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第三章 異世界の馬車窓から
フジ家のビッグフット?
しおりを挟むマルチーズ擬きを保護した僕は、音の子を呼んでスイに連絡を取った。
「スイさんごめんなさい。
後でちゃんと謝るから、音の子に付いてきて下さい」
声に焦りが出てたのか、分かりましたと答えたスイは、本当にすぐに来てくれた。
グルグル回ってただけで、案外近くに居たみたいだね。
「あの、この子怪我しているんだけど、この辺りに動物を診てくれる医者は居ないですか?」
言いながら上着に包んだマルチーズ擬きをスイに見えるように掲げると、スイと後ろに居る護衛が息を飲んだ。
「ウチ様、その獣から手を離して下さい」
スイが強張った表情で告げてくる。
「いや、でもこの子脚に怪我してるから」
僕が反論しても硬い表情のまま、
「危ないですから獣を下ろしてそっとこちらへ来てください」
と譲らない。
後ろの護衛も黙って頷き、腰の剣に手をやる。
え?この子斬るつもり?
冗談じゃないよ!
「全然危なくないから!大人しい子だから剣から手を離して下さい!」
上着毎マルチーズ擬きをぎゅっと抱き込むと、小さく息を吸ったスイが、控える様にと護衛を下がらせた。
剣から手を離した護衛は3メートル程後ろに下がってくれた。
これですぐに斬りかかっては来れないよな。
スイはこちらに向き直り、
「いいですかウチ様、その獣は【タタンジュ】と言います。
小さいけれど魔獣で、牙には即効性の強い神経毒が有ります。
見た目は小さく可愛いでしょうけど肉食で、自分より大きな動物も、毒で弱らせて爪で切り裂き食べます。
勿論人間でも軽く噛まれただけで倒れます」
へー、肉食なんだ。
毒を持ってるのは想定内だったよねと、慌てない僕を見て、スイの表情が厳しくなる。
「聞いてらっしゃいますか?
危険な毒を持っているのですよ、早くその獣を離して下さい」
のほほんとしている僕に、スイの声はだんだんイラっとしてきた。
「大丈夫だって、なー」
言いながら首を傾げて小さな頭に頬ずりをする。
マルチーズ擬き……タタンジュはお返しとばかりに頰を舐めた。
「そんなバカな……」
「タタンジュは人に慣れない魔獣だろ?」
離れた場所で護衛さん達がざわざわしているけど、気にしない。
「それよりこの子怪我してるんだって。
お医者さんに連れてって」
重ねて言うと、イマイチ納得出来ないと言う顔をしているけど、
「……ではこちらへ………」
と、スイが歩き出す。
護衛さん達も小声でボソボソ言いながらも、後から付いてくる。
辿り着いたのは、元の目的地のフジ家(け)だ。
フジ家は医者の家系で、親族で様々な医療行為をしているとの事。
そこで家畜も診てくれると言うので、魔獣でも診てくれるのではないかとスイが言う。
「すみませーん」
僕がドアを開け、中に声をかけると、
「ああ、患者さんかね。
今ちょっとバタついてるけど、急患かね?」
ビックフッド?
デカくてゴツくて、髭と前髪で顔が隠れてるうえに、髪も着ている服もこげ茶なので、パッと見た目が有名なUMAだ。
「あの、動物も診てくれると聞いたのですけど」
僕が聞くと、こちらをちらりと見る……前髪で目が見えないけど、見えてるのかな?
「そ、そいつは!」
デカイ図体に似合わず、身軽に駆け寄って来たけど、近くで見ると一層デカイよ、2メートル以上は確実にあるよね。
上着に包まれたタタンジュを見て、建物中に響き渡る位の大声で叫ぶ。
「居たぞー!!!!」
近くに居たから耳が痛い……。
大声を聞きつけた人達がわらわらと集まって来た。
「居たか!」
「何処に居たの?」
「見つかったか!」
どうやら立て込んでるって言うのはこの子を探して居たのかな?
僕の疑問をスイが問う。
「取り込んでいるとの事でしたが、もしかしてこの魔獣が逃げ出したのを探していたのですか?」
「ああそうだ。
タタンジュはな、牙毒が有るだろ?
その毒はやり方次第で薬になるんだ。
だからここで飼育しようと思うんだな」
スイの表情が怖い。
「毒を持つ魔獣を飼育する場合は届出が必要です。
フジ家からの届出は無かったと思われますが?」
その言葉にビックフッド……もとい、フジ家の男性は「あ、ヤベッ!」って顔をした……のか?
顔は見えないけどそんな雰囲気だ。
「……無許可、ですよね」
ゆっくりと確認すると、
「いや、二日前に家に来たばかりで、これから手続きするところだったんだ。な!」
後ろに居る人々に同意を求めると、後ろの人達はうんうんと頷く。
「……まあ皆さんは忙しいですし、今回は被害も出ていないようですから、良しとしましょう。
但し報告はさせていただきます」
「あ~仕方ないよな、それがアンタの仕事なんだから」
「届出は至急、今からお願いします」
言葉は『お願い』でも響は『すぐやれよ!』だよね。
後ろの人達震えてるし。
「おーい、誰か手続き頼む~」
大男が声をかけると、僕が、俺がと我先に奥へ引っ込む。
きっとこの場から……スイから逃げたかったんだね。
気持ちはわかるよ、うん。
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