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第三章 異世界の馬車窓から

スマホ要らず

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四人での夕食後、滞在する部屋で妖精達を呼んで、エネルギーチャージ?をさせた。

先日のように、寝てる時に集(たか)られると悪夢を見るからね。

妖精は、同じようにくっついても、魔物の人達みたいな抱っこが無いだけ精神的ダメージが違う。

しかしまあ他人から見ると、ふわふわした光が周りを飛んでいて、動物に囲まれているより一層と、ファンシーなんだろうな。 

つくづく思う、見た目幼児で良かった。

満足した妖精達が外へ出て行き、ニヤ達だけが残った。

『ねぇとうちゃん、明日は術で遊ぶ?』

「んー、明日はユゲの次男が会いに来るって言ってたから……」
しゅんとする二人に、なぜか罪悪感が。

「朝食の前なら練習できるかな」
うん、早目に起きれば問題ないよな。

『とうちゃんと遊ぶの嬉しいの』

「遊びじゃなくて練習な」
遊びなんて聞き応え悪いし、僕的には遊びで済ませらせないし。
だって気をつけてないとこの二人……。

「じゃあそうだなあ…、この短い針がここに来ても起きてなかったら起こしてくれ」

この世界にも時計は有る。
腕時計は無いけど、各部屋に置き時計が有る。
勿論アナログ時計だ。

そう言えば以前驚いたのが、職場の後輩の山田さん、高卒で入って来たんだけど、読めなかったんだよ、アナログ時計。
最初聞いた時、時計の見方が分からないって言う意味が分からなかったよ。

山田さん元気にしてるかな。
オタクだとか言う彼女ならこの世界楽しめただろうな。
まあ、僕もそれなりに楽しんでいるのかな?

明日は早起きだからもう寝よう。


*****


『とうちゃん、とうちゃん朝だよ!
遊ぼうよ~』

『早く起きるの~~!』

張り切ったニヤ達に起こされて、服を着替えていたら、スイが洗面器に水を入れて持って来てくれた。

「おはようございます、随分とお早いのですね」
「あれ、起こしちゃった?ごめんなさい。
ちょっと術の練習をしようと思って……」
僕が言うと、スイが一瞬ピタッと止まった。

「そうですか、私も同席させていただきますね」

デスヨネー。
最初にやらかしてから、術の練習はスイ監修の元となっております、はい。

スイが家の方に話を通して来てくれて、庭に出る。

「何の術にしようか。
まだ使った事無い術だとどんなのが有る?」
ニヤ達に聞くと、

『音の子はどう?』

ピヤが言うけど、音か……遠話とかかな?

『二人で一人なの。
一人呼んで一人別の場所に行ってもらうの』

うん、やっぱりそうみたい。
頭の中で呼んでみる。もう一人は……。

「もしもし、ニト、聞こえる?」

城に居るだろうニトの元へ行ってもらった。

『ん?この声ウチ?
もう帰って来たのかよ。
ん?どこに居るんだ?隠れてないで出てこいよ』

「隠れて無いよ。今、術の練習中でさ、妖精が近くに居ない?」
キョロキョロと周りを見渡すニトの姿が想像できる。

『んあ?あーあーあー、コイツね。
へぇ、遠くの奴と話せるのか。
コイツは便利だな。
戻ったらこれで遊ぼうぜ』

……あ…

「………………言葉……」
『あ、やべっ!』
スイの声を聞いた途端『仕事に行ってきます!』と慌てた声が遠ざかって行った。

「全く……何度言ってもあの男は……」
スイ様御立腹です。

『とうちゃんとうちゃん、音の子は他の事も出来るの』

『んーとね…うん、来た来た』

城の方から飛んで来たもう一人、ニトの元へ行っていた子が戻って来て口を開く。

『ふ~、本当石頭なんだからなぁアイツは。
仕事中じゃなきゃ良いじゃんか。
面白味のない奴め』

音の子の口からニトの声が……もしかして録音?

『あのね、僕たち音を覚えて後から出せるの』

『今のはさっき逃げて行った人、追いかけて聞いて来たんだよ』

通話と録音か、スマホ代わりになるな…なんて思っている背後から冷気が……。

「フフフフ、城に戻っての愉しみが出来ましたね…。
今の馬鹿の声は後日でも聞けるのですか?」
ああ…スイ様の素晴らしき笑顔が……。

「はい、いつでも再生出来るそうです」
「そうですか。
その時にはよろしくお願い致しますね」

ニトさん、ご愁傷様デス。


しかしまあ、音の子みたいな能力があるのなら、
「ねえ、見てきた物をそのまま絵に表す、なんて術は無いの?」
通話、録音と再生が有るなら、写真も有るのかな?と聞いてみたら、有りました。

『んとね、一人じゃ無理だけど、二人なら出来るよ』

記憶の子ってのが見た事柄を記憶して、人の頭に映像を共有する事が出来て、絵の子が人の記憶に有る映像をそのまま絵に出来ると。

しかも、妖精って同じ種族?と情報を共有出来るから、誰かが一度でも絵にした物は、いつでも誰でも描(えが)けると。

その説明を僕から聞いたスイが、
「それなら…初代様のお姿をこの手帳に記して頂くことは、出来ますでしょうか?」
胸ポケットから手帳を取り出し開くスイ。

絵の子は大きく頷き、

『何度も描いたことあるからラクショー』

と、開かれたページの上を飛ぶ。

すると、ポラロイド写真のように、人の顔が浮かび上がってきた。
…………うん、あの人物画像の面影あるよね、若いけど。
きっと多分あの人だよね、髭は無いし髪は長いけど。

「ありがとうこざいます。
家宝たさせていただきます」
深々と頭を下げるスイ。

僕は今の絵を見て思い浮かんだ人物を、記憶の向こうに投げ置く事にした。





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