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第一章 異世界だねぇ
真夏の夜の夢なら覚めて
しおりを挟むなんだろうなぁ……色々あり過ぎて、何をどうすれば良いのかさっぱりだ。
ソファーに戻って、膝を抱えてしまう。
「…………ち……ちんまい………抱っこしたい……」
何か物騒な呟きが聞こえて来たのは気のせいだ…。
「この祝福って、呪いの間違いなんじゃないの?」
勝手に寿命伸ばされて、見た目まで変えられて、おまけに元の世界に戻れない身体にまでされて、何が祝福なんだ。
「えー、長生き出来るし、力や知能も普通の人より高いし、運動能力も上だし、祝福の術も使えるし」
「祝福の術?魔法とか使えるって事?」
そう言えばそんな事も言ってた様な。
しかし魔法ねぇ…いよいよもって、後輩の趣味の世界ワードだ。
僕の管轄では無い。
「いや違いますよ。
魔物が使うのが魔法で、妖精の祝福の術は略して妖術です」
うわー、魔法より更に怪しさ倍増。
「世界には魔素が溢れており、それを取り入れ魔力に変換して、様々な現象を起こします。
その変換を自力で体内で行えるのが魔物です。
魔素の取り入れられる量や変換能力は、魔物それぞれなので、使える魔法もその力もそれぞれです。
対して人は、魔素を取り入れる事は出来ません。
全ての行動…火を起こす事なども自力でやらねばなりません。
自力で出来ない事は、自然に頼るしか有りません。
風を起こす事も、水を湧き出させる事も、物を凍らせる事も出来ません。
しかし祝福を受ける事により、祝福を与えた妖精との繋がりが出来ますので、その妖精に願う事で協力を得て、魔法の様な力を使う事が出来るのです」
うーん、つまり魔法は自分の中に力を取り入れて、超常現象をおこす。
妖術は自分の力でなく、外的要素(妖精からのアシスト)だと言うことかな?
「貴方は多数の祝福を受けていますからら出来ない事は無いと言っても過言では無いかと思われます………って真面目な話する時って、やっぱり真面目な話し方になっちゃうね。
これも一種の職業病?」
いや、知らねぇし……心の中で突っ込んでしまった……。
「時と場合によって使い分けられてて良いんじゃ無いですか?」
「だよね、TPOだよねー」
マキは気を良くした様だ。
僕の方は、脳の処理能力が追いつかな様で、頭痛がして来た。
熱も出て来たか?
小さくなった手を額に当ててると
「知恵熱?ちょっとごめんね」
マキがテーブルを回って来て、額に手を当てた。
「うーん、子供の身体だから、平熱が高いのか発熱なのかよく分かんないけど、熱っぽいみたいだね。
ちょっと横になるといいよ」
言いながら僕の隣に腰掛けて、ぽんぽんと自分の膝を叩くマキ……膝枕って事か?冗談じゃ無い。
マキが座った反対側に身体を倒し目を瞑る。
ちえーっ、と言いながら「上に掛ける物持ってくるね」とマキは部屋を出て行った。
横になっていると熱はグングン上がって来た。
ヤバイかこれ……。
*****
『……ちゃ…………とう………とうちゃん…』
どこかで女の子が父親を探している様だ。
『とうちゃんってば!起きて!』
何かに頬をペチペチ叩かれている?
『とうちゃん!』
え?父ちゃんって僕の事?
結婚はしてたけど、子供なんて作ってないし、それ以前のお付き合いでも、全く身に覚え無いんだけど?
いや、自分に覚えがないだけで実は……ってホラーなパターンか?
ガバッと起き上がり、周りを見回してみても誰も居ない。
何よりここは異世界だった。
万が一…億が一が有っても、僕の子供(仮定)がここに来れる分けが無い。
「何だ夢か」
ふうとため息をつき、かいていない汗を拭う。
『もう、やっと起きた』
それでも声は聞こえて来る……え?何?幽霊?
『どこ見てるの、ここなの!』
声のする方を見てみると、右肩に小さな女の子が……右肩…水子?
『何考えてるのよ、失礼なの!
私は妖精女王なのよ、幽霊なんかと一緒にしないで』
「妖精…女王?」
五センチくらいの小さな女の子、髪の色は玉虫色と言うのか、角度によって変化して、キラキラしている。
小さくて分かりづらいけど瞳の色は金色だ。
背中には髪と同じく、七色に光る透明な蝶の羽が付いている。
『わたしね、出遅れたの。
皆んなが急にどこか行って、居なくなったから探したら、もう皆んなとうちゃんに祝福あげてたの。
本当は一番初めの子が一番になるんだけど、皆んな嫌だって言うの。
出遅れちゃったけど、わたしもとうちゃんが良いなって思ったの。
だからわたしも祝福して、皆んなを押さえつけて一番になったの。
だからとうちゃんの、一番の妖精はこの女王様のわたしなの。
宜しくね』
いや、宜しくねって何が何だか分からない。
『えー、何で分からないの?
とうちゃんっておバカさんなの?』
いや、まずその父ちゃんって何だよ
『えー、だってとうちゃんって、何だか変な長い名前なのよね。
だからとうちゃんなの。
わかった?』
略したって事か。
そんで、一番って何だ?
『一番は一番だよ?
一番近くに居て、一番繋がってて、一番大好きなの~』
言いながら恥ずかしそうに両手で顔を隠す。
『皆んなもね、とうちゃんの事大好きだから、一番じゃなくても力貸してくれるって。
妖精は皆んな、とうちゃんの事大好きだよ』
言ってる間に、他にも小さな子供が沢山近寄って来る。
蝶々の羽の女の子、三角帽子の男の子、犬みたいな顔の子も居る。
皆ペタペタと触って来て、なんだか嬉しそうな顔をしているけど、何もしてないのに何でこんなに好かれてる?
『だってね、とうちゃんすっごく良い匂いするし、触ると気持ち良いの。
何だか大好きーー!って気持ちになるのよ』
……これは…もしやアレか?
動物に好かれる体質が、妖精も惹き付けてるのか?
女王以外も皆『好きー』『大好きなの~』って口にしながらくっついて来る。
モテモテだけど、微妙……。
『何でー、微妙とか酷い事言うの?
大好きなのに、意地悪言わないで~。
でも意地悪言っても大好きだよ』
言いながら右肩に居た女王は背伸びをしてう、ちゅ~ってほっぺにキスをして来る。
そうすると『ズルイ!』と他の妖精も顔に張り付いて次々とキスをして来た。
……犬に顔を舐めまわされてる感覚だ。
ベタベタ唾液がつかない分マシか。
『も~、だから犬とかと一緒にしないでよ』
……ん?待てよ……さっきから声出して無いよな?
『うん、そうね。
声なんか出さなくても、繋がってるんだから大丈夫なの』
…………何ーー⁈
繋がってるってこう言う事か!
思考筒抜け?
プライバシー皆無?
え?それって、僕めっちゃ沢山の妖精と繋がってるから、24時間365日考え垂れ流し状態?
『ううん、近くに居ると分かるの。
遠くに居ると分からないの』
遠くって?
妖精の一人……一匹?…一人が扉の前まで飛んで行き戻って来る。
『あそこまで行くと聞こえなかったよ』
あそこ…扉まで3メートルくらい?
動物が寄って来る範囲と同じくらい?
ならまだマシか?
『いくらなんでも、プライバシーは守るのよ』
それなら良かった。
それで普段はどうしてるの?ずっとくっ付いてる訳じゃ無いんでしょ?
『うん、いつもは妖精のお城に居るの。
それか遊んでるの。
フラフラもしてるの。
でもたまには近くに行って、ご飯貰うの』
ご飯?
何か食べ物用意しておくべき?
『ご飯は食べ物じゃ無いの。
祝福あげた人のエネルギーなの。
くっつくとお腹いっぱいになるの』
そんな事聞いたような?
『それでね、呼ばれたら飛んで来るの。
火とか、風とか、闇とか、名前呼ばれたら、一番近くに居た妖精が飛んで行くの』
ん?ちょっと分からない。
例えば火の妖精呼んで、火の妖精が来るのは分かる。
でもあの火の妖精とこの火の妖精は違う妖精なんじゃ無いのか?
赤い髪の男の子と女の子を指す。
『ううん、あの子もこの子もそのこも、皆んな同じ火の妖精。
力いっぱいになったから、あの子とこの子になったの』
…元々一人の妖精で、エネルギーって言うか、力が溜まったら分裂して別の個体になる…アメーバ方式で増えるのか?
『あめえば分からないけど、分かれるの合ってる。
だから一人の祝福で、皆んなと繋がるの』
分かったような分からないような……ここはもうそう言うもんだと思っておこう。
『難しく考えない一番。
楽しく生きるの一番』
ちっこいのに女王なだけ有って、大人?な意見だ。
その時
『こんな所に居た!
城に帰ると皆が居ないから、どうしたかと思った……』
新たに一人の男の子妖精が、窓をすり抜けて入って来て近寄って来る。
……が、僕の3メートルくらい側まで来たら、ピタッと止まってフルフル震え出した。
何事?と思って居たら
『好きーーーーーーー!!!』
と、すっ飛んで来て、ビタンと顔に張り付く……。
『好きー!好き好き!だーーい好き!』
わあぉ、熱烈……僕は顔から男の子を引き剥がす。
『あ~な~た~、何やってるの⁉︎』
右肩に居た女王のコメカミに、青筋が浮かんでいる。
妖精の女王の旦那って事は、妖精王か。
何だこれは。
できの悪い真夏の夜の夢か?
僕はハーミアか?
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