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第三章 異世界の馬車窓から

ヤギ家への同行者

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翌朝、朝食の後中庭で、ニヤ達と術で遊びながら時間を過ごした。
とりあえず紐代わりのリボンで繋いだ熊澤さんは、僕の首に巻き付いて、お供はスイだ。

「そう言えばちょっと思ったんだけど、英雄家系廻ってるのって順番どう決めてるの?」

先日倒してしまった木がキチンと元通りになっているか確認しながら、スイに聞いてみる。

「そうですね、訪ねて行って不在だと、意味がありませんから、先方の都合に合わせていると言えます」
「まあ皆仕事したりしてるからねぇ」
「ユゲ家は丁度出先から戻って来られた所でしたし、フジ家は年中ああ言った感じですので…………アレが居ないのを狙って行ったのに」
後半小声で言ったけど、隣にいるから聞こえたよ。

「ヤギ家へは丁度農林大臣が帰宅なされるので、それに合わせました」
「え?大臣と一緒に行くの?」
うわー、何だか気を使いそうで嫌なだなあ。

「おやおや、そう気を張られる事は有りませんよ。
その次は私の家へ、その後にキシ家、マキ家、トモ家、オダ家の順に廻る予定です」
成る程成る程……あれ、確かマキ家って…

「マキ家ってニトさん家?」
「そうですね。
場所が遠くに有るマキ家へ行き、その帰りにトモ家とオダ家へ向かいます。
マキ家へはニトも同行させます」
あ、『します』じゃなくて『させます』なんだ。

……ニトさんご愁傷様。

「オダ家とトモ家は近い場所に住まわれてるんですか?」
「トモ家はオダ家の領地に住まわれています。
同じ場所から来られたお二人は、元々主従関係だったそうですよ。
確かオニワバンとか言うそうです」

うーむ、もうここまで来たら目を逸らす方が不自然だよなぁ。
オダってやっぱり織田だよなぁ……あ、庭師さんだ。

「こんにちは、先日は本当に失礼しました。
木の調子はいかがでしょうか」
「あー、どうもどうも。
大丈夫ですよ、あれから注意していましたけど、不都合も無く、逆に他の場所の木より生き生きしてますよ」
麦わら帽子を被って首にタオルを巻いた、人の良さそうなお爺さんは、幹に触れながら笑顔で答えてくれる。

「術は使ってみないと分からないし、何でも練習しないと上達しないからね。
術の練習頑張ってね」
「はい、周りに気を付けて練習頑張ります」
それで良いんだよ、と頭をポンポンされた。
何だか癒されるお爺さんだ。


「ってフラグかよ!」


翌日、僕達より先に馬車に乗り込んでいた同行者は、農林大臣こと庭師のお爺さんだ。


*****


「大臣って言っても殆どが名誉職みたいな物なんだよ。
英雄として呼び出したからには、その子孫達も一般人と言うのもなんだからって、その時の王様が言い出してね。
中には領地を貰って独立した人も居るんだよ」

庭師のお爺さん改め、農林大臣は相変わらずの人の良さそうな笑みを浮かべながらそう言うけど、大臣どころでは無かったんだよね。

「改めてって言うのも何だけど、名乗ってないよね。
八木 八兵衛です。
後(のち)で言うところの江戸時代から呼ばれました」

え⁈ちょっと待って!
って事はつまり……、

「召喚されたご本人ですか?
子孫とかでは無く?」

「そうですね、妖精達のおかげで長生きしています」
髪の毛完全に白髪だから、跡取りでもない、普通の子孫の人だと思ってたよ。

「まぁそろそろお迎えも来そうですけどね。
しかも息子もそろそろなんですよ」
え?これ突っ込んで良いの?
そろそろ寿命って事だよね?

「ワシは祝福二つだったけど、息子は一つだったから、一緒に逝けそうですよ。
連れ合いも先に待ってるから、息子と一緒に黄泉への旅路もオツなもんですよね」

……えー、癒し系で人が良さそうなのに、案外ブラック?
ジョークが笑えない。

「息子さんは今から行く所にいらっしゃるのですか?」
「ええ、そうですね。
畑をみてくれてますよ。
城の方の仕事は孫が継ぎますから。
ほら、木が倒れた時一番初めに駆けつけた色黒のヒョロっとした奴、覚えていませんか?」

んー……あ、そう言えばめちゃくちゃオロオロしている背の高い男が居たような。

「土いじりしているのにちっとも逞しくならないんですよね。
でも仕事は丁寧ですし、人を使うのが上手いので、任せても良いかなと思っているんですよ」
ジジバカですけどね、と笑う。

「仕事は一人でやるものでは無いですからね。
人を上手く使う事は大切だと思いますよ」
僕が言うと、また頭をポンポンとされた。

「うちの家までまだまだ遠いですから、暇つぶしにでもワシの話を聞きますか?
坊やは家を廻って召喚された人の書き付けを読んでいるんだよね」

坊や……まぁ、190年以上生きてる人からすれば、坊やだよな。

「それじゃあお言葉に甘えて良いですか?」
僕が言うと、
「まぁさして面白い話でも無いと思うけど、良い時間潰しにはなるからね」

そうして八兵衛さんの話が始まった。





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