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第三章 異世界の馬車窓から

敏和さんの話

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翌日の朝食にもエミさんは顔を出してくれた。

「お家は大丈夫なのですか?」
「子供が気を使わなくても良いのよ。
夫とはこれから長い時間一緒に居るのだから、ちょっとの時間を実家の為に使うのなんて、問題なんか無いから気にしないで」
明るくて良い人だ。

エミさんが未婚で、僕がこんな姿で無ければ…などと、ちょっと考えてしまった。


*****


朝食後、暫くしてネジさんが呼びにきた。
キシ家の初代、召喚された人が帰宅した様だ。

案内された応接室へ行くと、一人の老人が居た。
この人が召喚されたキシさんか。

僕が部屋に入りスイが扉を閉めると、座っていたソファーから立ち上がり、近寄って来て右手を差し出してきたので、握手する。

「こんにちは、お待たせした様で失礼しました。
岸 敏和です、よろしく」
「東堂内 柊一郎です。こちらではウチと呼ばれています」

第一印象は大学教授って感じの岸さん。
真面目そうで温和な笑顔だけど、目が笑ってない。

「ところで君に聞いてみたい事が有るのだけれど、良いかな」
敏和さんが僕の耳元へ顔を近づけて、小声で言う。
「この世界に科学技術を持ち込む事を、君はどう思われますか?」

ん?どう言う意味だ?

この世界は電気やガスが無くても、妖術で色々出来るから、そんなに不便感じ無いんだけど。
水道やお風呂も有るし、電話やカメラ代わりの妖精も居るし、逆に電気要らずのエコだと思う。

移動も馬車だけど、思った程揺れないし、馬車の中って広くて中でお茶ができるくらいたし、そんなに遠くまで行った事ないから気になんないだけかもしれないけと、情緒が有って良いと思う。

テレビは元々あまり見ないし、んー……強いて言うなら本が読みたいってくらいかな。

別に科学が発展してないからって、僕は言う程不便さは感じ無いんだけど。

「別にこの世界はこの世界で問題ないと思うから、わざわざ科学を発展させなくても良いかと思います」
そう思ったから、思ったままに告げると、敏和さんはニッコリ笑って頷いた。

「そう答えてくれて嬉しいよ。
キシ家は君を歓迎しよう」
何だろう、今の質問に何か含みが有ったのかな?


*****


出来れば二人で話したいと言われ、スイには部屋を出て貰い、敏和さんと二人での話となった。

彼は190年前の、他国からの侵略を阻止する為に召喚されたらしい。

ただ、戦いで決着を付けることは、お互いに遺恨を残すので、武力ではなく、同じ人として話し合いで和睦をしたいと言うのがこの国の方針の為、交渉で侵略を止めた英雄が彼と、同時に喚(よ)ばれたマキさんと言う事だ。

敏和さんは23世紀の歴史学者であり、発明家だそうで、発掘した過去の技術品を修復したりする事を、ライフワークとしていたそうだ。

23世紀の日本は……うん、まあ聞きたくなかった。
旧首都などで発掘した21世紀の色々な物を復元したり、それらを元に新たな日用品を作ったりするのが趣味だったとか。

「この国の方針が気に入ったので、尽力したのだよ。
最初は私達の世界の兵力を求められているのかと訝しんだのだけれどね。
歴史書で読んだ中世世代程のこの世界で、私が知るような兵器を投入すれば、戦いは一方的な蹂躙劇となっただろう。
それに元々この国には魔物や妖精が居るのだから、他の国に負ける要素が無い。
だがそれでも話し合いを求める国王が、私は気に入ったのだよ」

そうだろうな、妖術や魔法を使えば、負ける訳無いだろうに、敢えて話し合いでと言う王様って、信頼できると思う。

だって根こそぎ滅ぼす訳じゃ無いんだから、その後の事を考えると、交渉で収めるのが一番だろう。

甘いかもしれないけれど、負けた方は傷も恨みも残るのだから、それがまた新たな戦いを呼ぶ、なんて事になれば、それこそ……だよね。





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