一般家庭には普及させていないのだけど、汲み上げポンプは各井戸に設置済みだよ。
後は仕事で水を使う所には水道を、城には熱湯が出る様にもしたね。
あれは術式を組み込んだ道具を付けているのだよ。

後は馬車のサスペンションは一番最初に作ったね。
ちょっと乗っただけで腰とお尻が痛くて、歩けなくなったから。

カレンダーはまだ城にしか無いけど、メジャーと一緒に普及させたね。
長さの単位がバラバラだと不都合だし、一年の概念が月蝕だけだったから、この位なら許容範囲かなとね」

一年って概念は有っても、月日は無かったって不便そうだよな。

「色々開発したいけれど、自分の中で一つだけ決めている事が有るのだよ」
敏和さんは身を乗り出して声を潜める。
「兵器に繋がるものは作らない、だね」
「拳銃とかですか?」
「そう言う直接的な物は勿論、例えば核に繋がるものや、完全密閉できる容器、スプレー缶なども使い方次第で危ないからね。

歯車を高速回転させられる様な物など、有れば便利でも使い所を悪用すれば危ない物は、この世界の人達が考え出したなら仕方ない事かもしれないけれど、私達が持ち込んではいけない物だと思うからね」

おお、見た目も相まって、大学の講義を受けている様だ。
前回会ったのが秋彦さんだからギャップが…。

「マキ君などは『不便だからもっと色々開発すべきだ』と言っていたけれど、きちんと説明して納得してもらったのだよ。
聞けば君もマキ君と同じ時代から来そうなので、君の考えを聞かせて欲しかったので、いきなり質問して悪かったね」

「別に気にしていませんよ。
僕はファンタジー小説など少ししか読んだ事ないので、異世界がどう言うものとか分からないので、在るが儘普通に受け入れていました。
無知でお恥ずかしい」

水道とか普通に有る物だと思っていたし、もしかして水洗トイレなども元は無かったのかな。

「しかしサジ加減など大変なのではないですか?」
だって言われてみれば、密閉できる容器なんて、危険物入れて投げると……確かに怖い。
「それと、作る前に色々考えると、逆に何も作れなくなるのではないですか?」
素朴な疑問だ。

「そうだね、実際作ってみてからこの世界の技術などと照らし合わせて、大丈夫かそうでないかを考えているのだよ」
ん?実際作ってみて?

「家ではネジが私の血を濃く引いたのか、発明が好きでね。
国王の許可を頂き町外れに工房を構えているのだよ。
そこで二人で色々開発して、私がそれを見極めてから、世に出すか処分するかを決めているのだよ。
ある程度纏めて分解して、物によっては燃やしたり、埋めたり。

今回は君がどう言った人物かわからないから、家に置いていた物を工房へ運んだり、廃棄物を纏めて処分したりしていたから、最初の予定からズレたのだよ」

もしかして、昨日家の中をウロつかせたくなかったのって、開発品の隠し漏れなどが有ったらヤバイからとかかな。

「実際会って会話をしてみないと、人ってわからないからね。
気を悪くしたなら申し訳無い」
敏和さんは頭を下げるけど、そんな必要無いと思う。

会った事もない奴をいきなり信じるとか、現実問題としてナイだろ。
そんな綺麗事言ってる奴は逆に信じられない、なんて思う僕は穿った考え方をしてるのかな。

「便利さを求めるのはいい事だと思うけど、過ぎたるは及ばざるが如し、ですよね。
僕達の世界の知識をそのままこの世界へ持って来るのは危ないと思いますから、キシさんの考えは正しい事だと思いますよ」

僕の言葉に敏和さんはフフフと笑う。
「この国の人は皆穏やかだし、どう言った経緯でこの世界へと招かれるのかは知らないけど、召喚された人も、個性豊かなのに皆常識的な人で助かるね」

そうだよね、普通に考えると、権力主義者や金の亡者とか、ワイロや談合が有ったり、揚げ足取りに足を引っ張る輩(やから)などは一定数居そうだけど、この国って性質的に悪人って居ない様な……僕が出会ってないだけなのか?

ちょっと疑問に思いつつ、敏和さんとの会話は二つの世界なあるあるネタに移行し、楽しい時間を過ごした。





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