65 / 161
第三章 異世界の馬車窓から
僕だってたまにはちょっとシリアスな話もするよ
しおりを挟む敏和さんとの話は続く。
「しかし元の世界に比べて不便なのは不便だから、差し障りの無い発明はしてるのだけどね。
元々発明や復元が趣味だから、実はちょこちょこと色々作っているのだよ」
「ん?それってもしかして水道とか?」
よくよく考えてみると、熱湯が出る水道って元から有ったはず無いよね。
「そうだね、水道は一般家庭には普及させていないのだけど、汲み上げポンプは各井戸に設置済みだよ。
後は仕事で水を使う所には水道を、城には熱湯が出る様にもしたね。
あれは術式を組み込んだ道具を付けているのだよ。
後は馬車のサスペンションは一番最初に作ったね。
ちょっと乗っただけで腰とお尻が痛くて、歩けなくなったから。
カレンダーはまだ城にしか無いけど、メジャーと一緒に普及させたね。
長さの単位がバラバラだと不都合だし、一年の概念が月蝕だけだったから、この位なら許容範囲かなとね」
一年って概念は有っても、月日は無かったって不便そうだよな。
「色々開発したいけれど、自分の中で一つだけ決めている事が有るのだよ」
敏和さんは身を乗り出して声を潜める。
「兵器に繋がるものは作らない、だね」
「拳銃とかですか?」
「そう言う直接的な物は勿論、例えば核に繋がるものや、完全密閉できる容器、スプレー缶なども使い方次第で危ないからね。
歯車を高速回転させられる様な物など、有れば便利でも使い所を悪用すれば危ない物は、この世界の人達が考え出したなら仕方ない事かもしれないけれど、私達が持ち込んではいけない物だと思うからね」
おお、見た目も相まって、大学の講義を受けている様だ。
前回会ったのが秋彦さんだからギャップが…。
「マキ君などは『不便だからもっと色々開発すべきだ』と言っていたけれど、きちんと説明して納得してもらったのだよ。
聞けば君もマキ君と同じ時代から来そうなので、君の考えを聞かせて欲しかったので、いきなり質問して悪かったね」
「別に気にしていませんよ。
僕はファンタジー小説など少ししか読んだ事ないので、異世界がどう言うものとか分からないので、在るが儘普通に受け入れていました。
無知でお恥ずかしい」
水道とか普通に有る物だと思っていたし、もしかして水洗トイレなども元は無かったのかな。
「しかしサジ加減など大変なのではないですか?」
だって言われてみれば、密閉できる容器なんて、危険物入れて投げると……確かに怖い。
「それと、作る前に色々考えると、逆に何も作れなくなるのではないですか?」
素朴な疑問だ。
「そうだね、実際作ってみてからこの世界の技術などと照らし合わせて、大丈夫かそうでないかを考えているのだよ」
ん?実際作ってみて?
「家ではネジが私の血を濃く引いたのか、発明が好きでね。
国王の許可を頂き町外れに工房を構えているのだよ。
そこで二人で色々開発して、私がそれを見極めてから、世に出すか処分するかを決めているのだよ。
ある程度纏めて分解して、物によっては燃やしたり、埋めたり。
今回は君がどう言った人物かわからないから、家に置いていた物を工房へ運んだり、廃棄物を纏めて処分したりしていたから、最初の予定からズレたのだよ」
もしかして、昨日家の中をウロつかせたくなかったのって、開発品の隠し漏れなどが有ったらヤバイからとかかな。
「実際会って会話をしてみないと、人ってわからないからね。
気を悪くしたなら申し訳無い」
敏和さんは頭を下げるけど、そんな必要無いと思う。
会った事もない奴をいきなり信じるとか、現実問題としてナイだろ。
そんな綺麗事言ってる奴は逆に信じられない、なんて思う僕は穿った考え方をしてるのかな。
「便利さを求めるのはいい事だと思うけど、過ぎたるは及ばざるが如し、ですよね。
僕達の世界の知識をそのままこの世界へ持って来るのは危ないと思いますから、キシさんの考えは正しい事だと思いますよ」
僕の言葉に敏和さんはフフフと笑う。
「この国の人は皆穏やかだし、どう言った経緯でこの世界へと招かれるのかは知らないけど、召喚された人も、個性豊かなのに皆常識的な人で助かるね」
そうだよね、普通に考えると、権力主義者や金の亡者とか、ワイロや談合が有ったり、揚げ足取りに足を引っ張る輩(やから)などは一定数居そうだけど、この国って性質的に悪人って居ない様な……僕が出会ってないだけなのか?
ちょっと疑問に思いつつ、敏和さんとの会話は二つの世界なあるあるネタに移行し、楽しい時間を過ごした。
1
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説


【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

嫌われ者の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。
家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。
なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる