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第三章 異世界の馬車窓から
土岐家の人って
しおりを挟む「そうだ!歓迎会をしよう!
久々に腕振るっちゃうぞ~」
と、事務所を出て行った秋彦さん。
ヤシさんも、
「あ、そうだ、スイスイにお土産が有ったんだ」
と続いて退室。
静かになった事務所の中に残された僕達は、重いため息を吐いてしまった。
「…………何と言うか…独特なノリの方達ですよね?」
僕が言うと、ガックリと肩を落としたズルさんが、
「うちの家では一家に一人は爺さんの血が濃いのが居るんですよ」
ドユコト?と首を傾げると、隣のスイからカミングアウトが始まった。
「うちの叔母のミキさんは見ての通りの真面目な方です」
ミキさんが「普通ですよ」と笑う。
「しかし父がアレです。
大体仕事からして、旅人なのですよ」
え?職業旅人?この世界ってそんな仕事が有るんだ。
「そしてうちの妹は踊り子で、今は隣の国で踊ってるわ」
ランさんが言うと、デカさんが、
「次男が吟遊詩人でどこにいるか分からない」
頭を振りながら言う。
「チビの家は末っ子が引き篭もりのニートで、その親で俺の弟のチビは失踪中……」
書いてくれた家系図を指差しながら説明してくれる。
見事に一家に一人はマトモじゃ……特殊な職業の方が居るようだ。
「でもスイの世代は皆まともな子達だから良かったわよ」
「本当よね、これでこの呪いが延々と続くなんて冗談じゃないからね」
ミキさんとランさんの言葉だけど、これは何とフォローするべきか…。
「刺激的なご家庭ですね」
頑張って言葉を探してみたら、女性二人が近寄って来て、ソファーの横と後ろから抱きしめられてしまった。
「スイちゃん、この子良い子ね~」
「こんなにちっちゃいのに気を使ってくれちゃって」
うわ……ちょっとお姉さん方、おっぱ……豊満で柔らかくも弾力のある物が四方から……。
「叔母様方、子供扱いは失礼ですよ、ウチ様は三十を超えた大人の男性なのですから」
おぶおぶしている僕のフォローをしてくれるけど、止まったのは一瞬。
「まぁ~若いわねぇ」
「こんなオバちゃんにくっつかれても嬉しく無いでしょうね~」
二人はキャッキャしながら離してくれない。
「いえ…お二人ともスイと変わらない見た目ですから、少し困ってます」
正直に言うと、
「あらあら、上手いわね~~」
と、余計揉みくちゃにされてしまった。
正直に言えばいいと言うもんじゃ無いんだね。
ズルさんが止めてくれるまでおもちゃにされてしまった。
*****
夕食は歓迎会で、秋彦さんがご馳走してくれるそうなので、それまでの時間潰しに他の店も回ってみることにした。
食材の店は見た事ある物、見知らぬ物、ヤギさん家の畑で見た野菜や、現物そのままの動物や魔獣の肉(死体と呼びたい)。
それらを呼び込む人、購入を悩む人、値切り交渉する人、購入品を荷車に積む人、売れた品を補充する人、会計をする人などで、なんとも賑やかだ。
しかも小売店の仕入れの人達だろう大量買の人の多い事。
一種類の品で小型とは言え荷車は満杯だ。
テレビで見た朝市とか卸市場とか、そんな雰囲気だね。
しかし活気があり過ぎて、幼児が一人で歩くのは危険だ。
スイがしっかり手を繋いでくれてるから良いけど、これがスイ以外なら、問答無用で抱っこ一択だろうなぁ。
加工品スペースは誘惑の場所だ。
菓子類はあまり食べない僕でも、揚げ菓子を揚げる音、出来立ての匂い、それらを食べる人々の笑顔と、視覚、聴覚、嗅覚に訴えられると、店先に足が向かってしまう。
「何か食べられますか?」
のスイの言葉に、思わず「全部味見したい!」と口にしそうになったけど、胃の容量的にも無理だし、スイがそれを許可する訳ないのは分かっているので、普段なら絶対に食べないような揚げ菓子を買ってもらった。
食べてみると、昔ながらのドーナツをツイスト仕様にして揚げて、砂糖をまぶした素朴な感じの、甘いけど腹に溜まる菓子だ。
ニコニコ顔で食べ終わった後、スイが濡らして来たハンカチで、口の周りと手を拭いてくれた。
う~ん、子供扱い。
それを見る周囲の視線?そんなのは気にしなきゃ見られて無いのと一緒だよね。
衣類や家具や嗜好品、装飾品はあまり興味が無いので、ザッと見ただけ。
輸入品は「何じゃこれは」的な物も多く、楽しかった。
一番心踊ったのはやはり金物屋の辺り。
農具はヤギ家に行った時に触らせてもらったりしたから、それなりに楽しかった。
工具は日曜大工やった事無くても、男性としては興味惹かれるものがある。
でもやっぱり一番ワクワクするのは武器、防具屋でしょう。
「使う訳じゃ無いし、使った事もないけど、やっぱりカッコよく感じるよね」
僕が直接手にするのは危ないので、スイが目の前で剣を掲げてくれる。
やっぱり武器や防具ってのは男として、と言うより男の子心を惹きつけるものがあると思う。
西洋風のフルアーマーやロングソード、戰斧に弓や槍も良いけど、やっぱり日本刀!
カッコイ~~イ!持ちた~~い!振ってみた~~い!!
でも無理だわ、僕の身長と同じくらいの長さがあるもの……。
太刀とは言わない、脇差……いや、小刀や懐剣でもいい!
日本刀をガン見している僕の背後から、
「危ないからダメですよ」
と冷ややかな声が……。
デスヨネ~。
今は無理でも、もう少し身長伸びたら手に入れてやる!
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