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第三章 異世界の馬車窓から

もしかして僕はニトのオモチャかな?な日常

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五日間ってこんなに短かったか?って思うほどに、滞在期日はあっと言う間に過ぎてしまった。
楽しく充実した日々だった。

一緒に来ていたスイは、国に提出する書類などを手伝わされていたけど、
「なぜこんなにどんぶり勘定なんですか?
今までの収穫量や出荷量の正確な数値を記しているものは無いのですか?」
などと頭を抱えながらも、楽しそうに手伝っていた。

うん、生き生きと楽しそうに見えたよ。
ヤギ家の事務的な仕事をしている人は、なんだか大変そうだったけどね。

このままここに居たいけど、先の予定が決まっているので、戻らない訳にはいかない。
ヤギ家の人達にも随分と引き止められながらも、僕は馬車に乗り込んだ。


「随分ヤギ家が気に入られた様ですね」
馬車の中でお茶を淹れながらスイが聞いてくる。
いつも思うけど、動く馬車の中で一滴もこぼさないって器用だよね。

「そうだねぇ、何だか田舎の祖父の家って雰囲気で、日本に居る様な気持ちになる場所だったから」
まぁ、ケモミミとか、見たことの無い作物や、地球には居ない動物とかは居たけど。

「それでは各家を廻った後に、ここで暮らす事を考えても良いかもしれませんね」
「そうだねぇ」
手渡されたお茶を飲みながら、まったりとした気分で答える。

「でも次はスイの家だから、ちょっと楽しみなんだけど」
顔を見ながら告げると、スイが一瞬だけど嫌な顔をした。

「城に着くまで寝ていらして結構ですよ」
話を逸らされたけど、敢えて進言通り、到着まで寝ることにした。


*****


「タタンジュの布教してるんだって?」

スイが報告で居ない隙を狙った様に、ニトがニヤニヤ笑いながら部屋に入って来る。

「布教って……」
「いや、だって毒の有る魔獣をペットに出来るって、ウチが証明したんだろ?
しかもそうやって首に巻いて連れ歩いてるって、立派な布教だろ」

うむむむ……言われてみれば、【魔獣と会話が出来る妖精と会話が出来る僕】が居てこそなんだろうし、町から離れた場所で毒採取の為に飼う以外、普通に家で一緒に暮らすことが出来るなんて、今まで思ってもいなかっただろう人からすれば、規格外な事なのかな?

「でもこの【魅惑のツルスベ】は触れたら最後、って感じだよ。
そう言えばニト触った事無いよね?
触ってみなよ」
ニトに近づいて行くと「どれどれ」と手を伸ばして来る。

「………………」

「おお~、気持ち良いな~」

「…………………………」

「ず~っと触っていたいよな」

「…………………………………………」

「よし!抱っこもしよう!」

「………………ニトさん、僕じゃなくて熊沢さんを触るかって聞いたって、分かってやっていますよね?」

ニトにプニプニムニムニ揉みくちゃにされながら、ジト目で見つめる。

「いや~悪い悪い。
魔獣なんかよりウチを触りたいって気持ちが行動に出てたな」
ちっとも悪くなさそうに、と言うより絶対確信犯なプニムニだっただろ。

今度はちゃんと熊沢さんを触るニト。
「おっ?成る程、これはこれで良いなぁ。
本当にスベスベでツルツルしてるな」
「でしょ?
シルクの手触りと言うか、ベルベットの様と言うか、癖になる触り心地でしょ?」

思わずドヤ顔になっていた僕の頭を再度撫でながら、
「それでも俺はこっちの方が良いな~」
と、またナデナデし始める。

…………うん、まあ熊沢さんの魅惑のツルスベに勝ったと思っておこう………。

「んで?次はスイの家に行くんだよね?」

ひとしきり僕を撫で回して満足したニトは、ソファーに腰を下ろして僕を膝抱っこする……。
もう突っ込む気力も有りません…。

「そうだって聞いてるよ」
「スイの爺さんには会った事有るんだよな」
財務大臣とは何度も顔は合わせてはいる。
挨拶は何度もしたけど、個人的な会話はした覚え無いな。

「親父さんや親戚の話は聞いてるか?」
「いや、聞いた事無いな。
そんな話は出た事有るけど、はぐらかされた?感じかな」
薄っすら会話に出てきても、ハッキリ聞いた事は…無いよな?

正直なところ、沢山の人に会い過ぎてうろ覚えだったりする…。
でもそれって仕方ないよね?

ニトは思わせぶりな笑顔で、
「楽しみにしてると良いよ~」
と、意味深に言うけど、どんな人なんだろうな。
まぁ、すぐに分かるから流しておこう。
ここで過剰に不安がったりするとニトを喜ばせるだけだからな。





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