37 / 161
第三章 異世界の馬車窓から
弓削家の書
しおりを挟む昼食は、レニさんは仕事が押してしまい、戻って来れなかったので、レンさんとナチ、それから次男さんと五男さんの五人でとなった。
「初めまして、ユゲ・リキ・テムです。
国の外れに有る町の代表をやっています」
見た目三十半ばくらいの、少し白いものの混じった黒髪の、小柄でがっしりとした体つきの男性だ。
「町長さんですか」
「ええ、ユゲの初代が功績を認められて、頂いた土地を収めています。
母に言われて家系の書物を持参しましたので、後でお見せしましょう」
笑顔で言いながら右手を出し、握手をする。
「ありがとうこざいます」
うん、他の召喚された人達の事って気になるから、記録が有るなら見て見たかったんだ。
もう一人の二十代前半に見える、明るい茶髪の、同じく小柄な青年が前に出る。
「ユゲ・リキ・ナカです。
母の元で宰相補佐をしております。
このまま適任者がいなければ仕事を継ぐ予定です」
彼もニッコリ微笑んで右手を出すので、僕も素直に手を出したら……やられた!
「兄さん!凄いよこの子!
このまま家に連れて帰りたい!」
「お前狡いぞ!俺だって触りたいの我慢したのに!
次は俺だ、貸せ!」
ゴツい男性二人に、まるで縫いぐるみの様に奪い合われた……。
この精神的ダメージは筆舌にし難い…………。
そしてそんな僕らを見ているナチは、呆気にとられた顔で、隣に立っているレンさんに耳打ちする。
「父様、義兄様達は確か…」
「ああ、確か母親の血が強く出たハーフだから、魔物の反応なのか?
成る程、これが通常の反応だとすれば、レニは随分冷静な態度だったんだな」
二人で納得し合ってるけど、そんな分析どうでもいいから助けろー。
スイが助けてくれました。
流石スイさん、凄く冷静に助けてくれました。
*****
「いやいや、先程は失礼した。
こう…何というか、抑えが効かない?」
「そんな感じですよね。
何だろう、触って触ってって言う感じが滲み出てると言うか」
「だよなぁ」
いや、今まで会った人の中で一番激しいから。
昼食を食べながらの会話は穏やかだった。
テーブルの位置が離れていたからね!
食事中もチラチラこっち見てたし、スッゴく怖い!
色々聞きたいけど、近寄りたくない!
だってレンさん親子は遠巻きに見てるだけなんだもん。
なので、昼食後、書物を見せてもらうのに、スイを防波堤代わりにソファーの後ろに控えてもらった。
しかし、スイが近くに居ると近寄って来ないのは何でだろう?
「これが我が家の初代が書きつけたものだ。
何でも同時に召喚されたフジ家の初代から、後のために書きつけを残した方が良いと言われて、どの家でも同じ様な記録が残っている」
フジさんか、確か医療大臣って紹介された黒髪の人がフジ何ちゃらさんだったよな。
少し古びている冊子の表紙には
【弓削 幸蔵】
と書かれていた。
名前の感じから昭和から召喚されたって人かな?
【蔵】って字を使っているイメージからの憶測だけど。
予想をつけて読み出したら、やはりそうだった。
書かれていたことを掻い摘んで纏めると、
【昭和の第二次大戦に上弓削村から出兵した、弓削家の三男。
学問好きで、兵法の書なども数多く読んではいたが、一兵の意見など上官は聞き入れず、見え見えの罠に嵌って隊は全滅。
爆発で脚を吹き飛ばされ、薄れていく意識の中で、眩い光に包まれたと思ったら、見知らぬ男達と広間で蹲っていたそうだ。
異国人の風体の人達が話しかけてくるけど、何を言っているのか分からない。
ただ気分が悪く蹲っていると、着物を着た若い男の身体に光がいくつか入って行くのが見えた。
同じように蹲っていた着物の男は立ち上がり、自分を始め他の男を指差し、空中に何か話しかけている。
すると自分の中にも光が入って来て、言葉が分かるようになった。
取り乱さずに済んだのは、若い男が自信あふれる笑顔だったから、奇怪な出来事にも冷静でいられた】
妖精の祝福受ける感じは同じだな。
その後は状況を聞き、戻れないのならここで第二の人生を歩むのもいいかと、協力する事となったそうだ。
そして、自分と若い男が中心で作戦を立て、戦いを終結させたそうだ。
うーん、歴史小説っぽかった。
正直なところ、そんな戦いの場に呼び出されなくて良かったと思う。
こう言う書きつけたものが各家系に有るのか。
ちょっと楽しみに思うな。
因みに同じ英雄家系のスイも僕の隣で、興味深げにユゲ家の書物を読んでいた。
1
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説


【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

嫌われ者の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。
家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。
なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる