【完結】英雄召喚されたのに色々問題発生です【改訂版】

七地潮

文字の大きさ
上 下
39 / 161
第三章 異世界の馬車窓から

迷子の出会い

しおりを挟む

さて、困ったぞ。
今現在三つの事で困っている。

困っている事その一、城下町にて、只今絶賛迷子中。

困っている事その二、迷い込んだ裏道で、怪我をした小動物を発見。

困っている事その三、どうもその小動物が、毒を持っていそうな見た目で手助けを躊躇してしまう。

さて、どうしたもんか。


*****


まずは迷子なんだけど、今日から城下町のフジ家へ行く事になっているのだが、到着してみると取り込んでいて、少し待って欲しいとの事。

なので町に出たついでにと、スイに色々案内してもらっていたところ、囲まれてしまったんだ。

何にって、女性にスイが!

綺麗な娘さんから、可愛い女の子、艶っぽい女性まで、どんどん集まって来て、弾き出された僕は、
「この辺ウロウロしてるね」
と声をかけてその場を離れた。

「お待ち下さい」
と引き止める声は聞こえたけど、護衛の騎士さんもいる事だし、高い建物の無いこの町では、どの場所からでも城が見えるから、いざとなったら城へ戻れば良いやと呑気に構えていた。

時刻は昼時、1メートルちょっとの身長の僕は、護衛の騎士さん達から見失われてしまっていた……。

でもあまり気にせずに、城へ向かって歩いていたんだけど、どこで間違えたのか行き止まりの袋小路に入ってしまう。

引き返して戻ったつもりが、人の家の庭に入り込んでいたり、突き当たったら川だったり、そうこうしているうちに城は(僕の身長では)見えなくなり、人に道を聞こうにも、いつの間にか人通りのない裏道に入り込んだようだった。

……まあ、いざとなれば妖精の力を借りれば良いんだけど、何が一番困ったかって……絶対スイに怒られる事だよな。


そしてウロウロしていたら、道の隅で蹲っている毛玉を見つけた。

最初は落し物の縫いぐるみかと思ったんだ。
だって派手なオレンジ色しているから。

でも微妙に動いているように見えて、近づいてみると毛玉が動いた。
立ち上がっただろう(毛が長くて足が見えないけど立ったと思う)その毛玉は毛の長い小型犬……マルチーズっぽい。
でも違う点がいくつか。
目が細く、柄なんだろうけど、眉毛が有る。
その上鳴き声が、

『ピヨピヨピヨ』

ひよこかよ。
さらにその脚はどう見ても爬虫類系の形態だ。
爪も鋭い。
それから毛色も犬ではあり得ない色だ。

細い目で困ったようなハの字眉、その情けな……ゴホン、気の弱そうな……いや、気の良さそうな顔を見て僕の口から出たのは、

「熊澤さん」

以前の職場で、園長の下で働いていた五十代の男性職員の顔が脳裏に浮かぶ。

何時も身勝……大らかな園長の尻ぬぐ………フォローと、ワガマ……自由奔放なバイトの間に入って、困った顔をしつつも、怒る事も声を荒げる事もなく、仕事が円滑に行えるように頑張っていた先輩が思い出された。

胃を悪くして何度も入院していたよなぁ、熊澤さん大丈夫かなぁ。
などと思い出しながら、その生き物を見ていて気付いた。

「お前怪我してるのか?」

僕の方を気にしながら、しきりに舐めている後脚に血が滲んでいる。

これは保護した方が良いんだろうけど、僕が近づけない理由が、もしあの脚が表すように、この生き物が爬虫類だとすると、色が問題ある気がするんだよね。

その生き物はとても鮮やかなオレンジ色で、ミミや脚先が黒の派手な色合いなんだ。
確か爬虫類などで派手な色合いって、警告色な場合が多かった気がする。

もしあの鋭い爪に毒なんか有ったら、その爪で引っ掻かれたら目も当てられない。

しかも相手は手負いの獣なのだ。
小動物とは言えど、身長1メートルちょっとの僕からしたら、全長50センチはありそうなその生き物は、かなり大きく感じる。

さてさて、どうしたもんかな。

暫く考えたけど、やはりこのまま放って置く訳にもいかず、
「いいか、今から抱っこするけど、危害は与えないから大人しくしてくれ。
怪我をしているから、怪我を治してくれる人を探して連れて行ってあげるから。
絶対助けてあげるから、大人しくしてくれよ」

穏やかな声を心がけて、話しながらゆっくり近く。
相手はじっと僕の方を見ているが、警戒している様子は無いようだ。
目の前まで行ってもじっとしているので、しゃがんで顔の前に下から手を出す。

するとマルチーズ擬きは鼻先を近づけ、ペロリと指を舐めてきた。
どうやら大丈夫な様だ。

やっぱりこれって僕の体質のおかげだよな、など考えながら、上着を脱ぎ、そっとマルチーズ擬きを包み込み抱き上げた。
腕の中でその子は僕の顎をペロペロ舐める。
懐かれたかな?

よし、スイを探して獣医さんの所へ連れて行ってもらおう。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

嫌われ者の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。 家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。 なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...