27 / 161
第二章 色々やってみよう
妖術を教えてもらおう(今度こそ)
しおりを挟む「失礼します、お茶をお持ちしました」
会話が終わったタイミングでスイがワゴンを押して部屋に入って来た。
ドアの外で会話がいち段落つくの待ってたのかな?
それとも本当に今来たのかな。
先ずは僕の前にティーカップを置いてテーブルを回り、ニトの後ろからそっとティーカップを置く。
その時に「言葉」と小声で言ってたから、外でタイミング待ってたんだな。
言われたニトは「うへ~、バレた」みたいな顔でペロリと舌を出す。
「スイさん、別に僕は普通の言葉遣いで構わないですよ」
僕が言うと「よく言った」みたいに大きく頷くニト。
「いえウチ様、それはなりません。
プライベートならいざ知らず、今はウチ様に妖術をお教えすると言う仕事中なのですから」
ニッコリ笑ってこちらを見ているけど…目が笑ってないよね。
ニトは肩を竦めカップから紅茶を一口飲み、少々態とらしく声を出す。
「それではお茶をいただいたら、外で実際に術を発動させてみましょう。
言葉だけより、実際発動した方が理解しやすいと思いますよ」
もしかしなくてもニトってスイの事が苦手なのかな?
話を逸らすニトに、僕は乗る事にした。
「そうですね。よろしくお願いします」
「あはははは、ウチ様やる気が有って宜しいですねえ」
いやいや、それは余りにもわざとらし過ぎるよ。
ホラ、スイが口元笑っているけど凄い目つきで君の事見てますよー。
ああ、早く紅茶飲んでしまおう。
*****
中庭に出てスイの視線から逃れると、ニトは大きく伸びをした。
「はー、あの堅物め」
この人達の力関係も分からないし、ここは聞かなかった事にしよう。
「それじゃあ分かりやすいのと、危険が少ないので…水と風の妖精呼んでみて」
言われるまま頭の中で『おーい、水の子、風の子、聞こえてたら来てくれ』と呼びかけてみる。
ニヤ達みたいに呼んですぐ出てくる訳じゃないんだな。
待ってる間にニトも自分の妖精を呼ぶ。
「俺の妖精は光と土と火なんだけど、今は光と土の二人を呼んだ」
火の術は分かりやすくても危ないから、今回は呼ばないそうだ。
まぁ外と言っても城の中庭だし、下手に火の術を使って木が燃えたり、芝を焦がしたらいけないからね。
普段だと、書庫で読み物をして居る時など、暗くなったら灯り代わりに光の妖精を呼ぶそうだ。
確かに燃えやすい本が大量にある場所だと、火を灯すより光の術で明るくなるのなら、そちらの方が安全だよなあ。
そうこう喋ってるうちに、呼んだ妖精が集まって来た。
呼べばすぐ来るピヤ達は妖精王とか言うだけあって、やっぱり他とは違うんだな。
そう思ってると『当たり前』と胸を張る二人だった。
*****
「じゃあまず、俺が土の術でここに穴をあけよう」
足元の地面を指差しニトが言う。
その数秒後、指した地面がボコっと凹み洗面器程の穴が空く。
「今頭の中で深さ5センチ、直径30センチの穴が空くよう考えた。
勿論このままにして置けないから…」
穴を見ながらしばし待つと、穴は埋まり、元どおりの平らな地面に戻る。
ただし穴の空いた円形に、芝が剥げているが……。
「最初に指差したのは場所を確実に伝える為。
勿論目線でもおよその場所は伝わるし、頭の中で細かく言葉にしても良いけど、より確実で早いのは指差しかな」
成る程、細かく言葉だったら、
『今立っている足元から前方50センチの場所に指定サイズの穴を空けて』
と考えるより指差す方が早いな。
「目線だと、ふと逸れる事があり得るから。
例えば場所を特定しようとした時、誰かに呼ばれたとか、何かの気配がして振り向いたとかさ。
だから指差し確認が一番おススメ」
分かりやすいし、納得もできる。
「埋めるのは『今空けた穴埋めて』で通じるから簡単だね。
光なら『手元を照らして』『ありがとうもう良いよ』で良いけど、火や雷などの危険性があるものは、大雑把だと困った事態になるから気をつけて」
僕と一緒に話を聞いてるニヤ達も『そうそう』と頷いている。
「で光だと手元や部屋の中を明るくしてもらうのは勿論、他にもこんな使い方もある」
そう言ってニトが目を閉じた。
頭の中で指示を与えてるのかな。
暫くして目を開けあたりを見回し、城の中央館の三階の窓を指差す。
そこで光が点滅している。
「今、俺の爺さんがどこにいるか探してと伝えたんだ。
三階のあの部屋で仕事中だな」
「おお凄い、そんな事まで出来るんだ」
『あのね、探し物だけじゃ無いんだよ。
洞窟で穴が空いてたり、夜道で崖があるよとか、チカチカして教えてあげれるんだよ』
戻って来た光の妖精が告げる。
「点滅したら何か伝えたい事が有るって事なのかな?」
「俺はそうだと思ってるんだけど……聞いてみて」
少し自信なさげにニトは言うけど、その横で光の妖精は大きく頷いている。
「それで合ってるみたいだよ」
そっか、と小さく溜息をつき、
「ほら、そうなんだろうなと思っててもさ、言葉が通じないとその事が正しいのか思い込みなのか、勝手な判断って危険だろ?
間違えてなくて良かった」
ニトは嬉しそうに笑う。
雰囲気は伝わっても、やっぱり言葉って大事なんだよな、と思うのはこれで何度目だろう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
45
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる